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「悪魔の兵器」地雷の恐怖-4月4日は国際地雷デー

下村靖樹フリージャーナリスト
IED攻撃を受けた直後のMRAP(耐地雷伏撃防護車両)(写真提供: ウガンダ軍)

今日4月4日は国際地雷デーです。

アフリカ取材を初めて間もない1995年。

終戦直後のルワンダで、私は不注意から地雷原に足を踏み入れた事があります。

地方の村を取材中、「内戦前に日本の協力で作られた井戸がある」という話に興味を持ち、村人の案内でその場所に向かった時のことでした。

膝上あたりまで生い茂った雑草をかき分けながら進むこと50メートル。

なんの気なしに後ろを振り返ると、雑草の陰から、倒れかかった標識がのぞいていました。

描かれていたのは、ドクロの下に×印が描かれた、いわゆる「地雷注意」を意味する絵。

橋に設置されていた「地雷注意」の標識(文中で言及している場所とは異なります)(撮影/著者 1995年)
橋に設置されていた「地雷注意」の標識(文中で言及している場所とは異なります)(撮影/著者 1995年)

「ここって、まさか地雷原じゃないよね?」と、前を行く村人に否定してくれることを願いながら尋ねると、「大丈夫、毎日牛が歩いているし、たまに人間も通っているから」との返答……。

あの時、足の裏から背筋に流れ込んできた悪寒は、今も忘れられません。

地雷の恐怖

第二次スーダン内戦が終結した直後、南スーダン内の学校に貼られていたポスター。子どもたちが地雷に触れないよう注意喚起していた。(撮影/著者 2005年)
第二次スーダン内戦が終結した直後、南スーダン内の学校に貼られていたポスター。子どもたちが地雷に触れないよう注意喚起していた。(撮影/著者 2005年)

地雷は大きく分けると、人を殺傷するための対人地雷と、戦車などの車両破壊を目的とする対戦車地雷に分けられます。

また対人地雷にはその目的によっていくつか種類があり、「地雷」のイメージとして広く浸透している「埋設されていて人が踏むとその圧力で爆発するタイプ」は、爆風型地雷。

その他にも散布型、指向性型などがあります。

地雷が恐ろしいのは、24時間365日、常に攻撃態勢にあることです。

その寿命は、構成する素材や埋まっている環境にもよりますが30年~60年といわれ、たとえ紛争が終結しても、ただ静かに誰かを傷つける日を待ち続けています。

対人地雷の製造と使用の廃止を目指して結成されたNGOの連合体「地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)」の「ランドマインモニター2017」によると、2016年にも8605人が被害に遭い(78%が民間人)、2089人が死亡。

1999年から~2016年の間に、1750人以上が地雷撤去作業中に命を落としています。

新たな脅威IED(即席爆発装置)

近年は、武装した非国家主体による活動が活発・拡大し、地雷に加え、新たにIED(即席爆発装置)も大きな脅威となってきました。

私もその存在を直近の取材で初めて身近に感じたのですが、それは地雷とはまったく別の怖さでした。

その被害は増加の一途をたどり、2016年には903件が発生し19246人が死傷しています(74%が民間人)。(※ 1)

爆破犯はこの木陰で、MRAPがIEDを埋設した場所に達したのを確認し起爆した。中央奥に見えるのが攻撃を受けた車両(写真提供: ウガンダ軍)
爆破犯はこの木陰で、MRAPがIEDを埋設した場所に達したのを確認し起爆した。中央奥に見えるのが攻撃を受けた車両(写真提供: ウガンダ軍)

IEDは爆発のタイミングを有線・無線を使って遠隔操作可能なため、必ずしも埋設する必要がありません。

つまり、隣を走行中の車や町中で野菜を売っている屋台が、突然爆発する可能性もあるのです。

例えるなら、地雷は「踏み出す一歩一歩が『黒髭危機一髪ゲーム』で剣を刺していくような恐怖」。IEDは「真っ暗なお化け屋敷の中を、手探りで恐る恐る進んでいく怖さ」。

同じ恐怖でも、両者の間に私はそのような違いを感じました。

直径1メートル近くあるタイヤが100メートル近く飛ぶほど、爆発力がある(写真提供: ウガンダ軍)
直径1メートル近くあるタイヤが100メートル近く飛ぶほど、爆発力がある(写真提供: ウガンダ軍)

しかし、その怖さの違いを現地の人に伝えたところ、「IEDと地雷?それはもちろん恐ろしいけど、気にしてたら生活できないよ。その瞬間、その場所にいたのが運が悪いのさ。交通事故みたいなもんだね」と、一笑に付されてしまいました。

廃絶への険しい道のり

1999年に発効したオタワ条約は、正式名称通り「対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄」に関する条約で、日本を含む164ヶ国が加盟(2018年4月3日現在)しています。

主要規定を略筆すると、「対人地雷を使用したり、貯蔵したり、新たに作ったりしない。保有している対人地雷を全て破棄する」となり(※ 2)、日本も、保有していた約100万個の地雷を2003年2月に破棄しました。

現在も、国連 PKO 局地雷対策サービス部(UNMAS)に約14億2410万円を拠出(※ 3)したり、NPO法人地雷廃絶日本キャンペーン(JCBL)などのNPOが精力的に活動すると共に、コマツ株式会社日建(山梨県)などの民間会社も、地雷除去用の重機を開発・除去活動を行ったりしています。

オタワ条約発効から19年がたち、条約発効時には約1億6千万個あると推計されていた対人地雷は、現在5千万個以下まで減少した見込みです。(※ 4)

その一方、対人地雷の大量保有国であるアメリカ(300万個)、ロシア(2650万個)、中国(500万個未満)は未だ条約に加盟しておらず、現状、廃絶への道のりは険しいと言わざるを得ません。(※ 5)

ウガンダの反政府組織「神の抵抗軍」では、子ども兵士使い地雷の有無を確認していた。(撮影/著者 2002年)
ウガンダの反政府組織「神の抵抗軍」では、子ども兵士使い地雷の有無を確認していた。(撮影/著者 2002年)

過去の取材を通して、残念ながら個人的には「世界から紛争をなくすことは、ほぼ不可能だ」と考えていますが、地雷(IED)は国際社会の関心が高まったことにより、オタワ条約加盟国からの廃絶に成功しました。

非国家主体の存在という大きな問題はあるものの、国際社会の力で限りなくゼロに近づけることは、決して不可能ではないはすです。

国際地雷デーの今日、地雷問題関連に取り組む主な組織を文中と本文下に関連リンクとして記しました。

「悪魔の兵器」地雷について人々の関心が高まれば、世界中の人々が安心して地面を踏みしめ、安全にどこにでも移動できる日を取り戻せるはずです。

少なくとも一刻も早く、「地雷・IED=交通事故」と考える人がいなくなることを、願ってやみません。

(※ 1)Action on Armed Violence (IMPROVISED EXPLOSIVE DEVICE (IED) MONITOR 2017)

(※ 2)外務省 対人地雷の禁止条約の主要規定

(※ 3)財務省 平成28年度決算

(※ 4)地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)」の「ランドマインモニター2017

(※ 5)他の大量保有国は、パキスタン(約600万個)、インド(400~500万個)/ICBLランドマインモニター2017

【関連リンク】

特定非営利活動法人 難民を助ける会(AAR)

認定特定非営利活動法人 日本地雷処理を支援する会

ピースボート地雷廃絶キャンペーンP-MAC

対人地雷禁止条約・対人地雷問題(外務省)

CMACに対する日本の協力(JICA)

フリージャーナリスト

1992年に初めてアフリカを訪問し、「目を覆いたくなる残酷さ」と「無尽蔵な包容力」が同居する不思議な世界の虜となる。現在は、長期テーマとして「ルワンダ(1995~)」・「子ども兵士問題(2000年~)」・「ソマリア(2002年~)」を継続取材中。主に記事執筆や講演などを通し、内戦や飢饉などのネガティブな話題だけではなくアフリカが持つ数多くの魅力や可能性を伝え、一人でも多くの人にアフリカへの親しみと関心を持ってもらう事を目標に活動している。 

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