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行列必至の名店のパンやラーメンが味わえる 国産新麦を楽しむ「麦フェス2021」9/11スタート

清水美穂子ブレッドジャーナリスト
国産新麦の魅力を味わう「麦フェス2021」(写真提供:新麦コレクション)

国産新麦の収穫祭「麦フェス」特設サイトでオンライン開催

新米や新蕎麦と聞くとありがたい気持ちになるものだが、小麦にも新麦はある。人気店のパンを中心に、国産の新麦を楽しもうというフードイベント「麦フェス」が9月11日から開催される。2017年に始まったこのイベント、オンラインでの開催は、5.5万人の来訪者を集めた昨年に続いて2回目。今年も「麦フェス」特設サイトでは、9月11日(土)から11月14日(日)、九州から北海道までの新麦前線の北上に伴って、全国の有名店のパンやラーメンなどの小麦商品を購入できるほか、小麦の品種紹介や生産者による小麦畑の動画配信で、国産小麦について知ることができる。

8月に九州から北上する新麦前線。(画像提供:新麦コレクション)
8月に九州から北上する新麦前線。(画像提供:新麦コレクション)

採れたて、挽きたての「新麦」という新たな価値観

戦後、日本のパンは北米から輸入された小麦を主体に作られてきたが、2009年に北海道の優良品種に認定された「ゆめちから」を筆頭に、パンに向く上質な小麦が国内でも積極的に作られるようになり、おいしくて安全な小麦を求める人々の意識の高まりによって普及した。それに伴い、新麦という新たな価値観にも注目が集まっている。

麦フェスを主催するのはNPO法人新麦コレクション(本部:さいたま市浦和区、代表:池田浩明さん)。小麦の生産者、製粉会社、流通業者、ベーカリーをはじめとする小麦加工に携わる職人、食べる人たちのコミュニティを創出し、技術講習会や国産小麦の未来を考えるシンポジウム、今回のようなフードイベントを企画運営している。

新麦コレクションでは新麦の定義を、「その年に収穫した製粉2kwヶ月以内の麦」として、生産者や製粉会社と話し合いにより解禁日を8月の九州から10月の北海道まで設定、新たな価値観を提唱してきた。解禁日を決めてみんなで収穫を祝う仕組みは、ボジョレーヌーヴォーに倣った。

茨城県産小麦「ゆめかおり」の生産者 ソメノグリーンファーム(画像提供:新麦コレクション)
茨城県産小麦「ゆめかおり」の生産者 ソメノグリーンファーム(画像提供:新麦コレクション)

あの人気店の今だけしか食べられないパン

麦フェスは前半と後半に分かれて開催され、第一弾は九州、山陰、東海、関東の新麦を使った商品を9月11日から10月3日まで販売する。店舗ごとに販売期間と限定数があり、売り切れ次第終了となる。リアル店舗では行列必至の人気店ばかりなので、早めにチェックするのがおすすめだ。

Zopf「新麦ゆめかおりパンセット」(画像提供:新麦コレクション)
Zopf「新麦ゆめかおりパンセット」(画像提供:新麦コレクション)

千葉県・松戸の「Backstube Zopf(パン焼き小屋 ツオップ)」は、「新麦ゆめかおりパンセット」を出品。トマトとオリーブのパンやオレンジ食パン、クロワッサンなど、すべてのパンに茨城県産の新麦「ゆめかおり」(前田食品)を9割以上使用している。茨城パン小麦栽培研究会のメンバーが大切に育てた「ゆめかおり」は、ミルキーな味わいが特徴だ。

SHŌPAIN ARTISAN BAKEHOUSE「新麦ARTISAN2021」(画像提供:新麦コレクション)
SHŌPAIN ARTISAN BAKEHOUSE「新麦ARTISAN2021」(画像提供:新麦コレクション)

栃木県・那須塩原の「SHŌPAIN ARTISAN BAKEHOUSE(ショウパンアルティザンベイクハウス)」からは「新麦ARTISAN2021」。前出の「ゆめかおり」を4割使用した「新麦カントリーブレッド」や、愛知県産新麦「ゆめあかり」(布袋食糧)の「新麦熟成バゲット」、熊本県玉名産PremiumT(熊本製粉)100%の「新麦クロワッサン」、キャロットケーキなどの焼き菓子もセットになっている。

「新麦で365日とジュウニブンと二足歩行」。人気商品の詰め合わせ。(画像提供:新麦コレクション)
「新麦で365日とジュウニブンと二足歩行」。人気商品の詰め合わせ。(画像提供:新麦コレクション)

東京都の人気店「365日」「ジュウニブンベーカリー」「二足歩行 coffee roasters」などを運営する「ウルトラキッチン」からは「新麦で365日とジュウニブンと二足歩行」のセット。3ブランドの人気商品を詰め合わせる。福岡県産みなみの新麦(大陽製粉)を使った「365日×食パン」など、新麦バージョンは今だけだ。

ちなみに第一弾でラーメンは超人気店「らぁ麺 飯田商店」(神奈川県)が出店。そのほかのベーカリーや商品についての詳細は特設サイトを参照されたい。後半の第二弾は10月20日から11月14日まで、東北、北海道の新麦を使った商品が販売される。

自然の農産物は均一ではないということも含めて楽しむ

北海道十勝の小麦(はるきらり)生産者、前田農産の前田茂雄さん(画像提供:新麦コレクション)
北海道十勝の小麦(はるきらり)生産者、前田農産の前田茂雄さん(画像提供:新麦コレクション)

2015年に新麦コレクションを発足して6年になる池田さんに、国産小麦を取り巻く人々の意識について、聞いてみた。

「以前は安心・安全イメージで国産小麦を選ぶ方が多かったと思いますが、最近は純粋に味で選ぶ方が増えてきたと思います。また、北海道が主力だったのが、日本各地で個性的な小麦が認知され、地産地消の取り組みも広がってきています」。

滋賀県日野町でディンケル(古代)小麦を育てる大地堂の廣瀬敬一郎さん(画像提供:新麦コレクション)
滋賀県日野町でディンケル(古代)小麦を育てる大地堂の廣瀬敬一郎さん(画像提供:新麦コレクション)

2010年代頃からパン用小麦の品種銘柄を目にすることが多くなった。小麦を「製品」ではなく「農産物」として捉える感覚が、個人経営の小規模ベーカリーを中心に浸透した。いつでもどこでも安定した同じ味にはならないが、「自然のものは均一ではない」ということも了解の上で楽しんでしまう新しい価値観だ。国産小麦を積極的に用いるベーカリーでは、自分の足で小麦畑に赴き、生産者と交流する機会を持っている。

こうした店でパンを買う人が、作り手の顔だけでなく、小麦畑を思い浮かべ、自然に感謝できるようになる日もそう遠くないかもしれない。

ブレッドジャーナリスト

東京出身。2001年より総合情報サイトAll Aboutでガイドを務めることにより、パンに特化した取材執筆活動を開始。注目のベーカリーとつくり手についてWeb、TV、ラジオ、新聞、雑誌等メディアで発信、紹介する一方で、消費者動向やトレンド情報を業界に提供、ベーカリーと消費者の相互理解を深める活動をしている。取材執筆、企画監修、講師、各種コンテスト審査員、コンサルティングなども行う。主な著書『BAKERS おいしいパンの向こう側』(実業之日本社)『日々のパン手帖 パンを愉しむsomething good』(メディアファクトリー)『おいしいパン屋さんのつくりかた』(ソフトバンククリエイティブ)他

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