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「不倫」したら懲戒処分?~懲戒処分について学びましょう~

嶋崎量弁護士(日本労働弁護団常任幹事)
(写真:アフロ)

こんな記事を目にしました。

警察庁は25日、昨年1年間に懲戒処分を受けた全国の警察官と警察職員は前年より6人少ない260人だったと発表した。

・・・

処分を受けた理由は、不倫などの異性関係が83人で最も多く、窃盗・詐欺・横領が57人、交通事故・違反は40人だった。

出典:読売新聞ウェブサイト

不倫は懲戒処分?

警察関係者で「不倫」が懲戒処分になるという報道に、驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。

しかも、最多の処分人数というのですから・・・・

近時何かとゴシップで世間を騒がせる「不倫」ですが、犯罪行為ではない完全な私生活上の問題です。私生活上の問題なのに、職場で懲戒処分対象になってしまうことには、私も強い違和感があります。

実は、「不倫」が懲戒処分の対象となるのは、警察官と警察職員の場合だからであり、少し特殊ケースといって良いでしょう。

懲戒処分については、公務員でも予め基準が整備されており、これに該当するケースのみが処分対象になります。

そして、警察官と警察職員(国家公務員と地方公務員の双方がいます)に関する懲戒処分の指針では、私生活上の行為の類型として「不適切な異性交際等の不健全な生活態度をとること」が基準に挙げられているのです(ただし、処分は一番軽い「訓戒」のみ)。

警察官などは、「不倫」がこの基準にあたるとして、処分対象になりうるのです。

とはいえ、実際に「不倫」を理由に処分された警察官と警察職員がそれほど大人数だったのかは、不明です。

同じテーマの報道ですが、以下の記事をご覧下さい。

理由別では、盗撮や強制わいせつ、セクハラといった異性関係が83人

出典:朝日新聞

こちらの報道も踏まえると、「異性関係」として発表される類型には、盗撮や強制わいせつ、セクハラと行った犯罪行為などが含まれているようです。

ですから、警察官と警察職員の処分でも、「不倫」を理由にしたものの件数ははっきりしません。

警察関係者が性犯罪加害者となる事件報道は比較的良く目にしますし、社会全体でセクハラ事案が増えていることなどもあわせて考えると、「異性関係」が全体件数で一番多い点は合点がいきます。

民間では・・

結論からいえば、民間労働者で、「不倫」だけを理由にした懲戒処分(たとえ軽い処分でも)は有効にはなり難いだろうと思います。

民間の労働者に対して、懲戒処分が有効になるには、1懲戒処分の根拠規定があること、2懲戒事由に該当し客観的な合理性があること、3懲戒に相当性があること、が必要であり、これを欠くと権利の濫用として無効となります(労働契約法15条)。

この点、私生活上の行為に過ぎない不倫は1懲戒処分の根拠にはあたらない場合がほとんどでしょうし、仮に根拠規定があっても、2合理性も3相当性も欠けるケースが殆どでしょう。

そもそも、「不倫」に限らず私生活上の非行について懲戒処分が有効となり得るのは、企業秩序に関連したり企業の社会的評価を毀損したりするようなケースです。たとえ道徳的に問題があろうと「不倫」は犯罪行為でもない以上、企業秩序に関連するケースは想定し難いのです。

あり得るとすれば、社内での「不倫」などに端を発して著しく職場秩序を乱すような特殊ケースでしょうが(職場の雰囲気を悪くした程度ではダメ)、それでも重い懲戒処分が許されるとは考え難いです。

なお、他の類型の公務員については、各自治体などの全ての具体的な処分規定を確認しないと断言できませんが、「不倫」が処分基準に該当するケースは希有と言えるだろうと思います。

結論として、他の職場と比べると、警察関係者が格段に「不倫」に対して厳しい基準が定められているといえるでしょう。

学ぶべき教訓は

皆さんに知っていただきたいのは、一般論として懲戒処分(特に私生活上の問題)は簡単ではない!ということです。

色々な職場で、使用者が労働者に対して安易に懲戒処分を出したり、懲戒処分を出すという脅しをかけたりするケースが見られます。

経営者と比べて弱い立場の労働者は、どうしてもそういった脅しに恐怖を感じてしまいがちです。ですが、実際に懲戒処分、とりわけ「不倫」などのような私生活上の問題を理由に行う懲戒処分は、簡単には有効になりません。

私生活上の問題とはいえやましい気持ちがあると弱気になってしまいがちですが、不当な脅しには屈しないように、ご注意を。

とはいえ、懲戒処分は個別具体的に判断されるので、一般論では判断がつきにくいものです。

悩んだら気軽に労働側の弁護士など専門家にご相談下さい。

以下であれば、弁護士による無料電話相談もやっていますのでお気軽に。

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ブラック企業被害対策弁護団(メール受付あり)

また、労働組合にご相談いただくのも有効です。

特に、職場に労働組合がある場合、その職場の処分基準について詳しく把握している場合が多いです。まずは最優先で職場の労働組合へご相談されることをお勧めします。

弁護士(日本労働弁護団常任幹事)

1975年生まれ。神奈川総合法律事務所所属、ブラック企業対策プロジェクト事務局長、ブラック企業被害対策弁護団副事務局長、反貧困ネットワーク神奈川幹事など。主に働く人や労働組合の権利を守るために活動している。著書に「5年たったら正社員!?-無期転換のためのワークルール」(旬報社)、共著に「#教師のバトン とはなんだったのか-教師の発信と学校の未来」「迷走する教員の働き方改革」「裁量労働制はなぜ危険か-『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(いずれも岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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