「故朴元淳ソウル市長の性的言行はセクシャルハラスメントに該当」…韓国国家人権委が結論

昨年7月、ソウル市の山中で自死した朴元淳前ソウル市長。ソウル市提供。

昨年7月、突然の自死を選んだ朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長。その背景には部下へのセクシャルハラスメントが明るみに出ることへの心的負担があったとされる。事件から半年を経て、韓国の国家人権委員会が調査結果を発表し、朴氏の行動に問題があったと結論付けた。

●広範囲にわたる厳格な調査

25日、韓国の国家人権委員会は全員委員会を開き、故朴元淳ソウル市長が業務と関連し被害者A氏に行った性的な言行は、「国家人権委員会法」におけるセクシャルハラスメント(性戯弄、性的嫌がらせ)に該当すると判断した。

同委員会はこの席で、ソウル市など関係機関に被害者の保護および再発防止のための改善を勧告することを決定した。会議後、10ページにわたる結果資料が公開された。

韓国の独立機関である国家人権委員会は、昨年7月30日に故朴元淳前市長のセクシャルハラスメントに対する職権捜査を行うこと決め、▲ソウル市長秘書室の運用慣行、▲朴市長によるセクシャルハラスメントおよび黙認、幇助の有無、▲セクシャルハラスメント、性暴力事件の処理手続きなどについて総合的に調査してきた。

なお、朴元淳前ソウル市長のセクシャルハラスメント疑惑に関する調査結果の発表は、この度の人権委のものが最後となる。

昨年12月29日に5か月の調査の末に警察が行った発表では、「朴前市長の死亡により事実関係の確認に限界がある」として被疑者死亡による公訴権消滅という従来の結論をなぞるだけだった。警察は当時、自死の動機についても「具体的な動機は遺族と故人の名誉を考慮し明かせない」とした。

続く昨年12月30日にはソウル北部地方検察が、朴前市長が自死した前日の7月8日、「今回の波は私が越えられないかもしれない」「余りにも多くの人に面目が立たない。どれだけ(その間)皆が手伝ってくれたか」というメッセージを関係者に送っていたと明かしているが、いずれも具体的な行動を明らかにするには至らなかった。

人権委の調査は広範囲に及んだ。

市庁内の現場調査をはじめ、被害者への二度にわたる面談調査、合計51人におよぶソウル市の前・現職員および知人への調査、ソウル市・警察・検察・青瓦台・女性家族部が提出した資料の分析、被害者の携帯電話に対するデジタルフォレンジック鑑定などを通じ「最大限客観的に事件の実態を明らかにしようと」した。

人権委はまた、今回の調査は朴前市長が死亡したことにより、防御権を行使できない特性を考えて、事実について「より厳格に判断した」と明かしている。

人権委は調査の目的について「捜査機関とは異なり、被調査者(朴前市長)に対する措置だけでなく、被害者に必要な救済措置をはじめ、類似・同一な行為の再発を防止するための制度・慣行などの改善が主要な目的」と説明している。

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●争点1:ソウル市の認識と慣行の問題

具体的に見てみる。今回の事件で朴市長によるセクシャルハラスメントの被害者となった女性A氏は、秘書室に所属する秘書であった。

人権委によると、A氏は市長の日程管理や日課の全てをチェックし補佐する業務の他に、シャワー前後の下着の管理や、薬の代理処方・服用のチェック、血圧測定および旧正月や秋夕など節句の買い物など、私的な領域における労務まで行ったとした。

そして、こうした秘書業務の特性が「業務を遂行する者と受ける者の間の親密性に影響を与えるだけでなく、公的な関係ではない私的な関係の親密さとして誤認させる可能性がある」と指摘する。

人権委はまた、「秘書室の職員たちが朴市長と被害者を『格別な関係』や『親密な関係』と認めることで、これを『問題』として見なすことができなかった」ことと、「被害者もまた秘書に在職していた当時、積極的にこうした労働を遂行した」ことの背景には、「こうした義務が秘書の業務として正当化され、問題の本質が歪曲された」点があるとした。

さらに、朴前市長が市長室のデスク秘書に20〜30代の新入り女性職員を配置してきたことについて、「市長室の秘書は『ソウル市の顔』であり、雰囲気を柔らかくするなど他人に気を遣い世話を焼くケア労働・感情労働は女性に合っているという認識と慣行が反映されたもの」と判断した。

25日に国家人権委員会で開かれた全員委員会の様子。写真の人物は崔永愛(チェ・ヨンエ、70)国家人権委員会委員長だ。写真は合同取材団提供。
25日に国家人権委員会で開かれた全員委員会の様子。写真の人物は崔永愛(チェ・ヨンエ、70)国家人権委員会委員長だ。写真は合同取材団提供。

●争点2:朴市長の言行はセクシャルハラスメントなのか

人権委は本論に入る前に、セクシャルハラスメントの定義を今一度行っている。「1970年代の米国で、男女の間の不平等な権力関係から発生する、雇用上の違法な性差別の新たなパターンとして概念化された」とした。

そして韓国では1995年の「女性発展基本法」でセクシャルハラスメントを初めて法律で規制し始め、人権委も設立当時の2001年からセクシャルハラスメントに対する調査や、救済業務を担当してきたと明かした。

『国家人権委員会法』においてセクシャルハラスメントとは、業務・雇用その他の関係から公共機関の従事者および使用者または勤労者がその職位を利用したり、業務などと関連し性的な言動などで性的な屈辱感・嫌悪感を感じさせたり雇用上の不利益を与えることをいう。

この点、朴前市長はどうなるのか。人権委は具体的な例を挙げている。

「夜遅くに被害者に対し不適切なメッセージと写真、アイコンを送り、執務室でネイルアートをした(被害者の)爪と手を触ったという被害者の主張は事実として認められる」とし、このような朴前市長の行為は「性的な屈辱感または嫌悪感を感じさせる性的言行にあたるため、セクシャルハラスメントに該当する」と結論付けている。

このような結論を下すに当たり、前述したように人権委は朴前市長が死亡しており防御権を行使できないことから、より厳しい基準で事実認定に臨んだとしている。

被害者の主張以外の行為については、これを聞いたという参考人の陳述が無く、携帯電話のメッセージなどの立証資料が無い場合には、事実と認めなかった。

また、セクシャルハラスメントとする認定においても、性的な言行の水位や頻度ではなく「公的な領域での業務関連性や性的な言行の有無が重要である」との見解を示し、この事件の場合には上記の認定された事実だけでもセクシャルハラスメントと充分に判断できるとした。

●ソウル市は「見て見ぬ振り」をしたのか

ソウル市の「黙認および幇助」、つまり朴前市長によるセクシャルハラスメント行為を知っていても沈黙したり、さらにはその行為がより容易になるように助けていたという動きについて、人権委は「把握できなかった」とした。

より正確には、被害者A氏による異動の要請があり、上司たちの引き留めがあったことは事実であるものの、引き留めた人物らが異動要請の背景に朴前市長のセクシャルハラスメントがあったと認知していなかったとするものだ。

人権委はしかし、ソウル市のような自治体の首長を補佐する秘書室が、セクシャルハラスメントの属性や位階構造などを認識できず、二人の関係を親密なものとしてのみ受け止めていた「低いジェンダー認知感受性は問題」との判断を示した。

また、朴前市長が自ら命を絶つ前日、被害者A氏が同市長を告訴した事実が朴前市長に伝わり、これが自殺の引き金となったという観点から、「被訴事実の流出」有無も今回の調査対象になった。

これについて人権委は「警察庁、検察庁、青瓦台などの関係機関が保安を理由に資料を提出せず、朴前市長に携帯電話のデジタルフォレンジック調査の結果も入手できなかった。有力な参考人も『捜査中である』という理由で答えなかった」とその限界を明らかにした上で、「どうやって朴市長に伝わったのかの経緯は確認できなかった」とした。

なお現在、この件については南仁順(ナム・インスン)共に民主党議員と、キム・ヨンスン韓国女性団体連合元代表が関与したとの疑惑があり、警察が捜査中だ。

●制度としての問題

韓国ではここ数年、地方自治体の首長による部下へのセクシャルハラスメント事件が相次いでいる。18年3月に被害者キム・ジウン氏が暴露した安熙正(アン・ヒジョン)前忠清南道知事、20年4月に明らかになった吳巨敦(オ・ゴドン)前釜山市長によるもの、そして今回の朴元淳前ソウル市長だ。

こうした特徴について人権委は、「自治体首長が持つ権力と被害者との不均衡がひどく、内部のセクシャルハラスメントを訴えるシステムを利用する場合、機密の保持ができない可能性がとても高い上に、公正な調査を期待できない」と指摘した。

これを改善するためには「独立的で専門性を持った外部の単位が事件調査を専門に行い、実効性のある対策を作る必要がある」とした。

また、自治体首長みずからによる「セクシャルハラスメントや性暴力を行わないという原則と、性平等な組織文化の定着に向けた意志を表す宣言や立場表明が必要」と提案した。

人権委はさらに、今回の事件におけるソウル市の環境についても苦言を呈した。被害者A氏はソウル市に勤務していた4年の間、公共機関の従事者が義務的に受けねばならないセクシャルハラスメント予防教育を一度も受けず、市長室の職員の同教育履修率も3割に達しなかったという。

被害者A氏は昨年4月に、別の秘書室の職員から性暴力の被害に遭っている。当時、「秘書室ではこの事件をどう処理してよいかほとんど分かっておらず、二次被害予防などの初動に失敗した」と人権委は発表している。特に、被害者を保護する責任を見過ごしたとした。

職場でのセクシャルハラスメントにおける二次被害とは

人権委では今回の報告書を通じ、職場でのセクシャルハラスメントにおける二次被害を「直接的な被害以降、事件に対応する課程でセクシャルハラスメント加害者、事業主、上級者(上司)、同僚、セクシャルハラスメント業務担当者などにより発生する不利益および精神的な被害」と位置づけている。

これにより、被害者はセクシャルハラスメント自体を問題視できないようなったり、事件そのものよりも大きな苦痛を受けることがあり、二次被害によって職場を辞める場合がより多いとしている。この部分に対し、「労働権の観点からより積極的な対応が必要」としている。

人権委はまた、2018年以降韓国で法整備が進み、特に2019年12月25日に施行された「女性暴力禁止基本法」では二次被害を明示しているとしながらも、「実際にこれを施行している機関を探すことは難しい」と説明している。関連規定、マニュアルの策定が必要という指摘だ。

25日の全員委員会の様子。写真は合同取材団提供。
25日の全員委員会の様子。写真は合同取材団提供。

●総合意見「セクシャルハラスメントが減らない理由は何か」

報告書の末尾で人権委は「セクシャルハラスメントは権力関係により発生する」と再び強調している。通常、権力で優位に立つ男性が女性へと、職場内の高い地位にある上司が部下へと、年配の人物が年下の人物へと、正社員が非正規雇用の人物へとセクシャルハラスメントを行使するというものだ。

そして、こうした構図が朴元淳前ソウル市長の場合にも当てはまったとする。朴氏は9年間ソウル市長の職にある有力な次期大統領候補だった反面、被害者A氏は下級公務員であり位階関係にあることは明白だった上に、前述したようにジェンダーの役割に対する固定観念に基づく組織文化の中で、セクシャルハラスメントはいつでも発生する蓋然性があった、というのだ。

また過去、人権弁護士として警察による市民への性拷問事件や、大学でのセクシャルハラスメント事件に積極的に関与するなど、女性の人権問題に誰よりも熱心だった故朴元淳前ソウル市長が、告訴されたことが衝撃だったと明かしている。

さらに、これと同じくらい衝撃だったこととして以下のように言及した。

セクシャルハラスメントを法的に規制して20年が経つにもかかわらず、職場内のセクシャルハラスメントが減らない理由は何か、むしろ二次被害が深まる理由は何か、セクシャルハラスメントの被害者たちはなぜ勤務を続けることが難しいのか、加害者に対する規制を強化することで全ての問題を解決できるのか、セクシャルハラスメント発生において組織の責任はないのか、といった多くの根本的な質問を投げかけた

その上で、「韓国社会ではこれから『セクシャルハラスメント』への観点を‘性的な言行の水位や頻度’から‘雇用環境に及ぼす影響’として、‘拒否意思の表明’の有無ではなく‘権力関係の問題’として、‘親密性の程度’ではなく‘公的な領域’と認知しているか否かで、‘被害者/加害者個人の問題’ではなく‘組織文化や位階構造の問題’として認識を転換するべき」と提起した。

人権委はまた、「公的な領域で表現されるあらゆる性的な言行は労働環境を悪化させるという側面からセクシャルハラスメントに該当する」とし、こうしたことが起きる場合には組織の構成員の介入が必要であるとした。

この認識が無い場合、職場内で誰かが同僚や部下職員を性的な対象化とする、セクシャルハラスメントの本質が隠れ、個人の性的な逸脱として歪曲される可能性があるというものだ。人権委は「労働の現場は性的な言行が許される空間ではなく、その類型や程度、当事者間などにかかわらず、公的に制限される必要がある」と結論付けた。

なお、人権委は最後に今回の調査を振り返りながら、韓国社会における性平等の水準が外見上多くの進展を見せているのにもかかわらず、雇用・政治など主要な領域での性別格差が依然として存在していると指摘した。

なお、こうした指摘は昨日明らかになった正義党代表による同党所属議員に対するセクシャルハラスメント事件にも通じるものがある。被害者の張惠英(チャン・ヘヨン)議員が心境を明かした文章はぜひ読んでいただきたい。以下の記事に全文がある。

左派政党・正義党代表、同党女性議員へのセクシャルハラスメントで解任

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20210125-00219342/

●被害者「社会が変わるべき」

今回の人権委の発表を受け、各所からの反応が相次いだ。

まず、被害者A氏は弁護団を通じ以下のコメントを寄せた。

4年間とても苦しかったです。過去の6か月はもっと苦しかったです。人権委員会の発表には未来に対する話も多く含まれていました。私たちの社会が変わっていくべき部分への言及がありました。事実の認定、真実の究明が重要でしたが、私の被害事実が詳細に示されることよりも重要なことは、国家機関が責任を持って膝を突き合わせて議論する時間であり、この時間こそが私たちの社会を改善させると考えます。

弁護団と市民団体はさらに立場表明文の中で、「これからは責任を取るべき人が責任を取る時間」とし、朴前市長の携帯電話のデジタルフォレンジック調査や、告訴の事実を朴市長に漏洩した人物の辞職と謝罪を求めた。

一方、かつて朴前市長を補佐していた秘書室長オ氏は、人権委の調査に対し「被調査者(朴前市長)が防御権を行使できない状況で下されたセクシャルハラスメントとの判断に遺憾を表明する」と明かした。

また、朴氏が所属していた与党・共に民主党は26日、「国家人権委員会の判断を尊重する」と発表した。その上で「被害者とソウル市民をはじめとする国民の皆さんに心労をおかけしたことに謝罪する」とした。

ソウル市でも25日、女性家族政策室長が「人権委で明かされた大部分に同意する」とし「ソウル市として具体的な対策を決めて積極的に進めていく」とコメントした。