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「日本を右傾化させた」安倍首相の辞任、韓国メディアはどう報じたか

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
28日、会見で辞意を表明する安倍晋三首相。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2010年代の日本の「顔」とも言うべき史上もっとも長く総理を務めた安倍晋三首相の辞任は、韓国でも「電撃辞任」と大きく報じられた。その論調は、日韓関係の落ち込みから否定的に評価する向きが強かった。

◎日本に「右傾化」をもたらした

本稿では3つの分野に分けて、韓国の新聞媒体での報道内容を紹介する。まずは、7年8か月に及んだ安倍政権の総評だ。

まずは経済について、韓国で最大の発行部数を持つ保守系日刊紙の『朝鮮日報』は、「アベノミクスで日本経済に活気を吹き込んだが、お金をばらまき過ぎて長期的に日本経済に大きな負担を与えたとの批判もある」と目玉政策のアベノミクスに触れた。

同じく代表的な保守系日刊紙の『東亜日報』も「アベノミクスにより、日経平均株価が2012年の8000円から2019年には2万3000円となった」とするも、「時間が経つにつれ失速し、2019年の第四四半期のGDP成長率はマイナス1.6%だった」とやはり否定的な論調だった。

政治面においては「忖度」がキーワードとなった。

『朝鮮日報』が「2014年に内閣人事局を新設し官僚たちを掌握、忖度がまん延するようになり、自民党の派閥政治はより深化したという評価が支配的」とする一方、進歩系日刊紙『ハンギョレ』は「官僚たちが総理の顔色だけをうかがう『忖度現象』の弊害が深まり、側近たちが特別な恩恵を受けるスキャンダルも続いた」と、その問題点を挙げた。

何よりも各紙が言及したのは「右傾化」だった。

『朝鮮日報』は「総理に在籍する間、日本はより右傾化し、改革の雰囲気が無くなったという評価を受ける」とし、社説では「彼(安倍首相)は日帝の侵略戦争を事実用正当化しながら総理の職を遂行しはじめた」と触れた。

やはり保守系日刊紙『東亜日報』も「慰安婦に強制性を認めた河野談話、過去事謝罪の模範とされる村山談話を修正すると歴史修正主義的な姿を見せた」と触れた。

『ハンギョレ』も「安倍総理の在任期間中日本は急激に右傾化した。日米同盟を強化し、集団的自衛権の法制化を強行し、平和憲法9条を変えようとする改憲を根気強く推進した」と続いた。

さらに『ハンギョレ』と並ぶ代表的な進歩系日刊紙『京郷新聞』も、「歴史の中の安倍総理は、最長寿総理という栄光よりも、敗戦国日本の『戦後体制脱却』と『戦争できる普通国家』のために持続的に右傾化を追及した総理として評価されると見られる」とした。

このように従来、日本との距離が近いとされてきた保守紙も、対等な日韓関係を追求する進歩紙いずれも「右傾化」と表現しているのは興味深い。

◎日韓関係の悪化

こうした視線は日韓関係を悪化させたとの評価にもつながる。

『中央日報』では「強制徴用者への賠償判決に反発し韓国をホワイト国から外す貿易報復に出た」と、2018年10月の韓国大法院(最高裁判所)による判決を受け入れない安倍首相の姿勢に触れた。

『京郷新聞』では「日韓関係でも絶え間ない過去事に関する妄言と、河野談話の検証問題で緊張度を高めた。2015年の戦後70年談話(安倍談話)では『日露戦争でアジア・アフリカの国民たちが勇気を持つようになった』という『歴史的な妄言』で指弾された」とした。

一方、『ハンギョレ』は社説で「何よりも安倍総理が『嫌韓』を政治的に悪用し、日韓関係を大きく悪化させたことは遺憾という他にない。」と踏み込んだ。

同紙はさらに「安倍総理は韓国大法院の強制動員賠償判決を『国際法違反』と攻撃しながら、報復性の輸出規制を強行し、朝鮮半島平和プロセスを執拗に妨害した」と、南北・米朝交渉を日本が邪魔をしたと主張した。

国家予算が投入される韓国最大の通信社『聯合ニュース』も社説格の「聯合時論」の中で、「安倍総理在任時期に日韓関係は過去事(過去の歴史)衝突から始まり、経済・安保分野にいたるまで出口が見えない最悪の水準にとどまった」と評価した。

その上で「日本は韓国が1965年の日韓請求権協定を破るなど約束を守らないと非難するが、葛藤の根本原因は安倍政権の過去事否定と責任回避にある」とし、日韓関係悪化の理由を安倍首相に求めた。

29日の『京郷新聞』一面。新型コロナのニュースの隣に、安倍首相の小さな写真があった。筆者撮影。
29日の『京郷新聞』一面。新型コロナのニュースの隣に、安倍首相の小さな写真があった。筆者撮影。

◎ポスト安倍時代の日韓関係

韓国紙はいずれも、ポスト安倍時代についても触れている。菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂議員、河野太郎国防相などの名が挙がるのは日本と同様だが、その評価は興味深いものがあった。

菅氏について『朝鮮日報』では「党内の派閥はないが、危機管理に強い」としながらも「細田派と二階派が付けば」とし、『東亜日報』でも「政権の間ずっと官房長官を務め危機管理の役割を果たしてきた」と紹介しつつ「公明党も菅なら大丈夫という反応」という「自民党幹部の発言」を添え、次期総理の可能性が高い人物との見方を示した。

岸田氏については、この両紙とも「大衆の人気がない」とバッサリ斬る一方で、石破氏には「安倍の政敵」と表現した。『朝鮮日報』は「世論調査では優位だが党内基盤が弱く可能性は低い」と評した。

一方で、進歩紙の『ハンギョレ』『京郷新聞』ともにポスト安倍の人選として、真っ先に石破氏の名前を挙げるなど高い関心を見せた。菅氏と比べ、極右のイメージが低い石破氏が首相になる場合、日韓関係が改善されるという見方だろう。

だが、過度の期待は持たないという論調が一般的だった。

『聯合ニュース』は「自民党の集権体制が強固な日本の政治構図と、韓国に全般的に否定的な世論を考慮すると根本的な変化を期待するのは難しい」とした。

中道系日刊紙の『韓国日報』では、聖公会大学の梁起豪(ヤン・ギホ)教授の「後任の総理が誰になろうとも、強制動員と慰安婦問題はすべて1965年の日韓請求権協定で解決されたとする日本政府の基本的な立場に変化はないだろう」という見立てを伝えた。

他方、「日本の世論の変化」に触れる言説が見えたのが印象的だった。政治家につられ、日本の世論も右傾化したというものだ。

『朝鮮日報』は「日本の政治家の中には過去にも安倍のような人物がいた。しかし日本の多数世論が彼らを制御した。しかし最近では逆に安倍のような人物が人気を得る。韓国の謝罪要求に対する日本の大衆の疲労度が高まる中、文在寅大統領が反日を国内政治に利用することで『嫌韓』が大勢となってしまった」とした。

政権と対立姿勢を取る同紙ならではの論理だ。

また『韓国日報』も日本専門家の陳昌洙(チン・チャンス)世宗研究所首席研究委員の「安倍の任期の間、韓国との妥協を望まない日本国民の世論がより大きくなった点に注目すべき」という分析を伝えている。

なお、主要紙の中で社説として日韓関係を取り上げたのは『朝鮮日報』、『東亜日報』、『ハンギョレ』、そして通信社『聯合ニュース』だった。それぞれのタイトルを挙げておく。

朝鮮日報:安倍退陣で「嫌韓政治」「反日政治」すべて終われば

東亜日報:安倍電撃辞退、韓日関係の跛行(はこう)終わらすはずみになれば

ハンギョレ:安倍総理電撃辞任、日韓関係改善の出発点になれば

聯合時論:安倍総理電撃辞意…日韓関係再定立の機会として作用すれば

日本社会としては「日韓関係仕切り直しの機会に」との視点に、しっかりと注目したいところだ。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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