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「文在寅の独裁政権と闘う」…最大野党が国会を占拠

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
23日、緊急議員総会で発言する自由韓国党の黄教安代表。同党HPより引用。

韓国の国会が揺れに揺れている。114議席(定数300)を擁する最大野党・自由韓国党が、23日から今日25日の午後に至るまで、国会内の議場や会議室などを占拠する事態が続いている。

「ファストトラック」制度に3つの法案

自由韓国党が議会占拠という抵抗運動に踏み切ったきっかけは、自由韓国党を除く与野4党(与党・共に民主党、正しい未来党、正義党、民主平和党)の動きにある。

23日、与野4党は公職選挙法などを含む3つの法案を「ファストトラック」に指定することを、それぞれの党で承認し、今日25日、法案の「ファストトラック」適用を議決する常任委員会の開催を予定している。

これを阻止しようと、自由韓国党の抵抗はピークに達しているのだ。

しかし日本でもそうであるように、国会のシステムは複雑で理解が難しい。法案と制度に分けて説明してみる。まず「3つの法案」とは以下の内容を参照願いたい。いずれも韓国社会に大きな変化をもたらす内容だ。

(1)選挙法改正案:選挙権の年齢を現行の満19歳から満18歳に下げる。300の議席を地域区(小選挙区)253→225議席、比例代表47→75議席に変える。

これにより、より社会の各層を代表する人物が比例議員として選べることになる一方、現在の二大政党制からの脱却という「多様化」が促進されると見られっている。

(2)高位公職者非理捜査処の設置:高位公職者、すなわち大統領やその親類、長官・次官、国会議員や検事、判事、警察(警務官以上の階級)など約7000人の非理(不正行為)を捜査する機構。

捜査官は上記対象に対する捜査権、令状請求権や裁定申請権を持つが、起訴権は検事、判事、警察(警務官以上の階級)など5100人に対してだけ持つ。国会議員は除外。文大統領の公約の一つ。

(3)検察・警察の捜査権調整法案:検察の直接捜査範囲を、大統領令により定める「腐敗・経済・公職者・選挙・防衛産業」犯罪の範囲にだけ縮小する。

また、検察は自治警察(生活、女性・青少年、交通など住民生活に近い領域の仕事を担当する自治体警察)を除く特別司法警察官(警察ではない公務員が特定の範囲内で捜査を行う制度)にだけ、捜査指揮権を持つように変更。

※だが、この項目の内容を参考にした『ハンギョレ』紙によると、未だ法案の内容は決まっていないとのこと。

23日に行われた、「改革法案ファストトラック合意」に対する世論調査。 肯定評価が50.9%、否定評価が33.6%となった。画像はリアルメーター社より。
23日に行われた、「改革法案ファストトラック合意」に対する世論調査。 肯定評価が50.9%、否定評価が33.6%となった。画像はリアルメーター社より。

ファストトラック制度とは

次に、韓国国会の「ファストトラック」制度についてだ。これは「迅速処理案件への指定」という名の通り、法案の成立を早めるための制度だ。『国会先進化法』で定められ、2012年から施行されている。

この制度が適用される場合、法案の内容を決める常任委員会が180日、法案を審査する法制司法委員会が90日、国会本会議に上程する国会議長が60日と、それぞれの日程に上限が設けられる。

つまり最長330日後に法案が議決にかけられるということだ。

このように、25日に前述した3つの法案が、所管の常任委員会で「ファストトラック」案件として可決される場合、一気に韓国社会の改革が進むことになる。

特に韓国では、来年4月15日に300人の国会議員全員が入れ替わる4年に一度の総選挙を控えている。新制度で選挙に臨むためには、今が時間的にはギリギリのタイミングだ。

だが、冒頭で述べたように、自由韓国党がこれに反対している。

自由韓国党はなぜ反対するのか

「私たちは最後まで戦います。独裁勢力と戦います。行政、司法、立法独裁と戦います。文在寅大統領と戦います。国会の内外で戦い、路上でも戦います。どんな対価を払っても自由民主主義のために戦います」。

23日、自由韓国党の黄教安(ファン・ギョアン)代表は、国会で開いた同党の臨時議員総会の席で、文在寅政権に対し上記のような「宣戦布告」を行った。

24日、議員総会を行う自由韓国党議員たち。同党HPより引用。
24日、議員総会を行う自由韓国党議員たち。同党HPより引用。

同代表はさらに、一連の「ファストトラック」をめぐる動きについて、「出発点は青瓦台。文大統領と80年代の運動圏(民主化運動勢力)出身が一致団結し、排他的なテントを張り、行政府を完全に掌握した」との見方を示した。

だが、実情は異なる。「ファストトラック」を導いた動きは、昨年12月の野党「正しい政党」と「正義党」の両代表による断食運動から始まったと見るのが妥当だ。

選挙制度改革により議席数の増加を見込める野党が手を結び、共に民主党と自由韓国党を加えた議席の97%を占める与野5党による、「政治改革特別委員会」を結成にこぎつけた。

しかし、この委員会で選挙制度改革のための議論を行うも、その過程で自由韓国党と他の与野4党間に見解の差が縮まらなかった。

結局、「自由韓国党の反発からは選挙改革の意志が無いと見受けられた」(シム・サンジョン政治改革特別委員長)という理由から、今年3月17日に残る4党で選挙法改革案に合意し、「ファストトラック」制度を適用することになったというのが実情だ。

自由韓国党側は22日にも、「ファストトラック指定が現実化する瞬間、20代国会(20年4月まで)はない」と国会の全面ボイコットを宣言してもいる。

ではなぜ、ここまで反対するのだろうか。まずは新たな選挙制度が導入される場合、議席数が減るという危機感があるだろう。だが、事情は与党も同様で、選挙は蓋を明けてみないと分からない。

一方、同党の鄭容起(チョン・ヨンギ)政策委員長は「(ファストトラックは)南北連邦制に向かう段階を歩んでいるものと見る」とし、「改憲し、南北連邦性に向かう段階に向かっている」とも言及する。

だがこれは有権者がそう簡単に「はい」という類の出来事ではなく、荒唐無稽と言ってよい。「文在寅はアカ(共産主義者)」とする、いわゆるレッテル貼りに過ぎないだろう。

このため、その本心は国会における主導権を取られたくない部分にあるのではないかと見られている。自由韓国党としては、ここで後退する場合、与野4党に押される図式が定着することを恐れていると読める。

4月20日、ソウル都心・光化門で「文在寅STOP」を主張する自由韓国党の黄代表と、党員たち。27日にも大規模な集会を予定している。写真は同党HPより引用。
4月20日、ソウル都心・光化門で「文在寅STOP」を主張する自由韓国党の黄代表と、党員たち。27日にも大規模な集会を予定している。写真は同党HPより引用。

来年の総選挙控え対立激化

この記事を書いている25日15時の今も、国会の一部では自由韓国党による占拠が続いている。韓国メディアでは「長い一日になる」といった論調が支配的だ。

前述したように、韓国では来年4月15日に総選挙を控えている。

そしてこれは、朴槿恵前大統領の弾劾後はじめて行われる総選挙でもある。そのため国民の8割がその「弾劾と罷免」に賛成した朴大統領が所属していた自由韓国党の行く末が、見どころの一つとなっている。

5月10日の文大統領の就任から丸2年を控え、「韓国の保守」を自任する同党は、今後の運命を大きく左右しかねない事態を迎えている。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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