韓国の「白頭山噴火騒動」に隠れた深い事情

2018年9月、南北首脳会談の折に白頭山を訪問した南北首脳夫妻。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

韓国で去る4月15日、16日とポータルサイトの検索上位に「白頭山」や「白頭山 火山爆発」が並んだ。白頭山は海抜2760メートル。朝鮮半島の最高峰であると同時に、朝中国境に位置する活火山だ。美しいカルデラ湖・天池でも知られる。

過去に何度か活性化のニュースもあり、筆者も関心を持って調べてみた。だがそこから浮かび上がってきたのは、まったく別の「悩み」だった。

白頭山の膨大なエネルギー

天池ふくらみ地震…白頭山噴火の兆候が深刻(JTBC、16日)

「白頭山の天池ふくらむ」…一千年ぶりに「噴火の兆候」(韓国経済TV、15日)

白頭山は本当に爆発するか…過去の爆発を見る(韓国日報、16日)

白頭山火山兆候が明らか…「天池地震だけ3000余回」(YTN、19日)

ざっと見ただけでも刺激的な記事タイトルが並ぶ。こうした報道がSNSなどで話題となり検索する人たちが増えた、というのが「白頭山噴火騒動」だ。

きっかけは今月15日、韓国国会で行なわれた「目覚める白頭山火山、どうするか?」というシンポジウムだった。この場で、韓国の大学や研究機関、さらに海外から集まった専門家たちが一様に警鐘を鳴らしたのだった。

シンポジウム当日の様子。中央でマイクを持つのは主催者の一人、李相ミン(イ・サンミン)共に民主党議員。同議員室提供。
シンポジウム当日の様子。中央でマイクを持つのは主催者の一人、李相ミン(イ・サンミン)共に民主党議員。同議員室提供。

筆者はこのシンポジウムに参加しなかったが、やはり主催した沈在権(シム・ジェグォン)議員室から資料を入手した。まずはこれをたどってみる。

イ・ユンス浦項工科大学環境工学部教授は、「西暦946年11月の『ミレミアム大噴火』で白頭山から放出されたエネルギーは840京ジュールで、東日本大震災の4倍にあたる」と、白頭山がたたえたエネルギーの大きさに言及した。

これについて、韓国地質資源研究院もシンポジウムに先立つプレスリリースの中で「946年の噴火は、過去1万年に地球上で起きた最も大きい噴火事件」と称している。

では実際に噴火したらどうなるのか。

ユン・ソンホ釜山大学地球科学教育科教授は、「天池にある20億トンの水が地下から湧き上がるマグマと出会う場合、必然的に爆発的な噴火となる。土石流や火山泥流なども発生し、周辺地域を荒廃化させると同時にインフラや環境破壊をもたらす」と警告している。

火山灰は成層圏に達し、ジェット気流に乗って、日本の東北地方と北海道に影響を与えることが分かっている。十和田湖からも、946年の噴火当時に堆積した火山灰が見つかっている。写真はシンポジウム資料より。
火山灰は成層圏に達し、ジェット気流に乗って、日本の東北地方と北海道に影響を与えることが分かっている。十和田湖からも、946年の噴火当時に堆積した火山灰が見つかっている。写真はシンポジウム資料より。

なお、ユン教授の調査チームは2015年5月、白頭山噴火時の被害シミュレーションを行っている。

この内容を伝えた当時の聯合ニュースを引用すると、8段階のVEI(火山爆発指数。5以上が「非常に大規模」に分類)うち、964年と同じVEI7で噴火する条件で、「噴火後に北東風が吹く場合、韓国全域に火山灰が積もり済州空港を除く国内すべての空港が最長39時間閉鎖」などの被害が起きるという。その被害総額は約11兆2000億ウォン(約1兆1200億円)と算出した。なお、VEI4以下の場合では韓国の被害はない。

だが、白頭山周辺では「VEI4以上の火山爆発が起きる場合、摂氏500~700度の火砕流が中国側の渓谷を通じ、最短で8キロ、最長87キロまで流れる」とし、さらに上図にあるような広範な範囲で火山灰の影響を受けるとした。

噴火の兆候は?

気になる噴火の兆候はどうか。

韓国地質資源研究院のチ・ガンヒョン研究員は、中国・長白山火山観測所が2012年に発表した研究データを元に「安定期には毎月平均7度だった地震の発生数が2002~05年の活動期には平均72回に増加した。特に2003年11月には243件に達し、その大部分が天池の地下約5キロの深さで起きた」と報告した。

同研究員はさらに、「同じ時期、天池を中心に放射型に平均4センチ、最大7センチ膨張し、垂直に7センチ上昇した」とした。このようにシンポジウムでは、天池の地下にマグマが存在することが、繰り返し言及されたと、主催側の関係者は筆者に明かした。

噴火時の火砕流の流域を予想した図。中国側の影響がより大きいことが分かる。
噴火時の火砕流の流域を予想した図。中国側の影響がより大きいことが分かる。

チ研究員は一方で、「活動期以降、垂直上昇の動きは鈍くなり、2008年には垂直下降を始めた」とした。これに関し、韓国メディア・JTBCは関連報道の中で「2006年以降、多少穏やかな状況が続いている」という中国・長白山火山観測所の立場を伝えている。

このように、冒頭に引用したメディアのタイトルにあるような、「近いうちに噴火する」という事情ではないようだ。これは明らかに「煽り」と言えるもので、アクセスが欲しい韓国メディアの事情が透けてみえる。

共同調査の重要性

だが本記事の関心は別のところにある。シンポジウムの資料を読み込むと、白頭山噴火に備えた、共同研究と将来的な対策の必要性に重点が置かれていたことが明確になる。主催者側の狙いもそこだ。

現在、国際的な次元での白頭山の研究は、2011年に結成された米英中朝4か国で構成される研究チーム『MPGG(The Mt. Paektu Geoscientific Group)』を中心に行なわれている。しかし韓国はその研究に参加できていない、という現実があった。

これについて、オ・チャンファン全北大学地球環境科学科教授は、シンポジウムの資料集で以下のように言及している。

中国側は火山爆発の被害に備えるため、火山監視システムを構築しているが、北朝鮮は機材と研究費の不足などで研究が進んでいない。噴火に対する対応は非常に小さいものになり、被害を復興する経済能力も大きく不足しているのが実情だ。

(中略)韓国の学者は、中国側との協力を通じ、白頭山噴火予測を含む白頭山研究に必要な情報を得たり共同調査をしようと、努力してきた。

しかし中国政府は韓国の地質学者たちに白頭山と関連する共同研究はもちろん、資料の提供も許可しておらず、白頭山の噴火に対し(韓国側)は備えをできない状況だ。こうした問題は、白頭山に対する南北の共同研究を通じ解決できる。

2016年8月に平壌で行なわれた「白頭山火山研究国際討論会」の写真。MPGGサイトより引用。
2016年8月に平壌で行なわれた「白頭山火山研究国際討論会」の写真。MPGGサイトより引用。

なお、参考までに述べておくと、シンポジウムにはMPGGに所属し実際に白頭山で研究活動を行っているロンドン大学のJ.ハモンド教授も参加している。

ハモンド教授は資料の中で、今後の調査について「過去の爆発モデルを作り、噴火に備えた応急プランと警告システムを開発する内容が含まれる」とし、「白頭山の近隣にあるマグマの分布を理解していく」と説明した。

色々と知りたいことがある。筆者はもう少し詳しい内容を聞くために18日と20日にわたり二度、李允秀(イ・ユンス)浦項工科大教授に電話インタビューを行った。

李允秀教授インタビュー

――韓国のシンポジウムが大きな関心を集めた。白頭山は今すぐ噴火するということではないのか。

膨張は収まっている状況にある。ただ、温泉水の温度が下がっていない状況にあることは確かだ。そしてマグマの存在が中国や北朝鮮の研究者により確実となっているため、理論的にはいつか必ず噴火することになる。とはいえ、私たちはいたずらに危機を煽り、「もうすぐ噴火する」ということを言いたかった訳ではない。

――韓国は白頭山の共同研究に参加する必要があるということか。

噴火する場合、韓国も当事者として被害を受ける可能性が高い。そして北朝鮮でも、その被害は火山灰などによるものだけでなく、精神的な恐慌やインフラの崩壊など、人道的な支援が必要な状況になるだろう。そのためにも今、白頭山がどういう状況なのかをより詳しく知る必要がある。

――共同研究に参加できない理由は何か。南北関係を管理する韓国の統一部は「感染病や他の人道的な事案よりも優先順位が低い」という立場のようだ。

だからこそ、いつか起きる白頭山の噴火が人道的な事案であるということを、今回のシンポジウムで十分に説明したつもりだ。「白頭山がいつ噴火するのか?」ではなく、「噴火したら人道的な事態が発生する」という部分にまで、世間の認識の幅を広げたかった。

統一部は南北間の研究が国連安保理の北朝鮮経済制裁に抵触するのか疑っており、積極的でない部分はある。経済制裁や南北関係などが関連しており、科学者たちの力で解決できる問題でなくなっていることも確かだ。

だが、北朝鮮側の研究者も韓国との共同研究を熱望している。共同研究が実現する場合、互いの信頼を回復する良い機会にもなるだろう。

―中国が韓国との協力を避ける理由は何か。

白頭山は中国と北朝鮮の国境に位置しているので、外国の接近に敏感になる事情がある。そして中国では白頭山を「長白山」と呼び、聖山でもある。

それでも中国との共同研究実現のため2年間色々とアプローチしてきたが、このような歴史的な問題、領土の問題、呼称の問題などを乗り越えることができなかった。中国の立場を理解する。

李允秀(イ・ユンス)浦項工科大学教授。
李允秀(イ・ユンス)浦項工科大学教授。

――日本への影響は。

噴火する場合、火山灰は高度10キロの成層圏にまで到達し、東に向けて吹くジェット気流に乗って、日本へと向かう。白頭山の調査研究は東北アジアの関連国が協力して解決するべき理由でもある。東北アジアの安全においても必要な作業だという認識が必要だ。

――現在、率いている調査チーム(白頭山・火山マグマ研究グループ)について。

約30人の専門家で構成されている。中には2010年のアイスランドの火山噴火を研究した現地の学者や、日本の東京大学と東北大学からも2人が参加している。また、MPGGの研究者も一員だ。

――北朝鮮の核実験が白頭山の火山活動を活性化させているという指摘もあるが、事実か。

私も関心を持って調べてみたことがある。1960、70年代に米国がアリューシャン列島で大規模な核実験を行ったが、当時、ベーリング海峡に存在する火山への影響は無かった。7年前に米国の研究機関にも問い合わせたが、「核実験が火山活動を誘発した前例は無い」という回答だった。

――今後は。

今回のシンポジウムを通じ、一番訴えたかったのは調査の重要性。「このような危険な要素が白頭山にあるのに、このままで大丈夫ですか?大丈夫ではないですよ」というのを伝えたかった。

米中英独と、科学者たちは自分の研究者人生をかけて白頭山を研究している。もし噴火する場合、「韓国は何もしてこなかった」という状態になってはいけないが、なかなか調査をすることができず、韓国の学者たちは厳しい10年を過ごしてきた。

だからこそ(韓国政府に)機会を持ってみよう、挑戦してみようと主張したい。これから研究の準備を進めても数年はかかる。活火山はいつか必ず噴火する。その時に備えたい。

韓国政府の弱腰?

「白頭山噴火」というキャッチーなタイトルの裏には、韓国の科学者の苦悩と、韓国政府の消極的な対応が隠れていた。

李教授も繰り返し述べた通り、いつか来る白頭山の噴火は、東北アジア全体に影響が及ぶ災害になると同時に、経済・社会インフラの整備が遅れる、北朝鮮の地方経済とそこに住む人々に甚大な被害と人道的危機をもたらす。

こうした言わば「自明の危機」に対し、韓国政府が消極的な対応を取っていることは意外だった。

統一部は今回のシンポジウムの後援を行っている。だが前述したように、統一部の事情をよく知るシンポジウムの関係者によると、白頭山共同調査に対し同部では「感染病や他の人道的な事案よりも優先順位が低い」という立場を維持している。

朝鮮半島の非核化という大きな問題も重要だが、まずはできることから進めていくことも大切ではないか。

今後の進展を見守っていきたいと思うと同時に、白頭山の調査すら行えない韓国の置かれた現状に、深い憂いを感じずにはいられなかった。(了)