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米国の要求は「武装解除」…米朝非核化交渉は頓挫か

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
28日午前、拡大首脳会談に望む米側代表団。左端がボルトン米大統領補佐官。(写真:ロイター/アフロ)

3日、ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が明かしたハノイ米朝首脳会談の内幕からは、米国が交渉のレールから外れる強い要求をしていたことが明らかになった。

●「核と生化学兵器、弾道ミサイル放棄を要求」

3日、ボルトン国家安全保障会議補佐官は複数の米国メディアとのインタビューの中で、「合意なし」に終わったハノイ米朝会談の裏幕を明かした。

4日、韓国の聯合ニュースがまとめた記事によると、同氏は『FOXニュース・サンデー』とのインタビューの中で、米側の要求について「トランプ大統領はビッグディール、つまり非核化を一貫して要求した。核と生物・化学兵器、弾道ミサイルを放棄する決定をしろとした」と語った。

この内容は、これまで米側の要求とされていた「米国はより多くのものを望んだ」(トランプ大統領、2月28日)、「寧辺の核施設以外にもミサイル施設と核弾頭の兵器システムなどが残っている。様々な要素について北朝鮮と合意を得られなかった。核リストの申告も同様だ」(ポンペオ国務長官、同)といった内容と合致するもので、注目に値する。

そしてこのボルトン氏が明かした交渉ラインは、筆者が以前にも指摘したように、1月31日にビーガン特別代表がスタンフォード大学で行った講演で明かした内容とも一致するものだ。

米朝会談決裂の裏に「完全な非核化」での溝…韓国が突破口を開けるか

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20190301-00116606/

当時、ビーガン氏は「完全な非核化」の内訳を、「『最終的かつ完全に検証された非核化(FFVD)』プラス核物質、武器、ミサイル、発射台、その他大量破壊兵器の除去と破壊」としていた。見事に一致する。

だが大事なポイントは、これでは米朝間の交渉は成立しないということだ。

北朝鮮が国連安保理と米国独自の経済制裁により経済的にダメージを受けている中で交渉に望んでいるとはいえ、この米国の要求は北朝鮮にとっては「武装解除」そのもので、到底受け入れられるものではない。

こうした北朝鮮の反応について一例を挙げると、昨年6月のシンガポール米朝首脳会談以後、核リストの一部提出を求める米国側に対し「爆撃リストを渡すようなもの」と強く拒否してきた経緯がある。

●「シンガポール合意」からも外れる

そもそも昨年6月の「シンガポール合意」から始まる米朝交渉の肝は、「南北米朝での平和協定締結=米朝国交正常化=完全な非核化=あらゆる制裁の解除」を同時ゴールに設定するものだった。そしてこれを可能にするために、互いに信頼を積み重ねて行こうと合意したのだった。

[全訳] 米朝シンガポール首脳会談 共同合意文

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20180612-00086398/

だが今回明らかになった米国の要求は、こうした段階をすべて無視するもので、交渉の土台を崩すものと言っても過言ではない。これでは、いくら北朝鮮側が「寧辺プラスアルファ」とカードを切っても、話にならない。

ボルトン氏はさらに、『CBS』とのインタビューで「代価として、金正恩氏はとてつもない経済的な未来を手に入れるための資産を、手にすることになるという点を提示した」と明かした。これもまた、北朝鮮が最も大切な交渉内容とする体制保障とはかけ離れた実態のない内容で、受け入れがたいだろう。

同氏はまた、「外交の機会が失われるかは北朝鮮側にかかっている」とした上で「交渉に期限はない」と語った。これは、米国が先に提示した「核と生化学兵器、弾道ミサイル」という交渉ラインを譲る気がない点を示していると読める。

このように、次々に明らかになる内容を見ると、トランプ政権下での米朝非核化交渉の進展は、遥か遠いと言わざるを得ない。多者間協議への移行なども考える時期に来ているのかもしれない。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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