4月末の南北首脳会談に続き、5月内に米朝首脳会談が行われることが暫定的に決まった。朝鮮半島の急激な情勢変化をどう捉えるか。読み解くヒントは韓国の朝鮮半島ビジョンにある。

「5月に米朝首脳会談」ホワイトハウスでの会見

北朝鮮の金正恩氏から託された「米朝首脳会談」のメッセージをたずさえ訪米中の韓国・鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安全保障室長は8日(現地時間)、ワシントンでトランプ大統領と接見した。

鄭室長はこの席で、「金正恩委員長が非核化に対する意志を持っており、北朝鮮は今後、あらゆる核またはミサイル実験を自制すると約束した」というひと言を添えメッセージを伝達した。

青瓦台(韓国大統領府)が9日明かしたところによると、接見の場でトランプ大統領はこの提案を承諾、「恒久的な非核化の達成のために、金正恩委員長と今年の5月内に会うだろう」と返答した。

記者会見終了後、トランプ大統領は自身のツイッターに「大きな進展が成し遂げられた」と肯定的な反応を示した。一方、文在寅大統領も9日昼、「5月の米朝首脳会談は朝鮮半島の歴史における歴史的な里程標となる」とのコメントを発表した。

米朝首脳会談の一報を伝える9日付の夕刊紙・文化日報。「トランプ−金正恩、5月『歴史的初会談』」と見出しにある。筆者撮影。
米朝首脳会談の一報を伝える9日付の夕刊紙・文化日報。「トランプ−金正恩、5月『歴史的初会談』」と見出しにある。筆者撮影。

何を軸に考えていくべきか

さて、ここからが本論となる。今年1月から始まった朝鮮半島情勢における急激な変化をどう読み解くべきか、というものだ。様々な人々がそれぞれの見解を述べている。さながら百家争鳴だ。

だが、それらのほとんどが今後の「予想」に焦点を当てており、正確さでは大きく劣る。もちろん、しょうがない。この情勢の展開を誰が予想し得ただろうか。韓国メディアの報道にもフェイクニュースまがいの「飛ばし記事」が目立つ。

こういった時は、やはり原則に立ち返るべきだと思う。そのヒントとなるのが韓国の北朝鮮政策だと筆者は見る。振り返ると、ここまでは韓国が望むような形に進んでいるからだ。

例えば、韓国の特使団が金正恩氏との会談で持ち帰った6項目の「合意事項」も、2月25日の平昌五輪閉幕に合わせ訪韓した北朝鮮代表団の金英哲(キム・ヨンチョル)統一戦線部長に預けた「宿題」であったことが判明している。

5日夜、平壌で北朝鮮の金正恩委員長に文在寅大統領の親書を手渡す、韓国の鄭義溶首席特使。写真は青瓦台提供。
5日夜、平壌で北朝鮮の金正恩委員長に文在寅大統領の親書を手渡す、韓国の鄭義溶首席特使。写真は青瓦台提供。

3月5日に訪朝した韓国からの特使団との会談の際、金正恩氏がおそらく「満額」に近い回答を寄越したことで、情勢の変化に拍車がかかったのではないだろうか。

さらに、韓国が米朝対話を斡旋してきた部分は、これまでもたびたび報じられている事実だ。米朝首脳会談はそれが最高の形で実現するものと言っていい。

このように、韓国の政策こそが今後を占うという見方のもと、過去から連なる北朝鮮政策を検証してみる。

「6.15宣言」と「10.4宣言」を継承

文在寅政権の北朝鮮政策の根っこは、過去それぞれ金正日総書記と首脳会談を行った、金大中(キム・デジュン)政権、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の北朝鮮政策にある。文大統領は同じ進歩派の系譜に連なる。

また、現在の文在寅政権の核心部にいる北朝鮮政策のブレーンの多くは、当時の南北対話に関わっていた「ベテラン」たちだ。文在寅大統領自身が、2007年10月の2度目の南北首脳会談の準備委員長を務めた。

金大中大統領は00年6月に、盧武鉉大統領は07年10月にそれぞれ首脳会談を行った。相手は金正恩氏の父・金正日総書記だ。その結果として、00年には「6.15南北共同宣言」が、07年には「10.4南北首脳宣言」が発表された。

内容を簡単に振り返る。「6.15南北共同宣言」では大きく、「わが民族同士の原則」「南の連合体系・北の連邦制案という長期的な統一指向」、「経済協力、社会の諸般分野での交流の活性化」との内容で合意したものだ。

2000年6月、平壌で歴史上初めての南北首脳会談を行う北朝鮮の金正日国防委員長(左)と韓国の金大中大統領(右)。写真は青瓦台提供。
2000年6月、平壌で歴史上初めての南北首脳会談を行う北朝鮮の金正日国防委員長(左)と韓国の金大中大統領(右)。写真は青瓦台提供。

なお、金大中大統領の代名詞ともいえる「太陽政策」の「太陽」の部分について、「バラマキ、施し」と勘違いされることがあるが、正確には「関与」である。関与を増やすことで変化を促すという方法論だ。ここは文在寅政権、そしておそらく今後のトランプ政権の北朝鮮政策の大事な部分となるので押さえておきたい。

話を戻す。一方の「10.4南北首脳宣言」ではまず、「6.15宣言を固守し具現する」と明記する。その上で「南北関係を相互尊重と信頼関係として転換」し、「軍事的な敵対関係を終息させ、平和保障のために協力する」中で、「経済協力事業を積極的に活性化させ持続的に拡大、発展させていく」ことなどが含まれる。

文大統領は、昨年9月27日の「10.4宣言」10周年記念式典で行った演説の中で、「北朝鮮の挑発が続き、南北関係が硬直する今の危機を乗り越えてこそ『10.4の精神』に戻れる」と語っている。

さらに金正恩氏に対しても、「核とミサイルの挑発をやめ『10.4の精神』に戻ってくるよう望む」と呼びかけた。南北関係において、「10.4の精神」がキーワードであることが分かる。

そして「文在寅の朝鮮半島政策」へ

その後、約9年におよぶ李明博・朴槿恵と続いた保守政権を経て、この「10.4の精神」を最新の朝鮮半島情勢に合わせ再構築したのが、「文在寅の朝鮮半島政策」だ。昨年11月22日に発表された。

内容は膨大なため、詳しく知りたい方は以下のヤフーニュースのリンクを参照されたい。

韓国政府が朝鮮半島政策を発表…北との「平和共存、共同繁栄」を前面に

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20171125-00078550/

この内で大事な内容としては、以下の3つがあげられる。

・「3-NO」と呼ばれる「北朝鮮の崩壊を望まず、吸収統一および人為的な統一を追及しない立場」という原則

「南北間の相互尊重の精神と信頼に基づき、北朝鮮核問題を根源的・平和的に解決しなければならない」という方向性

「北朝鮮を和解協力の対象と尊重しながら、究極的には南北間合意による平和統一を指向する」という目標

韓国にとって北朝鮮は、敵ではなく、経済協力のパートナーであると同時に、統合の対象なのだ。「敵」であるとの前提で考えると、韓国政府の動きを理解できなくなる。

「文在寅の朝鮮半島政策」政策推進体系図。統一部の資料とまったく同じ形状のものを筆者が作成した。
「文在寅の朝鮮半島政策」政策推進体系図。統一部の資料とまったく同じ形状のものを筆者が作成した。

経済交流に「戻れる」か

前置きが長くなったが、ここまで見てきた内容が、今の文在寅政権の動きと正確に重なる点をご理解いただけたと思う。今後が少しは見通せるのではないだろうか。

韓国は今後、非核化をめぐる米朝交渉のかたわら、人道支援、スポーツ交流、文化交流、地方自治体の交流など、国連制裁に触れない範囲での南北交流を拡大していくものと見られる。

だが、これには限界がある。

北朝鮮の人権問題や体制の変化に詳しい、ソウル大平和統一研究所の徐輔赫(ソ・ボヒョク)研究教授は8日、筆者のインタビューに対し「韓国が進める交流が経済協力の段階に進むためには、南北関係の改善が、北朝鮮の『非核化』の水準とリンクする必要がある。このように、低いレベルの交流から高いレベルへの経済協力に進めるかどうかが、今後の南北関係が新しいステージに移る分かれ目となる」と分析した。

北朝鮮との間に飛行機が飛び、約10年の間に198万人が北朝鮮の名勝・金剛山(クムガンサン)を訪れた、金大中・盧武鉉時代の南北交流・経済協力の水準にまずは戻れるか、だ。

時間は金正恩氏の味方

見通しは明るくない。前出の徐研究教授は「原爆、水爆、ウラン濃縮施設、ICBMなど、非核化に関する『査察』の範囲が多くなり、これにまつわる方程式が複雑になった。こうした状況の変化に対しきわめて創造的な代案が必要となってくる」という点を強調する。

さらに、「非核化とひと言で言うが、そこには『条件付き一時猶予』、『モラトリアム(全面停止)』、『査察』、『封印』、『不能化』、『廃棄』、『民需施設への転換』などの段階がある。これらに伴い、米朝の交渉プロセスも非常に長いものにならざるを得ない」との見解を述べた。

2月23日、米国のトランプ大統領が平昌五輪の成功を願い、文大統領に送った直筆の署名入りの写真。「われわれは勝つだろう」とある。写真は青瓦台提供。
2月23日、米国のトランプ大統領が平昌五輪の成功を願い、文大統領に送った直筆の署名入りの写真。「われわれは勝つだろう」とある。写真は青瓦台提供。

その上で、「時間が誰の味方なのかを考える必要がある」との疑問を投げかけた。

確かに、これは非常に重い問いかけだろう。韓国や米国がこれまで繰り返してきた通り北朝鮮の体制を保障するならば、金正恩氏は生きている限り最高指導者の地位にとどまることになる。

任期のある国際社会の首脳たちと比べる場合、支持率や選挙日程を考える必要もなく、政策の立案実行においてはるかに優位な立場にある。

徐研究教授は「理想主義者か現実主義者か問われている」と続ける。これは、核の完全な廃棄を絶えず求めていくのか、核凍結から完全なる核廃棄に向かう長い道のりを辛抱強く歩んでいくのかという問いだ。

なお、徐研究教授は「ビッグディールの始まりなのか、各国の政治的利用なのか不確実だ。短期的な緊張緩和の効果は確実にある」と現状を診断した。

核廃棄は無い…もっと「関与」を

最後に、筆者の個人的な意見を言わせていただく。筆者は北朝鮮が完全に核廃棄を行う日は来ないと考えるし、韓国政府もおそらく似たような考えだと見る。手放すつもりなら最初から核兵器を作らないだろう。

このような理解の上で韓国は、米朝関係を2017年のような一触即発の環境ではなく、肯定的な方向に向かわせるため現在の交渉を行っていると考える。将来的に北朝鮮の政治・社会に「関与」する幅を広めていくことで、北朝鮮社会に変化をもたらす狙いがあると筆者は見立てる。

北朝鮮という国を悪魔化するつもりは毛頭無い。ただ、金正恩政権によって住民の自由が著しく制限されている現在の状況は、どんな理由をつけても正当化されるものではない。韓国の市民は過去、似たような自国の独裁政権を倒しながら今日まで来たのだ。

[動画説明:2016年12月3日、全国で主催者発表232万人を集めた「ろうそくデモ」の動画。当時の朴槿恵を弾劾に追い込んだ。筆者撮影。]

もちろん、「民族の将来」が関わる問題でもあるため、韓国としても世論を眺めながらになる。さらに体制変化を射程に入れた交渉を、北側が受け入れるはずもない。韓国側はとことんまで本音を言えない可能性もある。

一つエピソードを紹介する。筆者はこれまで韓国に長く住む中で、多くの人道支援関係者や北朝鮮専門家と出会う機会があった。

その中で学んだのは、人権問題に目をつぶり援助だけを行うなど、北朝鮮政府の恥部に触れない「融和派」に見えた人々も、心の中では「北朝鮮が正常な国家となること」を強く望んでいるという点だ。外からやるか中からやるか、いつやるかと、方法論が違うだけだ。

ここで言う正常とは、民主主義と自由がある国のことを指す。繰り返すが筆者は、北朝鮮社会と国際社会との接点を増やす中で、北朝鮮の社会を変えていくしか無いと考えている。そしてこの考えが、現政権でも少なからず共有されていることを確信している。

だからこそ、韓国の動きに対する安易な決めつけやレッテル貼りは禁物だ。まずは正確な情報と背景への理解が大切となる。読者の皆さんにはこの点を強調したい。