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平昌五輪参加、非核化…南北会談で何が話されているのか?

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
9日、板門店で約2年ぶりとなる対話を行う南北代表。左側が韓国だ。写真は統一部提供

約2年ぶりに開催されている南北会談。午後5時半現在、会談は続いているが、その現場で話されている詳細を、報道資料を元に公開する。

200人を超えるメディアが集結

1月9日午前10時より、約2年ぶりとなる南北会談が、板門店の南側施設「平和の家」で行われている。この記事を書いている9日の午後5時現在、会談は未だ続いており、結論は出ていない。

そうした中、これまで明らかになった内容をダイジェストでお伝えする。元になるのは、南北会談のコントロールタワーとなっている統一部の南北会談本部で配布されている報道資料だ。会談現地で動きがある度に配られ、詳細が記されている。

筆者も朝から南北会談本部にいるが、現在も200人以上の韓国内外のメディアが詰め、会談の内容を国内外に伝えている。

朝7時半に韓国側代表団が出発

韓国側の代表団は午前7時半に南北会談本部を出発した。

9日朝、出発前に南北会談本部で取材に応じる韓国側首席代表の趙明均統一部長官。写真は統一部提供。
9日朝、出発前に南北会談本部で取材に応じる韓国側首席代表の趙明均統一部長官。写真は統一部提供。

首席代表を務める趙明均(チョ・ミョンギュン)統一部長官は出発前、詰めかけた報道陣に対し「平昌オリンピック、パラリンピックが平和の祭典として開催されるようにし、南北関係の改善にとっても良い第一歩になるように、国民が抱いている期待に合わせ、急がずに冷静に会談に臨む」と抱負を明かした。

韓国側代表団は、約1時間後の午前8時42分に板門店に到着した。一方、北朝鮮側代表団は、9時29分に板門店の北側の建物「板門閣」を出て、徒歩で軍事境界線(MDL)越え、韓国に「入国」した。

以前も、南北会談に参加したことある北側代表の李善権(リ・ソングォン)祖国平和統一委員会委員長は、「久しぶりに板門店を訪ねた感想」を聞く韓国側の記者に「北南双方が誠実な姿勢で会談を真摯に行おうということだ」と答えた。

さらに「会談はどうなるか」との質問には「うまくいくだろう」と答えた。

その後、南北の代表団5人ずつは会談の場となる「平和の家」一階のロビーで会った。南側の趙代表は「歓迎します、新年明けましておめでとうございます」と挨拶をし、北側の李代表は「おめでとうございます」と返した。

そして、9日午前10時。2015年12月以来、約2年ぶりとなる南北会談が始まった。

南北代表の冒頭発言 北「同胞に贈り物を」南「始まりが半分」

会談は南北代表による「冒頭発言」で始まった。まず、北側代表の李善権委員長はこう語った。

「今冬はいつになく雪もがたくさん降り、そうかと思えば強い寒さが持続的に続くのが特徴のように思える。あらゆる山河が凍りついた。しかし、自然の天気よりも、南北関係がもっと凍っていると言っても過言ではない。

ただ、自然が寒かろうが、北南対話と関係改善を臨む民心の熱望は、例えるならば、暑く張った氷の下に、より強く流れる水のように、凍りもせず、休みもせず、また、その強烈さによって北南高位級会談という貴重な場所ができたと考える。

南側に来ながら、趙明均長官になんと声をかけようか考えていた。今年の正月にあった出来事を紹介したい。私が好きな甥に正月に会ったのだが、今年は大学に行くだという。『もう大学に行くのか』と。その甥が2000年6月に生まれた。

もう18年経ったのか。山河も変わるという10年がもう2回も過ぎたから、いかに長い時間が経ったか。振り返ってみれば。6.15の時代(編注:2000年6月の南北首脳会談を指す)にすべてが貴重でなつかしい。考えてみればとてももったいない時間だった。

そうした例から民心と大勢が出会う時、それは天の心だという。この『天心』をうけとめ、南北の高位級会談が開催された。そして私たち北南の当局が真摯な立場と誠実な姿勢で、今回の会談をよく行い、大きな期待をかけているすべての同胞に新年初めての贈り物、その価値のある結果物を送ってはどうかという考えを持って、この場に来た」

握手する南北代表。李善権(リ・ソングォン、左)祖国平和統一委員会委員長と、趙明均(チョ・ミョンギュン、右)統一部長官。写真はYTNニュースをキャプチャしたもの。
握手する南北代表。李善権(リ・ソングォン、左)祖国平和統一委員会委員長と、趙明均(チョ・ミョンギュン、右)統一部長官。写真はYTNニュースをキャプチャしたもの。

一方、南側の趙明均統一部代表は以下のように冒頭発言を行った。

「私たち南側も、昨年、民心がどんなに強い力を持っているのか、直接経験した。わが民心は南北関係が和解と平和へと進んでいかなければならないという強い熱望を持っているということを、私たちはよく知っている。民心が天心でああり、その民心に応える方向で会談に対し真摯に、誠実に臨んでいかなければならないと考える。

私たちが今日議論する重要な議題のうち一つが、平昌冬季オリンピック、パラリンピックに北側代表団が参加する問題だ。冬季五輪は夏季五輪よりも天気がとても重要だ。

おっしゃる通り、今回の冬は寒く、雪も多く降って、冬季五輪を行うには良い条件となった。多くの国から貴重なお客様が来るのに、特別にわが北側からも代表団という貴重なお客様が来るというので、平昌冬季五輪、パラリンピックが平和の祝祭として、しっかりと行われるだろうと私たちは期待をしている。

そして、北側にもそのようなことわざがあると思うが、私たちに『始まりが半分だ』ということわざがある。

長い南北関係の断絶の中で、会談が始まったが、本当にはじめの一歩が半分だという気持ちで、意志と根気を持って会談を導いていければ良いと考える。同時に相反することでもあるが、はじめの一杯の酒で、はじめの一口でお腹が一杯になるはずがない、という話もしておきたい。

そういった点も折り込み、急ぎすぎず、根気を持ってひとつひとつ解いて行ければいいと思っている。そうした立場から今日、初めての南北会談で、先程おっしゃった民心に呼応する良い贈り物を私たちが作っていけるよう、努力していきたい」

この発言に対し、北側の李代表は以下のように答えた。

「一人でいくよりも、二人で行く方が長続きすると言う。心があるところには、体もある決まりだ。こうした側面から見る時、長官先生(編注:趙長官のこと)が平昌五輪から話を切り出したが、幼年期にスケートをしていたということを聞いた(韓国側一同笑う)。今年のはじめから(南北関係が)スケートに乗ったようなものだから、良いことだと思う。

例を挙げると、童心ほど純粋できれいで、不潔でないものはない。その時のその気持ちを呼び起こすならば、今日の会談は純粋になり、私たちの気持ちが団結してうまくいくと思う。

会談の形式は問題だ。ここで今日、この会談を見守る内外の耳目が多く期待も大きいため、私たちでは会談を公開し、実況がすべての民族に伝わってはどうかという思いだ。記者たちも関心が高く、多く来たようだが、完全に公開してはどうか」

北側による会談をフルオープンしようという提案だ。これに対し、南側の趙長官はこう答えた。

「会談の公開に関しては、おっしゃる内容は大いに一理ある。私もそうした点に共感するが、私たちがせっかく会って、しなければならない話が多いため、一応慣例通りに会談を非公開で進め、必要な場合には途中で記者たちと共に公開会議を行う点が、会談を順調に行う助けになるのではと考える」

北側の李代表はさらに続ける。

「明らかなのは、民心が大きいほどに私たちの会談を透明性を持って、北側がどれほど真摯に努力しているのかを見せた方が良いという点だ。特に当局がすることには、意味が無ければならない。その意味が結局は民心に呼応するものだと考える。こうした側面から、(会談を)公開したらよいが、そちら側の見解を受け入れ、非公開にし、必要ならば記者を呼び会談の状況を知らせることにしよう」

趙長官は「分かった」と答えた。言論の自由がない北朝鮮ならではの提案、揺さぶりであった。

続いて基調発言…南「非核化の対話も」北「五輪参加」

統一部の発表によると、全体会議が午前11時5分まで行なわれた。その後、11時30分から12時20分まで、首席代表の接触(会談)があった。

その後、12時40分より、韓国側代表団の一人である千海成(チョン・ヘソン)統一部次官が記者団向けに記者会見を行い、会談の状況を説明した。

会談に臨む韓国側代表。左から二人目が千海成統一部次官。
会談に臨む韓国側代表。左から二人目が千海成統一部次官。

内容の核心は、冒頭発言に続き南北代表が行った「基調発言」にある。この内容が非公開であるが、千次官が一部を説明した。以下に紹介する。

まずは南側の基調発言の要旨から。

「基調発言では、北側が平昌オリンピックとパラリンピックにできるだけ多くの代表団の派遣を希望するという部分を伝え、共同入場、共同応援団、芸術団など関連問題に対する立場を伝えた。また、2月の民族の祝日である正月(旧正月)を契機に、南北離散家族再会行事を行うための赤十字会談を提議した。

これと共に、南北間の偶発的な衝突を防止するための軍事当局会談の開催も北側に提議した。さらに、南北相互尊重の土台の上で、協力しながら、朝鮮半島で相互緊張を高める行為を中断し,早期に朝鮮半島の非核化など平和定着のための諸般の問題を議論する対話を再開する必要があるとの立場も合わせて表明した」

これに続く北側の基調発言要旨は以下の通り。やはり韓国代表団の千統一部次官が語った。

「今回の会談を結実ある対話にし、南北間で画期的な転換をもたらす契機としたい立場と意志が確固としているという点を明かした。さらに平昌冬季五輪参加問題と関連しては、北側は高位級代表団と民族オリンピック委員会代表団、選手団、芸術団、参観団、テコンドー師範団、記者団などを派遣したいという立場を明かした。

ついで、北側は朝鮮半島の平和的な環境を保障し、民族的な和解と団結を推進し、南北間に提議される全ての問題を南北間の対話と交渉を通じ解いていこうと話した」

次に千次官は、「双方は議論をより円滑にすすめようという次元で、全体会議の終わりの部分で、双方が考える共同報道文の草稿を交換した。その後、双方の提案をより具体化させ検討しようと合意し、全体会議を終えた」と語った。

基調発言で北朝鮮の核問題に対し、韓国側が言及したのは「意外」であった。何としても平昌五輪に北朝鮮を参加させたい韓国は下手に出ると見られていたからだ。今回の会談の力関係を端的に示すものと見てよさそうだ。これに対し、北側は特段の反応を見せなかったという。

千海成統一部次官との一問一答「軍事的緊張緩和については明かせない」

先ほどの南北の基調発言に続き、今回の南北会談のスポークスマンを務める千海成(チョン・ヘソン)統一部次官の記者団向け会見の内容を紹介する。

南北会談本部に詰めかけた記者たち。筆者撮影。
南北会談本部に詰めかけた記者たち。筆者撮影。

一問一答形式だ。なお、この質疑応答は板門店の会談現場で行なわれたもので、筆者が行ったものではない。

ー会談の全般的な雰囲気は

“南北関係が硬直し、凍結した状況が続いていたが、南北間が平昌五輪を契機に、関係を復元する良い契機としていこうという点に意見を同じくする、真摯で誠実な雰囲気だった”

ー(基調発言で)非核化ための対話を持ち出した時の北側の反応は

“南側の基調発言に含まれた内容について、北側が特別に言及をしたり、反応を見せなかった。傾聴する姿を見せた”

ー(南北離散家族再会行事のための)赤十字会談への反応は

“赤十字会談の必要性については十分に説明した。持続的に議論していかなければならない、そういった環境が必要だという点を説明した”

(北側の反応については言及なし)

ー午後の議題は、平昌と(緊張緩和のための)軍事会談、離散家族再会になるのか

“北側が平昌五輪、パラリンピック参加については肯定的な立場を表明した。関連する具体的な事案について議論することになる。代表団、応援団、選手団、芸術団、参観団を送る意向があるということだが、南側の準備状況などを議論する必要がある。(それ以外にも)また、互いの立場を表明したため、その部分について具体化する作業が必要だ。韓国側の立場について根気よく説明し、可能な範囲で合意を導き出す考えだ”

ー参観団とは何か。一般の観衆が来るということ

”北側は参観団と言った。我々もそう考えるが、具体的には午後に確認する”

ー北当局の代表団についてはの言及はなかったか

”代表団についての具体的な言及はない。高位級の代表団が来ると推測する程度だ”

ー金正恩委員長の別途メッセージがあったか

”これまでは無かった。ただ、平昌参加自体が金正恩委員長の決断と指示に依るものである点はご存知の通りだ”

ー共同報道文の草案について

”韓国側は基調発言の内容を中心に準備した。北側も同様だ。午後に意見を狭めていく。全般的には平昌と関連し、北側は積極的な立場を表明した”

ー会談はいつ終わるか

”予測できない。北側としても、自身の立場を反映させたい部分があるため、予断を許さない。肯定的な会談だとしても遅延し、徹夜したこともある”

ー軍事的緊張緩和に関連し、北側の要求があったか

”具体的には明かせない”

ー開城工業団地への北側の言及は?

”明示的なものは無かった”

午後5時30分現在、2度目の会談が終わり、南北連絡官同士が3度目の会談を行うのか、会談を終わらせるのかを相談しているという。続報を伝えたい。

南北会談本部。統一部が管理する建物だ。
南北会談本部。統一部が管理する建物だ。
ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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