支持率60%台後半…文在寅大統領が世論調査から目を離せない理由とは
韓国・文在寅大統領の支持率は、5月就任直後の80%超から少しずつ下がり、最新の調査では60%台後半で推移している。世論調査の結果から支持層を分析し、これ以上下がってはいけない理由をまとめる。キーワードは「少数与党」だ。
韓国社会は世論調査好き?
「韓国はなぜあんなにも世論調査が好きなのか?」
日本のメディア関係者などにこう聞かれることが少なくない。どうやら、日本よりも世論調査が盛んだと思われているようだ。
たしかに韓国ではひんぱんに、大統領の支持率や「核武装」と「脱原発」といった個別の政策について是非を問う世論調査が行われ、発表される。
「就任100日」など特別な場合には週に10回もの調査結果が発表されることもある。今年5月9日にあった大統領選直前には4日間で25回という最高記録を叩き出した。
その結果を各紙がニュースとして取り上げるため、冒頭のような印象になるのだろう。また、政治が「市民の人気取り」に転落しやすいという批判も含んでいるように思える。
世論調査は新聞・テレビといった報道機関や政党・政府が世論調査専門機関に依頼し行うものと、調査機関が独自に実施するものに大別できる。
中でもリアルメーター社と韓国ギャラップ社の2社は、毎週2度ずつ世論調査の結果を発表する、韓国を代表する調査機関だ。
リアルメーター社は最近、韓国政治コミュニケーション学会の学術大会で、韓国内29の世論調査機関のうち、最も政治的な偏向性が少ない機関に選ばれたという。米国発祥のギャラップ社は世界的に定評を得ている。
韓国に延べ15年以上住んでいる筆者も、当初は世論調査を懐疑的に見ていた。だが実際の選挙結果と比べる場合、大きく外すことは年々少なくなっているため、民意を知る手段として、今では大いに参考にしている。
序論が長くなってしまったが、今回はこの2社の最新の世論調査結果を比べていきたい。
国政への肯定評価は65%超
まず、調査の概要についてまとめる。
リアルメーター社(以下リ社)は9月25日〜29日にかけて、46,907人を対象に電話で行った。応答率は5.4%でサンプル数は2,523人となる。誤差はプラスマイナス2.0%だ。(50%の場合、48.0%〜52.0%の可能性があるということ)
一方の韓国ギャラップ社(以下ギ社)は9月26日〜28日にかけて、全国5,851人を対象に電話で行ったものだ。応答率は17%でサンプル数は1,006人となる。誤差はプラスマイナス3.1%だ。
今回取り上げる質問は「大統領の国政遂行(職務遂行)への評価」だ。これは「良くやっているか」ということで、一般的に支持率に置き換えられる。
回答は「とても良くやっている」、「良くやっている方」、「良くやっていない方」、「良くやっていない」の4段階に加え、「分からない」で評価される。上位2段階は「肯定」、下位2段階は「否定」と区分される。
リ社では肯定評価が67.7%、否定評価が26.0%、ギ社では肯定評価が65%、否定評価が26%だった。なお、ギ社は小数点以下を発表しない。
就任一ヶ月後の6月初頭に行われた同様の調査で、リ社は75.6%、ギ社は84%だった。それから比べると徐々に下がっているが、歴代大統領と比べる場合、故金泳三(キム・ヨンサム、在任1993年2月〜98年2月)に次ぐ、高い水準だ。
次からは年代別、地域別、支持政党別と細かく見ていきたい。
年代別では20〜40代が圧倒的に支持
下の表を見ると、20,30,40代で約8割と圧倒的な支持を得ていることが分かる。その背景にあるのは、日本でも盛んに報道された「ヘル朝鮮=格差がひどい上に改善されず、未来に希望を持てない国」という認識だ。
「ヘル朝鮮」という表現は一種の階級論だ。
裕福な家庭に生まれ、十分な教育を受けてこそ良い大学、良い会社に入れ、そうでない場合には就職も結婚も放棄しなければならない、という例に代表される「無限競争」の韓国社会を憂えたこの言葉は、ここ2〜3年、急速に庶民の支持を得てきた。
こうした「不満」がピークに達したのが、昨年10月からの「崔順実(チェ・スンシル)ゲート」だった。
一般人に過ぎない崔氏が、親友である朴槿恵大統領の権力を利用し、国政の一部を左右していた事件の全容が明らかになるに連れ、公正さとは程遠い政府の体たらくに市民は怒りを爆発させた。
それが20週連続で最大232万人(主催者発表)、延べ約1700万人を動員した「ろうそくデモ」の大きな原動力となった。筆者も欠かさず取材したが、デモの現場には多くの若者や、幼い子を連れた親の姿があった。動画をぜひご覧いただきたい。
野党一の大物政治家から、朴前大統領の弾劾、そして大統領選挙を経て大統領となった文在寅氏が掲げるのは「積弊精算」、つまり韓国に積み重なった悪弊を一掃することだ。若者の期待が高い支持率となって現れている。
年代が上がるに連れ不支持が増える理由は、保守層の割合が比例して増えることによる。保守層は文大統領のことを、北朝鮮にうまく対応できず、過去の保守政権について過度の政治的報復を行っていると見ている。
地域別では地域ごとに偏りも
次に、地域別に見ていく。韓国の特徴は、地域によって支持率に偏りがある点だ。進歩(革新)派と目される文大統領は、ソウルや仁川(インチョン)市、京畿道(キョンギド)といった首都圏で人気が高い。「道」は日本の県にあたる。
また、同じ進歩派の巨頭、故金大中(キム・デジュン)大統領を支えた光州(クァンジュ)市、全羅道(チョルラド)では8割を超える圧倒的な支持を得ている。
一方、朴槿恵前大統領や、その父で韓国の近代化を進めた朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領の地盤である大邱(テグ)市や慶尚北道(キョンサンプクト)では不支持の割合が高くなる。
とはいえ、あらゆる地域で支持が不支持を上回っており、韓国特有の地域偏差は薄まっていると見てもよいだろう。
支持政党別も明暗クッキリ
韓国固有の現象として、社会のあらゆる部分についての左右の対立がある。
保守派は福祉の拡大や最低賃金の大幅引き上げに警鐘を鳴らし、進歩派は歓迎する。保守派は北朝鮮への強硬な対応を望むが、進歩派は対話と援助を優先するといった具合だ。
政党支持者の主張もクッキリと分かれる。文在寅大統領は進歩派に属するため、与党「共に民主党」や「正義党」支持者から高い支持を集める。逆に、収監中の朴槿恵前大統領が今も所属する前与党の「自由韓国党」支持者からは不支持が圧倒している。
また、「国民の党」と「正しい政党」支持者の場合では支持・不支持が拮抗している。
「国民の党」は中道を掲げた人気政治家の安哲秀(アン・チョルス)氏が16年2月、「共に民主党」から離脱する形で立ち上げた党だ。一方の「正しい政党」は今年1月、前出の「崔順実ゲート」のさなか「改革する保守」を掲げて「自由韓国党」から別れた党だ。
この二つの党は、いずれも元となった党との差別化を図っている。
このため、二大政党とは異なり法案や人事ごとに主張を変える点が特徴だ。与党が過半数に満たない中、国会におけるキャスティングボートを握っている。特に左右に幅が広く、40議席を持つ「国民の党」の存在感は非常に大きい。
ホワイトカラーに人気、主婦には不人気。職業、男女別などでの特徴は
その他の属性も見てみたい。職業別では、2社ともに学生と事務職がいずれも75%を超え(リ社の学生だけが73.4%)、上位を占めた。逆に、専業主婦や自営業者による否定評価は30%を超え、高い点が目立った。
事務職は高学歴が多く、進歩的で理知的な文大統領に共感する割合が高いし、学生は前述したように「ヘル朝鮮」を文大統領が終わらせてくれることを期待している。
主婦からの人気が比較的低い理由は「フェミニスト大統領」を自認する文大統領の女性観が、60代中盤男性の平均的な水準を出ていない保守的なものである点を、鋭く読み取られているものと見られる。
ただ、男女別の支持率を見ると特に差はない。筆者も韓国で2年間主夫生活を送ったが、孤独で簡単なものでは無かった。
そうでなくとも先進国中最低レベルの出生率の理由が「ヘル朝鮮における子育ての厳しさ」と言われて久しい。主婦が「改革」を感じられるようになるには遠いといったところだろう。
政治学者に聞く「60%を切ると危うい」
文在寅大統領は9月14日、青瓦台(韓国大統領府)で米国CNN社とインタビューを行った。
その中で「ろうそくを掲げた市民が切に願ったことことは、韓国を保守と進歩に分けることではなく、保守と進歩を乗り越え、韓国を常識的で正義が実現する国にしようということだ」と述べた。
次いで「そうして新たな政府が発足したが、依然として少数与党の局面で韓国を改革していかなければならない」とし、「立法を通じて行うべき課題は困難に直面している」と分析した。
これは前述した、国会で与党が置かれた厳しい立場を指す。法案成立のためには一般的に180議席が必要だが、これを満たすには中道の「国民の党」、保守の「正しい政党」の力を借りなければならない。
文大統領はこれを踏まえた上で、「唯一の解決法は国民たちとより緊密に疎通を行い、国民たちの支持を得ること」とした。
だが実際、文大統領の支持率は8月の70%台から60%台へと緩やかに下降している。
これをどう見るか、筆者は9月末に韓国政治に詳しい李官厚(イ・グァンフ)西江大学現代政治研究所研究教授に電話インタビューを行った。
李研究教授はまず、これまでの高支持率は政権発足直後の「ハネムーン」期間と、朴槿恵前政権末期が余りにもひどかったことによる「揺り戻し効果」が大きかったと説明する。
下記の表にあるように、不支持の最も大きな理由は、北朝鮮問題にあるが、これについては「外交というのは、その性質上、どっちつかずになる場合が多い。国民にとっては物足りなく映るもの。特に北朝鮮に対しては強硬か融和になりやすく、保守・進歩派双方で支持率に影響する」と分析した。
今後については「支持率60%台というのは自然な数値だが、これ以上下がって50%代になると黄信号だ。大統領選以前の支持率に戻るのは良くない」との持論を述べた。
韓国では来年6月に統一地方選挙が控えている。
このまま行けば与党「共に民主党」の圧勝となる可能性が高い。ただ、国会議員を決める総選挙は2020年4月まで待つ必要がある。
与党は今の過半数に満たない議席のまま、国会を運営していかなければならない。このため、高支持率を維持することが政権にとって死活問題であり続けることになる。文大統領が世論調査とのにらめっこを止める訳にいかない理由がここにある。