宣伝での「肉汁」は禁止すべきだ――壇蜜さん宮城観光PRとビールCM炎上は狙いのうちか
サントリーのビールの宣伝が炎上したばかりであるが、今度は「仙台・宮城観光キャンペーン推進協議会」が作る、観光PRがまた炎上している(毎日新聞「壇蜜さん動画 性的表現? 宮城県観光PRが波紋」)。この二つを並べて書くのは、偶然ではない。問題の構造がとても似ているからである。
ビールのCMは、出張先でさまざまな美女と食事をし、女性たちが、性的なことを連想させる発言をしたり、エロティックに食事をするというものだった。観光PR動画は、伊達家家臣の末裔といいう設定の壇蜜さんが扮するお蜜が、「殿方に涼しいおもてなしをする」という使命を果たすという設定である。動画の内容は、お蜜がいやらしく仙台名物を食べさせたり、どきりとするような発言をするなど、ほとんど重なっている。
今後は肉の宣伝でない限り、「肉汁」という言葉の使用を禁止したらどうだ、と思ったぐらいだ。
二つのCMに共通することは、置かれている場所が不適切だということだ。ビールのCM批判の論考で、あまり指摘はされていなかった気がするが、最近の青年漫画でよくみられる、女性がエロティックに食事をするという作品が想起された。なかには、女性が食事をするシーンで、男性が性的に興奮してしまうという設定のものもある。しかし私は漫画の作品には、何とも思わなかった。なぜなら自分で選んで、その作品を読んでいるからであり、自分の選択だったからである(自分で購入したとしても、雑誌のなかでみたら、また違うかもしれないが)。
壇蜜さんによるCMも、おそらく深夜のバラエティ番組であれば、「よくこんな意味深なことを、相変わらず考えるねぇ」と笑っておしまいになったかもしれない。しかしこのCMは、官民による自治体の宣伝CMなのだ。やはり公共性をもつがゆえに、不適切であると言わざるを得ない。
例えば小学生の女の子が、「いっちゃう?」(唇のアップ)、「肉汁、トロットロ。牛の舌」、「もう、欲しがりなんですからぁ」、「気持ちいいですかぁ?」、「あっという間にイケちゃう」と真似をしたとしたら、ぎょっとせずにいられるのだろうか。カメの頭をなでて「上、乗ってもいいですか」というとと、興奮したカメが顔を赤らめるシーンを、子どもに何と説明するのか。
そういう視点で見て、イエスといえないシーンは、公共性の高いCMに使ってはいけない。
炎上は決して成功には繋がらない。
これらのCM制作者は、「まさか炎上するとは思わなかった」、とはいわないだろう。
ここのところ、テレビのCMで炎上したものは、ほとんど思いだせない。炎上でもしないかぎり、あまり注目されないネットのCMばかりである。炎上すれば、ツイッターなどのSNSで瞬く間に拡散される。「バズる」ことも念頭に置きながら、「それはそれで、儲けものかもしれない」と思っている節がないか。
村井嘉浩宮城県知事も、「賛否両論あったことは逆に成功につながっているんじゃないか」といっている。しかし答えは、明確にNOである。
例えば去年、うな子のCMで炎上した志布志市。志布志市という自治体の存在を、私は炎上CMではじめて知った。しかしやはり、いいイメージはもてない。「女性職員がCMに疑問を投げかけたのに、そのまま公開を敢行した」などと聞くと、「女性には過ごしにくい土地柄なのかなぁ」とすら疑ってしまう。たんなる勝手な憶測で、実に申し訳ないし、事実は不明である。しかしそういう想起をさせてしまうという意味で、CMは失敗だった。なぜなら、「よいイメージ」をもってもらうことがCMの目的だからである。
ビールに関しても、「頂」は買わない、というCMに批判的な消費者の発言をよく目にした。私も、ビールの名前は強烈に覚えた。しかし、ビールの売り場でわざわざ手に取ることはしないし、むしろ避けるだろう。
宮城・仙台のCMもそうである。あのCMでみた素敵な場所に行ってみたいなという気分になる視聴者が、どれくらいいるのだろうか。観光PRのCMは、まさに「よいイメージ」をもってもらうために作ったのではないのか。
企業や自治体はおそらく、障がい者差別や外国人差別、出身地の差別で炎上する可能性を考えれば、もう少し慎重にネットCMをつくるだろう。しかしそれが、「女性差別」といわれる可能性となったときには、GOサインの基準が甘くなっているのでないかと、最近疑っている。
だが、人口の半分、CMの受け手の半分は、女性である。そのこともまた、忘れられているのではないだろうか。