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千葉大医学部生強姦事件などを防ぐために――新学期、キャンパスの学生たちが知るべき知恵

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:アフロ)

大学で新学期が始まる直前、千葉大医学部生の強姦事件の被告の1人にまず、有罪判決が出ました。ここのところ、大学生の集団強姦事件報道が続いています。

私は、ここ10年間ほど、アメリカの大学のキャンパスやNPOなどで、こういった事件への取り組みにかんする、聞き取り調査を行ってきました。大学教員として、新学期を前にどうやったらこのような事件を防げるのかを、考えてみたいと思います。

お酒に酔ってもOK

個人的にはこうした事件に共通するのは、「酒」の問題と「集団意識」の問題であると思います。まずはお酒に関してですが、大学に入学したばかりの学生の多くは未成年です。法律を守って、未成年は飲酒しないようにしてください。そこは強調しておきたいと思います。

そのうえで、女性は性犯罪の「被害者」になり得るのだから、節度をもち、飲酒をできるだけしないように――とはあまりいいません

本来は、女性が酔っぱらってもOKです。

「被害者」に飲酒の節度を求めることは、

「なぜそんなに飲酒してしまったの?」

「被害にあったのは、被害者がきちんとしていなかったからでしょう?」

という自己責任論を呼び込みます。

アメリカのキャンパスでの聞き取り調査では、「お酒を飲むのもOK、酔っぱらってもOK」と繰り返されるのが、意外でした。

「問題は、事件を引き起こす側にあります。それをどう防ぐかが問題です」

多くの事件の報道でわかることは、女性への強姦計画の一部には、「なんとか女性を酔わせてつぶす」ということが入っています。

また、違法なドラッグや度数の高いアルコールを使用したのではという疑惑のある(実際に使用した)事件も、あります。

自己防衛ばかりを求めれば、被害者が責められてしまい、事件の本質が見失われてしまいます

ですから「被害者」ばかりに、飲酒の節度を求めることを求めないのかなと、思いました(とはいえもちろん、酔わないほうが望ましいのもまた事実ではありますが)。

また実は、被害にあうのは女性ばかりではありません。

「被害者」の10~20パーセントは、男性であるといわれています*。

男女とも、「被害者」にはなり得るのです

周囲の人間の責任

アメリカで啓蒙対象とされているのは、「傍観者」であると感じました。

「誰かが酔っぱらってしまったら、絶対に集団から離さない。誰かがそのひとを連れ出そうとしたら、全力で止める。衆人環視のなかで、事件が起こる可能性はほぼない。あっても、ぐっと低くなります」

居酒屋を舞台とした事件でも、お手洗いであったり、使っていない部屋であったり、みんなとは隔絶した場所が舞台となっています。見張りを立てた事件もありました。

酔っぱらってしまったなという友達がいたら、ひとりにしないで、みんなでお手洗いに付き添ったり、誰かと抜け出したりするのを止めたり(例えそれが、ロマンティックな関係に発展しようとしている相手であっても)、事件を防ぐ努力をしてあげなくてはなりません。

「ひょっとしてまずいことになりそうだ」と感じたときには、介入の仕方はいくつもあります**。紹介しましょう。

1.状況を変える

たとえば、絡まれてる女性の携帯に電話して質問する、「もう帰る時間だよ」という――嫌がらせをしている男性に対して、正面から注意することは勇気が必要でも、気を逸らす程度のことならできるはず。

2.集団で介入する

ひとりで何かをするよりも、集団でのほうがやりやすいです。

加害者になり得る人の気を逸らしたり、被害者になりそうなひとを状況から離したりする。

3.店のひとを呼ぶ

自分たちには無理でも、バーテンダーやガードマンなど助けを求めることはできます。

4.行動する

友達や誰かに相談することは、それは決して恥ずかしいことでもなく、重要なことです。

特に素面の人に相談することは大事です。

5.備える

自分の行動に責任をとりましょう。

(とくに男性は)どう振る舞うべきかということを考え、すべき行動を選択をするということです。

「(本当の)男らしさ」とは、暴力をふるうことなのか、それとも止めることなのか、立ち止まって考えてみてください。

加害者にならないために

加害者にならないためになによりも重要なことは、「同意をとること」です。いつどこで相手が、「イエス」といったのか。

それが証明できれば、加害者であるとはいわれないでしょう。

もちろん、イエスといった相手も、「それ以上は嫌だ」ということがあるでしょう。一度イエスといったからといって、ずっとイエスとは限りません。

ですからつねに、相手の意向を気にし続ける必要があります。

相手が酔っぱらってしまっていたら、薬物でハイになっていたら、絶対に性的な行為をしてはいけません

同意を取ることができないし、たとえ同意をしていても、本当にきちんと判断しているのか、疑わしいとみなされるからです。

それは「加害者」とされてしまう側が、身を守ることにもつながります。

近年、集団での強姦事件が報道されています。

こうした事件は、性欲からというよりもむしろ、「みんなで禁じられていることをする」という仲間意識を培う楽しみからだと考えられています。禁止されていればいるほど、「勇敢なことをした」と考えるのかもしれません

でも想像してみてください。

自分たちの名前や加害者がしたことを報道されているシーンを。

「被害者」を傷つけるのはもちろんです。

しかし何よりも加害者が、本当に情けなく、みっともない。

最高に「ダサいこと」だと思います。

*聞き取りに行ったMen Can Stop Rapeの性的暴力にあった男性についてのMen Who Have Been Sexually Assaultedパンフレットなどが、被害にあった男性については示唆的です。加害者の86パーセントは、男性です。

**これもMen Can Stop Rapeの聞き取り調査より。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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