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ウクライナの軍事メーカー、無人の対人地雷除去マシン「アイアン・キャタピラー」開発中

佐藤仁学術研究員・著述家
対人地雷除去マシン「アイアン・キャタピラー」(TEMERLAND)

2023年9月にウクライナの軍事メーカー「TEMERLAND」が、開発している対人地雷除去マシン「アイアン・キャタピラー」のイメージ動画を公開していた。リモート操作で無人のシンプルな鉄の塊が回転して対人地雷にぶつかると、対人地雷が爆発する。名前の「アイアン・キャタピラー」の通り、鉄の塊が回っているだけなので、動画では対人地雷を爆破して除去しても、そのまま回転を続けることができるようだ。

▼ウクライナの軍事メーカー「TEMERLAND」が開発している「アイアン・キャタピラー」

ウクライナではこのような無人除去機を様々な軍事メーカーやボランティア、農民らが開発している。2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻してから、ロシア軍は大量の対人地雷、戦車用の地雷をウクライナの最前線に設置している。ロシアは対人地雷の使用、生産、移譲などを禁止しているオタワ条約(対人地雷全面禁止条約)に加盟していない。

多くのウクライナ兵や一般市民が対人地雷の犠牲になっている。地雷では殺害されることはほとんどないが、手足が吹っ飛んでしまう。また小型のおもちゃのようにも見える対人地雷は子供や一般市民が拾ってしまい、爆発したら手足が吹っ飛んでしまう大けがをすることになる。地雷の他にも不発弾や、迎撃されたが上空で爆発しないで墜落した「爆弾を搭載した神風ドローン」なども地上に散乱しており、それらも何も知らずに踏んだり触ったりしてしまうと爆発する危険性がある。

ウクライナ政府やウクライナ軍は欧米諸国が軍事支援で提供してくれたり、ウクライナ人自らが独自に開発したりした地雷除去用の無人車などで地雷原で地雷の除去をしている。しかし地雷除去車は足りていない。欧米諸国が提供してくれる無人の地雷除去車は大型のものが多いので対戦車地雷の撤去には向いている。だが、地雷除去車は稼働するときに大きな騒音を伴うデメリットがある。大型でも小型でも「無人地雷除去車」は鉄の塊やチェーンで草原の地雷を探知し、地雷を探知したら爆破して除去する。特に大きな地雷除去車は鉄の塊やチェーンが回るたびに、そして特に対戦車地雷を除去する際の爆発で大きな音がする。そのため、すぐにロシア軍に発見されて攻撃の標的にされてしまう。さらに地雷原で破壊されてしまった無人地雷除去車を片付けるためには、周囲の地雷を除去してから地雷除去車を撤去しないと、地雷除去車を撤去するためのレッカー車やトラックが地雷で爆破されてしまう危険がある。

大型の無人地雷除去車は大量の対戦車地雷を除去するには適しているが、作業時には大きな音もするし、上空からも目立つのですぐにミサイルや攻撃ドローンの標的にされて破壊されやすい。対戦車地雷は爆発音も大きいが、対人地雷除去作業も静かにできるわけでない。動画を再生してもわかるように鉄の塊が回って動くだけで、それなりの音はするので目立ってしまう。リモート操作で無人機なので人間の兵士が攻撃時に命を落とすリスクはない。だが地雷除去車は破壊されたら草原に鉄の塊が残るだけで、地雷除去車自体の撤去作業にも相当な稼働とコストがかかる。それでも地雷は除去しないといけないし、人間の兵士や当局職員では時間もかかり危険性も伴うので、ロシア軍から破壊されるリスクも大きいが地雷除去車で作業を続けている。

対戦車地雷は戦車を撃破することを目的にしているので破壊力も強い。人間が対戦車地雷と知らずに触ってしまったら大爆発して死亡する可能性が高い。

そしてロシア軍はウクライナに侵攻してから勝手に対人地雷、対戦車地雷を敷設しており、ウクライナ政府職員やウクライナ軍の兵士が地雷を探知したら丁寧に爆破して除去している。人間の兵士が地雷を探知して除去するのは大変な作業で危険を伴っている。1日に除去できるのは15メートルから25メートル程度だそうで、かなりの時間もかかる。

対戦車地雷のように道路に置いてあり、上空からも目立って見える地雷はドローンで見つけてドローンから爆弾や手榴弾を投下して地雷ごと爆破している。だが多くの地雷は草原や茂みなど目立たないところに敷設されていて、兵士や一般市民が地雷とわからずに触れてしまい爆発している。そのため地雷の探知と除去も命がけである。今回の「アイアン・キャタピラー」が実用化されれば、対人地雷の除去も効率化されることが期待できる。だが鉄の塊が回っていることと、地雷を除去した時には爆破されるので、それなりの音はするだろう。公開された動画の後半部でも試験機がコンクリートの上を回っていたが結構な音がしている。「アイアン・キャタピラー」は小さく小回りも利きそうだが、ロシア軍にすぐに検知されて破壊されてしまう恐れはあるだろう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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