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イラン製軍事ドローン「シャハド」2022年9月の使用開始から1年で2000機以上でウクライナへ攻撃

佐藤仁学術研究員・著述家
イラン製軍事ドローン「シャハド」による攻撃での火災(提供:Press service of the State Emergency Service of Ukraine/ロイター/アフロ)

2023年9月にウクライナ軍は公式SNSで、ロシア軍がイラン製軍事ドローン「シャハド」を2022年9月13日に初めて使用を開始してから1年で2000機以上でウクライナを攻撃してきたことを発表した。

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。イラン製軍事ドローン「シャハド」は標的に向かって突っ込んでいき爆発する、いわゆる神風ドローンである。2022年10月からロシア軍は本格的にイラン製軍事ドローン「シャハド」で攻撃を行っており、2023年9月になってもその勢いは全く収まっていない。

▼2022年9月から1年間でイラン製軍事ドローン「シャハド」2000機以上でウクライナを攻撃してきたことを伝えるウクライナ軍の公式SNS

2022年7月からイラン政府がロシア軍に軍事ドローンの提供で協力している。米国の国家安全保障担当大統領補佐官のジェイク・サリバン氏は2022年7月11日にホワイトハウスの記者会見で、イラン政府がロシア軍に対してウクライナ紛争で使用するためのドローン数百台を提供する可能性があると語っていた。イランは7月からロシア軍に攻撃ドローンの訓練も行っていた。米国のシンクタンクの戦争研究所は、イラン政府がロシア軍に対してイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」を46機提供しているとの調査結果を発表していた。米国CNNの報道によると、ロシア軍はイランでウクライナでの戦闘のために、イラン政府が提供した攻撃ドローンの操縦訓練を行っている。CNNによるとイラン製の攻撃ドローン「シャハド129(Shahed129)」のほかにイラン製の監視・偵察ドローン「サーエゲ(Shahed Saegheh・Shahed191)」もロシア軍に提供されるということだった。

ロシアのプーチン大統領は2022年7月19日にイランを訪問し、最高指導者ハメネイ師、ライシ大統領と会談していた。ハメネイ師はイランとロシアの中長期的な協力関係をプーチン大統領に呼び掛けていた。

2022年7月にイランを訪問したプーチン大統領
2022年7月にイランを訪問したプーチン大統領写真:代表撮影/ロイター/アフロ

2022年8月には米国国防総省のパット・ライダー報道官は「イランの飛行場からロシアに向けて軍事ドローンが輸送された。ロシア軍はイラン政府からイラン製の軍事ドローン数百機をこれから調達する予定。入手した情報によると、今回輸送されたイランの軍事ドローンはすでに多くの不具合(numerous failures)が生じている」と語っていた。

2022年9月からイラン製のドローン「シャハド136(Shahed136)」と「マハジェル6(Mohajer6)」がウクライナでの攻撃に使用されるようになった。ロシア軍が以前に使っていたロシア製の軍事ドローンに代わって多くのイラン製ドローンで攻撃を行っており、ウクライナ軍によっても迎撃された写真や動画も公開されている。また2022年9月にウズベキスタンで開催されていた第22回上海協力機構首脳会談で、イランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領は会談し、NATOの脅威は欧州だけでなく世界共通の脅威であると語っていた。

2022年9月の上海協力機構首脳会談でのイランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領
2022年9月の上海協力機構首脳会談でのイランのライシ大統領とロシアのプーチン大統領写真:代表撮影/ロイター/アフロ

2022年10月にウクライナ軍は「ロシアにはまだ約300機のドローンが残っています。さらにロシア軍は数千機のドローンを購入する予定があります」と公式SNSで伝えていた。また、ロシア軍はウクライナ攻撃と欧州からの軍事支援阻止のためにキーウに近いベラルーシにもイラン製軍事ドローンを配置すると報じられていた。

そして2022年10月には首都キーウへの攻撃にイラン製の軍事ドローンが多く使用されていた。イラン製の軍事ドローンはロシア軍のウクライナ侵攻のために開発されたものではなく、イランにとっては敵国であるイスラエルを標的にして使用することを念頭に開発されたものだ。そのためロシア軍がウクライナで使用しているイラン製の軍事ドローンの攻撃力、破壊力についてはイスラエルのメディアも強い関心を示していた。

同じく2022年10月には米国国務省の報道官のネッド・プライス氏が「イラン軍の兵士がロシア軍が支配しているウクライナのクリミアに入ってロシア軍に攻撃ドローンのトレーニングをしている」と記者会見で述べていた。だがイラン政府はロシア軍への攻撃ドローンの提供は否定していると報じられていた。

2022年11月にはイランの外務大臣のアブドラヒアン氏が、ロシア軍がウクライナに侵攻する数か月前にイラン政府はロシア軍に攻撃ドローンを提供していたことを初めて公式に認めたと国営イラン通信が報じていた。それに対してウクライナのゼレンスキー大統領は「イラン政府がロシア軍に少数しか提供していないはずはない。キーウにも大量の軍事ドローンでの攻撃がある。イラン政府はまだ嘘をついている」と批判していた。

米国メディアのワシントン・ポストが2022年11月に、イランの軍事ドローンをロシアで生産していくことに両国が合意したと報じていた。さらに2022年11月17日からイラン製軍事ドローンの使用が報告されていないことからイラン製軍事ドローンは枯渇したのではないかという予測を英国国防省が発表していた。

2022年12月になってからロシア軍ではイラン製の軍事ドローンによる攻撃を再開し、ウクライナの民間施設やエネルギー施設を攻撃しており、オデーサなど主要都市では電力供給が停止されてしまい150万人以上の市民生活にも大きな影響が出た。また首都キーウにもイラン製軍事ドローンで襲撃をしていた。ウクライナ国防省情報局のスポークスマンのアンドリ・ユソフ氏が、ロシア軍がイラン製軍事ドローンを追加で調達したことを地元メディアで伝えていた。2022年12月には英国下院でウォレス国防大臣が「イランはロシアにとって最大の軍事支援者になっている。ロシア政府はイランから300機を超える神風ドローンの提供を受けた見返りに、ロシアは中東と国際社会の安全保障を損なう"高度な軍事部品"をイラン政府に提供する計画がある」と語っていた。

2023年1月にはウクライナ軍情報部が、ロシア軍は1750機のイラン製軍事ドローンを調達しており、そのうち約660機を既に使用しているとの見解を発表。2023年1月には米商務省はイランの軍事ドローンを開発している企業など7団体に輸出規制を課した。イラン国連代表部はロイターの取材で「イランの軍事ドローンは全てイラン国内で製造されているため、米国による制裁はイランでの軍事ドローンの開発に全く影響を与えない。このことはウクライナで迎撃されて破壊されているドローンで西側諸国の部品を使用しているドローンがイランのものではないことを強く示唆している」と語っていた。

2023年2月には米財務省が、イランの軍事ドローン企業でロシア軍がウクライナで攻撃に使用している「シャハド」シリーズを開発している「パラバル・パルス(Paravar Pars)」のCEOやタングシリ司令官ら8人に資産凍結などの制裁を科すと発表した。

2023年8月にウクライナのゼレンスキー大統領は自身の公式SNSで、ロシア軍が使用しているイラン製軍事ドローン「シャハド」が既に少なくとも1961機使用されたことをショート動画でのコメントで明らかにしていた。そして約1か月後に2000機を超えたことをウクライナ軍が公式SNSで発表した。

▼2023年8月にイラン製軍事ドローン「シャハド」による攻撃が1961機だったことを伝えるゼレンスキー大統領の公式SNS

イランの兵器のほとんどは1979年まで続いた王政時代にアメリカから購入したもので、現在はアメリカとの関係悪化による制裁のためアメリカから購入できないので、特にドローン開発に注力している。イランの攻撃ドローンの開発力は優れており、敵国であるイスラエルへも飛行可能な長距離攻撃ドローンも開発しているので、イスラエルにとっても脅威である。イスラエルのガザ地区の攻撃の際にはパレスチナにドローンを提供してイスラエルを攻撃していたと報じられていた。またイランでは開発したドローンを披露するための大規模なデモンストレーションも行ってアピールもしていた。

▼イラン製軍事ドローン「シャハド136」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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