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ウクライナ軍、リトアニア提供の迎撃システムでロシア軍の中国製民生品の偵察ドローンを機能停止

佐藤仁学術研究員・著述家
リトアニア製ドローン迎撃システム「EDM4S」(ウクライナ軍提供)

ロシア軍、偵察ドローン「Orlan-10」だけでなく小型民生品ドローンも偵察に使用

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生品ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。そして両軍でドローンの撃墜が繰り返されている。

ウクライナ紛争では最近ではロシア軍によるイラン製軍事ドローンによるウクライナの民間施設やエネルギー施設への攻撃によって150万人以上の市民への電力供給が止まってしまったことや、ウクライナ軍によるロシア領土の空軍基地へのソ連製ドローンによる攻撃などが目立っている。だが、両軍ともに小型の民生品ドローンが監視・偵察だけでなく、爆弾を搭載して攻撃用にも使用されている。

そんな中、ウクライナ軍がロシア軍が使用していた中国製の小型民生品ドローンを迎撃して墜落させた動画を公開。アゼルバイジャンのメディア、kanal13が報じていた。

ウクライナ軍はリトアニアが提供したリトアニア製のドローン迎撃システム「EDM4S」で、上空の中国製の小型民生品ドローンを機能停止させた。ロシア軍はもっぱら偵察ドローン「Orlan-10」を使用して監視・偵察を行ってきた。そしてウクライナ軍も多くの「Orlan-10」を破壊してSNSで写真を公開してきた。だが、ロシア軍では「Orlan-10」だけでなく、このように中国製の小型民生品ドローンも使用して監視・偵察を行っている。

▼ウクライナ軍がリトアニア製ドローン迎撃システム「EDM4S」を用いて中国製小型民生品ドローンを機能停止(アゼルバイジャンのメディア、kanal13)

小型民生品ドローンでも再利用されないために回収

上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破させる、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。爆弾などを搭載していない小型の監視・偵察ドローンならばジャミングで機能停止させる"ソフトキル"で迎撃できるが、中型から大型の攻撃ドローンの場合は対空機関砲や重機関銃のような"ハードキル"で上空で爆破するのが効果的である。今回のリトアニア製のドローン迎撃システム「EDM4S」は"ソフトキル"タイプである。

このような"ソフトキル"タイプのドローン迎撃システムは監視・偵察用の小型ドローンを上空で機能停止させるのに適している。監視・偵察用の小型ドローンは開発コストも安く民生品をいくらでも利用できるので、上空で機能停止されても次から次に飛んでくる。そのためこのようなドローン迎撃銃は何台でも必要である。

地対空ミサイルシステムや防空ミサイルのような大型システムで監視ドローンを攻撃して爆破させるのはコストもかかるし、大げさかと思うかもしれない。しかし監視ドローンこそ検知したらすぐに破壊しておく必要がある。監視ドローンは小型でも大型でも「上空の目」として戦場では敵の動向をさぐるのに最適である。

監視ドローンで敵を検知したらすぐに敵陣をめがけてミサイルを大量に撃ち込んでくる。監視ドローンとミサイルはセットで、上空の監視ドローンは敵からの襲撃の兆候である。また部品を回収されて再利用されないためにも徹底的に破壊することができる"ハードキル"の方が効果がある。

今回の動画でもウクライナ兵が墜落させた小型民生品ドローンを走って回収してきた様子が映っている。ドローンで既にロシア軍に察知されていたら攻撃される危険があるかもしれないが、再利用されないためにも機能停止して墜落させたら回収して機体ごと破壊しておくことが重要である。

▼リトアニアがウクライナ軍に提供している「EDM4S」

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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