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ウクライナ領土防衛隊、ポルタバに初攻撃のロシア軍ドローンをライフルで3機撃墜

佐藤仁学術研究員・著述家
ロシアの攻撃ドローンを迎撃するウクライナ領土防衛隊 (ウクライナ領土防衛隊提供)

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。そして両軍によって上空のドローンは迎撃されて破壊されたり機能停止されたりしている。

2022年10月に入ってからロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した標的に向かって突っ込んで行き爆発する、いわゆる神風ドローンの「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウを攻撃している。国際人道法(武力紛争法)の軍事目標主義(軍事目標のみを軍事行動の対象としなければならない)を無視して文民たる住民、軍事施設ではない民間の建物を攻撃している。一般市民の犠牲者も出ている。

ウクライナ軍やウクライナ領土防衛隊はキーウや主要都市の一般市民を保護するためにも、上空のドローンを徹底的に破壊するために日夜、迎撃を行っている。

ウクライナ領土防衛隊は「ロシア軍の攻撃ドローンが初めてポルタバを攻撃してきました。ウクライナ領土防衛隊で3機のドローンを撃墜させることができました。ウクライナ市民の生活と生命を守ることができました」とライフル(小銃)でロシア軍のドローンを迎撃している写真と銃弾の写真を公式SNSで公開していた。

▼ウクライナ領土防衛隊の公式SNS

攻撃ドローンは上空で徹底的に破壊を

首都キーウでは地元の警察官が銃で上空のイラン製神風ドローン「シャハド136」を迎撃しており、何機かの「シャハド136」を墜落させていた。その様子は市民や監視カメラなどで撮影や録画されており、国内外の多くのメディアでも報じられていた。

ドローンは攻撃用も監視用も探知したらすぐに迎撃して破壊してしまうか、機能停止する必要がある。上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破させる、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。

ウクライナ領土防衛隊やウクライナ軍がロシア軍の攻撃ドローンを破壊しているのはハードキルである。今回のポルタバのウクライナ領土防衛隊もライフル(小銃)での撃墜なので、ハードキルだ。キーウの警察官らも銃だけで迎撃していたが、銃弾が命中しても地対空ミサイルや迎撃ドローンシステムのように上空で破壊されずに、地上に落下して爆破してしまうこともある。そのため攻撃ドローンを上空で徹底的に破壊しておくことがウクライナ国土の防衛にとっても重要である。

攻撃ドローンだけでなく、偵察ドローンもすぐに迎撃しなくてはならない。偵察ドローンは攻撃をしてこないから迎撃しなくても良いということは絶対にない。偵察ドローンに自軍の居場所を察知されてしまったら、その場所にめがけて大量のミサイルを撃ち込まれてしまい大きな被害を招きかねないので、偵察ドローンを検知したら、すぐに迎撃して爆破したり機能停止したりする必要がある。回収されて再利用されないためにもドローンは上空で徹底的に破壊しておいた方が効果的である。

▼ライフルで迎撃するキーウの警察官やウクライナ軍

ホロコースト時代には多くのユダヤ人が殺害されたポルタバ

そしてポルタバは第二次世界大戦前の1920年代には約2万人のユダヤ人が住んでいた。ナチスが侵攻してきて、1943年9月にソビエト軍が解放するまでに約1万人のユダヤ人が殺害された。イスラエルのホロコースト博物館には今でも当時の多くの歴史的資料が残されている。ウクライナ出身のユダヤ人にとっては辛い想い出が多いという人もいる。

ウクライナのゼレンスキー大統領はイスラエルに対してアンチドローンシステムの提供を訴え続けている。イスラエルにはドローン迎撃のためのアイアンドームやアイアンビーム、さらには地対空ミサイルなどが既にあり、それらはハマスからの攻撃ドローンやミサイルを迎撃してイスラエルの国土防衛に大きく貢献していた。このようにイスラエルにはドローン迎撃システムではすでに多くの実績がある。

ウクライナ軍はイスラエルに対して一方的に秋波を送っているが、イスラエルはロシア・ウクライナそれぞれとの関係を考慮してウクライナ紛争については中立であり、表面上は冷静である。ユダヤ系のゼレンスキー大統領がロシアの軍事侵攻直後の3月に、イスラエルの国会でビデオ演説で「イスラエルのミサイル防衛システムは世界で一番強いことを誰もが知っています。イスラエルの皆さんは必ずウクライナの人々と、ウクライナに住んでいるユダヤ人の命を救うことができます」と軍事支援を呼びかけたが、イスラエル政府は中立な立場を維持している。

ゼレンスキー大統領はイスラエルの国会でのビデオ演説で、ロシア軍の侵攻をナチスドイツがユダヤ人を大量虐殺したホロコーストになぞらえて「ロシアは、ウクライナへの侵攻をナチスドイツがユダヤ人絶滅の際に使った『最終的解決(Final Solution)』という言葉を使用している」と訴えていた。だがこの演説でホロコーストについて触れたことがイスラエルのユダヤ人たちをウクライナ支援からますます遠ざけてしまった。

ゼレンスキー大統領自身がユダヤ人で、祖父がホロコースト生存者である。だが、このゼレンスキー大統領の演説で、ロシア軍のウクライナ侵攻をホロコーストになぞらえていることに対しては、多くのイスラエルの国会議員や市民が異を唱えていた。彼らにはとっては、ホロコーストとはナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺戮された事件のみであって、他の事件と比較すべきではないというのがイスラエルのユダヤ人の主張である。ホロコーストは「the Holocaust」(theがついて大文字のHから始まる)と表記されて、ユダヤ人がナチスドイツによって虐殺されたホロコースト以外にはない「世界に唯一のもの」という意識が強いので、ロシア軍のウクライナ侵攻をホロコーストに例えることを許せなかったユダヤ人は多かった。だからと言ってイスラエルがロシアを支援することもない。

▼ゼレンスキ―大統領がロシアの侵略をホロコーストと比較してイスラエルの議員らに協力を呼びかけたスピーチのニュース

首都キーウへのイラン製軍事ドローン攻撃後もイスラエルに軍事支援要請したが・・

イスラエルには戦後に主に欧州やソビエト連邦(ロシア)からのユダヤ人らがやってきた。ロシアから来たユダヤ人、ウクライナから来たユダヤ人がイスラエルには多くいる。ロシアからは冷戦後にも多くのユダヤ人が移民でやってきた。

彼らは自分たちや祖先が住んでいた国を支援しているわけではない。例えばポーランドやリトアニア、西欧諸国からイスラエルに来たユダヤ人の多くは今回の紛争ではウクライナに同情的である。ロシアから来たユダヤ人はロシア人から迫害、差別されていたし、ウクライナから来たユダヤ人はホロコーストの時代にはナチスドイツだけでなく多くのウクライナの地元住民もユダヤ人殺害に加担していたこともありロシアやウクライナに対する感情もそれぞれの出自や家族の経験によって複雑である。

ウクライナでは1918年~1919年の1年間に1200件ものポグロム(ユダヤ人集団殺害)が行われ、その3分の1以上がウクライナ国民軍によるものだった。そして第二次世界大戦時にはナチスドイツの親衛隊は誰がウクライナ人で、誰がユダヤ人かの区別がつかなかったので、地元のウクライナ人らにユダヤ人狩りをさせて連行させ、射殺させた。ウクライナでは根強い反ユダヤ主義が歴史的に続いていたため、多くのウクライナ人がナチスドイツに協力したし、ナチスドイツの命令を断ることができなかったウクライナ人も多かった。ナチスによって殺害されたユダヤ人の財産を強奪し、彼らの家を占領するウクライナ人が後を絶たなかった。そしてホロコースト時代最大の大量虐殺と言われているバビ・ヤールでは1941年9月に3万人以上のユダヤ人が射殺された。地元のウクライナ人がユダヤ人を処刑場所に連行し、逃げられないように見張っていた。このような組織的大量虐殺も地元のウクライナ人の協力があったからこそ遂行できた。ナチスドイツはウクライナで85万~90万人のユダヤ人を殺したと推定されている。そのためホロコースト時代にウクライナに住んでいたユダヤ人にとっては、ナチスドイツの手先となってユダヤ人殺害に加担していたウクライナ人は大嫌いで思い出したくもないという人も多い。

辛うじて生き延びることができて、ポルタバから命からがらイスラエルやアメリカなどに移住することができたユダヤ人も多い。移住してきた世代はもう高齢化が進んだり他界している。だが、生存者らの経験や証言はデジタル化されて今でも語り継がれている。特にバビ・ヤールでのナチスと地元ウクライナ人による残虐非道なユダヤ人大量殺害の蛮行は映画やドラマ、ドキュメンタリーも多く製作されて、当時の記憶が世界中に継承されている。

イスラエルが保有しているアイアンドームやアイアンビームがあれば、このようにライフル(小銃)で迎撃するよりも遥かに精確で効率的に攻撃ドローンは迎撃できるだろう。上空から大量に軍事ドローンがいっせいに標的めがけて攻撃してきたら、地上のライフル(小銃)では対抗できない。ドローンの方が優位である。ウクライナ軍は首都キーウがロシア軍のイラン製攻撃ドローンによる大量攻撃を受けてからも公式SNSでイスラエルに軍事支援の協力を呼びかけていた。だが、イスラエルは中立を維持してウクライナだけへの肩入れはしていない。

イスラエルの国土防衛と安全保障の根底には「二度とホロコーストを繰り返さない。二度とユダヤ人が大量虐殺の標的にされない」という強い信念がある。イスラエルでは徴兵に行く若者たちがホロコースト博物館でホロコーストの学習をしたり生存者の体験を聞いたりして、ユダヤ人として国家防衛の重要性を学んでいる。戦後にイスラエルを建国してから、二度とホロコーストの犠牲にならないという強い想いで陸海空サイバーの全ての領域における安全保障と国防、攻撃から防御まであらゆる防衛産業を強化してきた。そのような思いを根底にして開発してきたイスラエルの強力な防空システムを、かつてユダヤ人殺害にも加担してきたウクライナが求めている。

だがウクライナ軍がイスラエルに支援を要請することに対して「宗教が違うというだけで隣人だったユダヤ人を長年にわたって散々差別、迫害して、さらに大量虐殺に加担してきたのに、今さら何を・・」、「ナチスドイツが侵略してきた時に"助けてほしい"と助けを求めてきた隣人のユダヤ人を無視して、ナチスのホロコーストに加担していたウクライナ人が、ロシア軍が侵略した時には自分たちを"助けてほしい"なんて都合が良すぎじゃないですか?」、「ホロコースト時代にあなた方ウクライナ人に残酷に殺された無実のユダヤ人たちの悲痛な叫び声が聞こえませんか?」、「今、ウクライナ兵がロシア兵に向けて撃っている銃はかつて隣に住んでいた罪のなかったユダヤ人に向けられていました」と露骨に嫌悪感を覚えるユダヤ人もいる。

▼イスラエルの「アイアンドーム」

▼イスラエルの「アイアンビーム」

▼首都キーウがイラン製軍事ドローンによって攻撃を受けてからウクライナ軍はイスラエルに軍事支援を公式SNSでも呼びかけ

▼バビ・ヤールでの蛮行を扱ったドキュメンタリー番組のワンシーン

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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