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TikTok「ホロコースト否定」検索されたら世界ユダヤ人会議とユネスコが作った解説サイトへ誘導

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

TikTokでは2022年1月27日から「ホロコースト否定」に関する用語がTikTokで検索されたら「AboutHolocaust.org」(ホロコーストについて)という解説サイトに誘導されるようになった。

世界ユダヤ人会議(The World Jewish Congress:WJC)は国連教育科学文化機関(ユネスコ)と連携して、AboutHolocaust.orgというサイトを立ち上げた。名前の通り「ホロコーストについて」であり、ホロコーストの歴史やデジタル化されたホロコースト生存者の証言などをオンラインで公開している。

このサイトはロシア系ユダヤ人の大富豪で英国のフットボールチーム・チェルシーFCのオーナーであるロマン・アブラモヴィッチ氏が資金援助を行っている。ホロコースト生存者のインタビューを行って、彼らの記憶のデジタル化を行い保存・運用していくには莫大な資金が必要である。第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。戦後70年以上が経ち、当時の生存者たちも高齢化が進んでいる。ホロコースト当時のことを知っている人も少なくなってきており、近い将来にはゼロになる。そのため現在、欧米やイスラエルでは「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ホロコースト生存者のユダヤ人らの体験記のインタビュー動画をネットで公開したり、ホログラムによる生存者とのリアルタイムの会話ができたりデジタル化された生存者の記憶がホロコースト教育などにも積極的に活用されている。

1945年1月27日にアウシュビッツ絶滅収容所がソ連軍に解放されたため、1月27日は国際ホロコースト記念日である。その国際ホロコースト記念日に世界ユダヤ人会議はTikTokと連携して、TikTokで「ホロコーストはなかった」「ユダヤ人はそんなに殺害されていない」「ガス室などなかった」といったホロコーストを否定するような検索がされた場合には、AboutHolocaust.orgが表示されて、同サイトに誘導してホロコーストについて学んでもらおうとしている。特にTikTokは若者に大人気であり、若い人たちは「ホロコーストがなかった」ということを何回も繰り返さされると、真に受けて信じ込みやすい。

同様の取り組みはFacebookとも既に実施している。Facebookは2020年10月からホロコースト否定に関する投稿を一切禁止し、発覚したらすぐに削除することを明らかにしていた。

欧米や中東では今でも反ユダヤ主義が根強く、ホロコースト否定論も多い。近い将来、ホロコースト生存者らがいなくなってしまったら、本当にホロコーストはなかったというホロコースト否定主義が正しい歴史になってしまう、いわゆる歴史修正主義が広まってしまうことを多くのユダヤ人が懸念している。日本ではあまり馴染みのないテーマだが、数年前にホロコースト否定について取り上げた映画『否定と肯定』が公開されたので観たことがある人もいるだろう。

TikTokは世界中で若い人たちに大人気である。TikTokでもホロコースト否定に関する投稿も多く、検知されたら削除されている。世界的にもまだ根強い反ユダヤ主義でホロコースト否定や反ユダヤ主義に関するSNSへの投稿は多い。露骨にホロコースト否定や反ユダヤ主義に関する内容であれば、すぐに削除もできる。だが、そのようなわかりやすい投稿はすぐに削除されるので、隠語や仲間内でしかわからないような言葉、新しい表現などで投稿されることも多く、全てのホロコースト否定の投稿を削除することは容易ではない。例えば「あんなことはなかった」といった文脈からでしか推測できないような表現が多く、そのような投稿をSNSから削除していくことは至難の業である。

▼ホロコースト否定について取り上げた映画『否定と肯定』

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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