「Final Solution(最終解決)」を想起させるインパクトあるタイトル

2020年9月のベネチア国際映画祭で公開されたホロコーストのドキュメンタリー映画「Final Account」というのがある。ホロコーストのドキュメンタリー映画というと、被害者のユダヤ人の生存者らの証言を集めた映画がほとんどだが「Final Account」はルーク・ホランド監督が2008 年から2020 年まで12 年かけてホロコーストを目の当りにしていた当時のドイツとオーストリアの一般の方々の300 人以上500時間を超える証言を集めている。ホランド監督は既にガンで71歳で他界してしまったが、イギリス生まれのユダヤ人で彼のおじいさんがナチスの強制収容所で殺害されている。

加害者や目撃していたけど何もできなかった当時の人たちは戦後になってもホロコーストのことを語りたがらない。ユダヤ人がどのような運命にあっていたのか、多くのドイツ人が知っていたようだが、それでもナチスのゲシュタポが怖くて抵抗することもできなかったため、戦後になってもホロコーストについて語ることはタブーのような雰囲気もあった。まして親戚や家族にナチス党員がいたことを告白することは絶対的にタブーだった。とても貴重なドキュメンタリー映画だ。

また映画タイトルの「Final Account」も、ナチスがユダヤ人絶滅政策に掲げていた「Final Solution(最終解決)」を想起させることも話題になっていた。

▼映画「Final Account」オフィシャルトレーラー

ホロコースト映画と記憶のデジタル化

ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもしている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。

ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元に2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。ホロコーストを目の当りにしていた普通の人々の証言と実話を元にしているドキュメンタリー映画『Final Account』もこちらだ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。今回の映画のテーマのように次世代にホロコーストの歴史の真実を伝えていくことに多く活用されている。

一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。

戦後75年が経ち、ホロコースト生存者もホロコーストを目撃していた人々も高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者や目撃者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れてる人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。

そして世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。

(Final Account提供)
(Final Account提供)