米国 世代を超えたホロコーストドキュメンタリー映画「Shoah Ambassadors」
米国のケイス・ファミー監督のホロコースト時代をテーマにしたドキュメンタリー映画「Shoah Ambassadors」が2021年10月にミシガン州のベルマンセンターで公開された。約2年にわたって撮影され、ホロコースト生存者の体験や記憶、現在の若者ら世代を超えて出演。
ファミー監督は「ホロコーストだけでなく、現在でも多くの人権が世界中で蹂躙されてます。この映画をきっかけにそのような人権を無視した行為がなくなることを望んでいます。この映画が上映されてホロコースト生存者の方が映画をとても楽しんでくれていました。この映画を通じて、世代を超えてホロコーストの問題を考えることができれば幸いです」と語っていた。
▼映画「Shoah Ambassadors」オフィシャルトレーラー
毎年制作されるホロコースト映画と記憶のデジタル化
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもしている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元に2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。ホロコースト生存者の体験と実話を元にしているドキュメンタリー映画『Shoah Ambassadors 』もこちらだ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。今回の映画のテーマのように次世代にホロコーストの歴史の真実を伝えていくことに多く活用されている。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れてる人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。
そして世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。