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ホロコーストの実話を元にした映画『アウシュヴィッツ・レポート』メイキング映像公開

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

第二次世界大戦時にナチスドイツが支配下の地域でユダヤ人を差別、迫害して約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。そのホロコーストの象徴的な存在の1つがアウシュビッツ絶滅収容所。アウシュビッツ絶滅収容所では欧州からのユダヤ人やロマ、政治犯ら110万人以上が殺害された。そのアウシュビッツ絶滅収容所を脱走した男たちの実話を描いた映画『アウシュヴィッツ・レポート』(原題:The Auschwitz Report)が日本でも7月30日から公開される。欧州では4月から公開されていた。

そのアウシュビッツ絶滅収容所を脱走した男たちの実話を描いた映画『アウシュヴィッツ・レポート』(原題:The Auschwitz Report)が日本でも7月30日から公開される。欧州では4月から公開されていた。

1944年4月、アウシュビッツ絶滅収容所で収容者の遺体の記録係をしていたスロバキア系ユダヤ人のアルフレートとヴァルターが、アウシュビッツの苛酷な実態を外部に伝えるために脱走を実行。奇跡的に救出された2人は赤十字職員にアウシュビッツ絶滅収容所での実態を告白するストーリー。

先日、日本語版の『アウシュヴィッツ・レポート』の予告編動画が公開されたが、7月に入って『アウシュヴィッツ・レポート』のメイキング映像も公開された。ベブヤク監督はメイキング映像シーンについて「実際に収容所で暮らし、自分達が刻々と殺されるという事実と背中合わせに生活していた人々にとって、これは常にある日常でした。毎秒のことです。囚人たちを殺し、収容所の外に出して焼却炉に運ぶ決定が下されることがありえました。それでもまた脱走がうまくいかなかったら起こりえた恐怖でもあります。この恐怖は実際に囚人たちにとって深刻な問題でした」とコメントしている。

▼メイキング映像

▼本編映像

毎年制作されるホロコースト映画:日本では珍しいメイキング公開

ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもしている。ホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく見るという大人も多い。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから日本では配信されない映画やドラマも多い。

ホロコースト映画は大がかりな制作となるため、メイキング映像はよく制作されている。演者のインタビューや当時の収容所やゲットーのセットの様子、エキストラとして参加しているユダヤ人の方などの紹介、歴史学者などがホロコーストの解説などをしているが、メイキング映像が日本でも公開されるのはとても珍しい。

ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元に2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。実話を元にしている『アウシュヴィッツ・レポート』もこちらだ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴することも多い。

一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様パジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。

戦後75年が経とうとし、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れてる人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。

そして世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。

▼原題「The Auschwitz Report」オフィシャルトレイラー

(C)D.N.A., s.r.o., Evolution Films, s.r.o., Ostlicht Filmproduktion GmbH, Rozhlas a televizia Slovenska, Ceska televise 2021
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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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