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国際赤十字委員長、自律型殺傷兵器反対を呼びかけ「AIや兵器が人間の生死を決めるべきではない」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

国際赤十字社の委員長のペーター・マウラー氏は2021年5月に自律型殺傷兵器の開発と使用の禁止を呼びかけていた。 国際赤十字では以前から自律型殺傷兵器の開発と使用には反対してきた。

「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器はAI(人工知能)を搭載した兵器が、人間の判断を介さないで標的の人間を攻撃して殺傷する。人間の判断を介さないでAIを搭載した兵器が標的を自律的に判断して攻撃し殺傷することが非倫理的、非道徳的であるとして、国際赤十字だけでなく、世界中の国際NGOらも開発と使用には反対している。マウラー氏もAIや兵器が人間の生死を決めるべきではないと主張。

マウラー氏はこのような自律型殺傷兵器を改めて国際人道法で規制して開発や使用の禁止、一般市民(非戦闘員)を標的にした攻撃の禁止を訴えていた。攻撃の判断は人間の判断する価値観に基づくべきだと主張していた。そして最後に「人々(people)」「人間(human being)」という単語を強調し、自律型殺傷兵器の使用禁止を訴えていた。

だが、一方でAI技術の軍事への活用は積極的に行われており、アメリカ、中国、ロシア、イスラエル、トルコなどでは自律型兵器の開発が進められており、現実的な兵器となってきている。新たな技術の発展が軍事分野で利用されるのは歴史的にも常であり、そのようにして軍事技術も民生品も発展してきた。 現在、世界で30か国が自律型殺傷兵器の開発や使用に反対しているが中小国がほとんどだ。アメリカやロシアなど大国は開発も使用も反対していないため、国際社会での足並みがそろっていない。中国は自律型殺傷兵器の使用には反対しているが、開発には反対していないことから、おそらく開発は進められているのだろう。

また人間が遠隔地で操作するドローンも人間の判断によって標的が攻撃されるが誤爆などもあり、決して精確な攻撃ができるわけでもなく、民間人(非戦闘員)が犠牲になることもある。さらに、人間の生死の判断は人間がすべきだが、戦争においては過去にも人間が一番残虐な判断をしてきたことも多い。そして軍人が戦場に行かないで済むことから、攻撃する側の軍人が戦場で殺されるリスクは低減するので、攻撃する側の軍人の"人間の安全保障"は守られる。

そしてAI技術の発展によって自律型殺傷兵器が実用化され、人間の判断を介さないで人間を標的にして攻撃をしかけてきてくるだけでなく、人間の制御(コントロール)が効かなくなってしまう懸念もある。そのため多くの国際NGOやAI研究者らが自律型殺傷兵器の開発や使用の禁止を訴えている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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