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ラテンアメリカとカリブ海諸国:パンデミックによる学校閉鎖で1億4000万の子供が対面授業を受けられず

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「近現代のこの地域における最悪の危機です。対面授業を受けられない子供たちがこれほど多い地域は他にありません」

ラテンアメリカとカリブ海諸国地域では新型コロナウィルス感染拡大によるロックダウンに伴って学校が閉鎖や一部が休校になり、約1億4000万人の子供が対面で授業を受けることができないとユニセフ(国連児童基金)が発表した。新型コロナウィルスのパンデミックから1年が経過しているが、完全に学校が再開して開校し対面授業が復活したのはラテンアメリカとカリブ海諸国では7か国のみで、ラテンアメリカとカリブ海諸国は世界で最も対面授業を受けられない子供が多い。12の国と地域では、現在でも完全に学校が閉鎖された状況。一部の国では部分的に学校が再開しているが、完全な再開ではなく部分的な授業のみである。この地域では既に約158日(5カ月以上)の対面授業の機会を失っている。

各国政府は、ネットだけでなくラジオやテレビを通じたオンライン授業や遠隔教育を導入しようと努力しているが、全ての子供たちにまではなかなか浸透しない。ユニセフは学校が休校になり教育が途絶えてしまった子供たちの健康やメンタルヘルス、将来の社会経済に懸念を示しており、ユニセフ事務所代表のジーン・ゴオフ氏は「近現代のこの地域における最悪の危機です。対面授業を受けられない子供たちがこれほど多い地域は他にありません」と語っている。ユニセフではラテンアメリカとカリブ海諸国で300万人以上の子供たちが学校を退学する恐れがあると推定している。そして、ユニセフでは学校が閉鎖・休校されている24か国と地域の4500万人の子供に遠隔教育プログラムの支援を提供、さらに900万人の保護者にメンタルヘルスや心理的支援の援助を提供している。

オンライン学習は容易ではない

日本でも新型コロナウィルス感染拡大によって2020年には多くの学校が休校になり、オンライン学習が導入された。小中学校は再開したが、大学では今でもオンライン学習が主流だ。日本だけでなく世界中で新型コロナウィルス感染拡大によって学校が閉鎖され、オンライン学習やリモート学習が導入されたが、特に途上国では自宅にネットの回線がないこと、パソコンだけでなく学習用のスマホやタブレットを所有していないこと、たとえスマホを所有していても長時間の授業を受けられるほどの通信費を払えない家庭が多い。

そのような子供たちは学校が閉鎖されてしまうと、教育を受ける機会はゼロになってしまい、また家計を助けるために働かざるをえない。さらに様々な犯罪に巻き込まれる可能性もある。そして学校が再開されても、授業についていけなかったり、仕事をやめるわけにいかずに学校をやめてしまうことも多い。そしてたとえスマホやタブレットなど機器や回線のデジタルツールが整備され、リモート学習が可能な環境になったとしても、家では家族が多くて、狭くて自分の部屋もなくてオンライン学習で授業を受けられない子供も多い。貧しい家庭の子供たちは自分の家では狭くて家族も多くて、とても子供全員が自分の家でリモート学習を受けるのは難しい。テレビやラジオを活用した遠隔教育といっても、そもそもテレビやラジオが家庭にない子供も多い。またテレビやラジオがあったとしても兄弟や姉妹が多くて、1人で占有することもできない。

さらに授業は学校で受けるものという思い込みがあり「家にいるなら働いて家計を助けろ」とリモート学習に対する理解を示さない保護者への対応も必要になってくる。デジタルツールの整備が完了しても、家でリモート学習ができない環境の整備だけでなく、保護者のリモート学習への理解を得ることへの対応が重要になってくる。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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