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カナダ:マスク着用とワクチン接種に抗議 ダビデの星に「COVID CAUST」Tシャツでネット大炎上

佐藤仁学術研究員・著述家
「COVID CAUST」(Jewish News Syndicate提供)

マスク着用とワクチン接種に反対して「COVID CAUST」

 カナダのテレビプロデューサーのスーザン・スタンドフィールド氏が制作したTシャツでネットが大炎上している。スタンドフィールド氏が制作したTシャツは白地に黄色のダビデの星で、真ん中に「COVID CAUST」と書かれている。COVIDは言うまでもなく新型コロナウィルスのCOVID-19で、CAUSTは「ホロコースト(HOLOCAUST)」の"CAUST"である。第二次大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らを殺害した、いわゆるホロコースト。

 スタンドフィールド氏はワクチン接種やマスク着用を強要されることに反対しており「このTシャツは、パンデミックにおいて(自分の意思に反してマスク着用やワクチン接種を強要されることで)差別や迫害されている人たち全ての連帯を表現したものです。私たちのようにワクチン接種やマスク着用に反対していることは、カナダではオフィシャルに差別されている"黄色いダビデの星"を着用されているようなものなので、このデザインにしました」と語っていた。だが、カナダとアメリカ、欧州のユダヤ人らは新型コロナウィルスへの戦いとユダヤ人大虐殺のホロコーストを比較し、「COVID CAUST」という造語まで作った黄色のダビデの星のTシャツのデザインに大激怒してネットは大炎上していた。

ホロコーストと比較される新型コロナウィルスのパンデミックでの生活

 新型コロナウィルス感染拡大防止のために欧米ではロックダウンが行われており、自由な外出ができずに不自由な暮らしを強いられている人が多い。そしてそのようなロックダウンによる外出の禁止や制限で自由を奪われている現在の状況を第二次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。当時、ゲットーに閉じ込められたユダヤ人やアンネ・フランクのように隠れ家で息をひそめながら隠れていたユダヤ人に例えられやすい。そして欧米では新型コロナウィルスでのパンデミックでの不自由な状況をホロコーストに例えると、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、いつもネットが炎上している。高齢のホロコースト生存者らも当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルスのロックダウンの状況は異なると訴えている。だが、それでも欧米では「ロックダウンで外出が制限され、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」というイメージを持つ人が多い。

 そして、今回のTシャツでは黄色のダビデの星のデザインだったが、ナチスが政権を握った国や地域では、ユダヤ人を差別迫害し隔離するために、ユダヤ人には目に見えるように衣服に黄色い星を縫い付けさせた。黄色は欧州では呪われた色だった。特に西欧諸国では外見からはユダヤ人を見分けるのは困難だったため、黄色い星が縫い付けられた服を着用しているのがユダヤ人の証で、黄色い星をつけたユダヤ人は公共の場所や映画館、公園、店舗などに入ることも禁じられた。そして黄色い星は「この人はユダヤ人なので殴ったり、嫌がらせをしたりしても構わない」とわかりやすくするためのものだった。またアウシュビッツなどの収容所に貨車で移送されたユダヤ人の荷物の選別をしていた囚人は、ユダヤ人が持ってきたトランクから衣類を取り出して、それらに縫い付けられている黄色い星を剥ぎ取る仕事をしていた。黄色い星を剥ぎ取られた衣服はユダヤ人を移送してきた貨車に乗せられて、戦中で物不足のドイツに送られ一般市民の古着として活用された。

「何の意味もない」とユダヤ団体も抗議

 カナダのユダヤ団体のブナイ・ブリス・カナダのCEOのマイケル・モスティン氏は「このようなホロコーストを新型コロナウィルスと同一視するようなイメージを作ることによって、コロナ陰謀論を拡散させるだけです。コロナから命を守るためのマスクとワクチン接種に反対することと、ユダヤ人が600万人殺害以されたホロコーストを比較することには何の意味もないです」と非難していた。バンクーバーのユダヤ人コミュニティのメンバーでカナダユダヤ人会議の元会長のマイケル・エルターマン氏は「ワクチンは人々の命を守るためのものです。でもこの方はホロコーストという多くのユダヤ人が殺害されたホロコーストのシンボルだったダビデの星をロゴにしました。全く意味のないことで、不合理です」と怒りを露わにしていた。

 ホロコーストやナチスドイツに関する商品やマーケティングは必ず炎上する。一番多いのが、ユダヤ人が収容所で着ていた囚人服に似ていたり、ユダヤ人が差別されるために着用を義務付けられた黄色のダビデの星をつけた服など露骨なファッションである。そのようなファッションは「ホロコーストの犠牲者に対する敬意がない」「生存者や家族が見たら、どのような思いをするのか考えよう」と毎回炎上する。今回のように世界中のユダヤ団体やホロコースト博物館、著名人らも反対や商品の回収をSNSで呼びかけることから、いっそう話題になる。スタンドフィールド氏のマスク着用反対やワクチン接種反対の主張もネットで大炎上して話題になっていた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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