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ホロコースト生存者らの体験をアーティストらがグラフィックノベルで表現

佐藤仁学術研究員・著述家
(Martin Friedrich)

進む記憶のデジタル化

 第二次世界大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。戦後70年以上が経ち、当時の生存者たちも高齢化が進んでいき、ホロコースト当時のことを知っている人も少なくなってきており、近い将来にはゼロになる。そのため現在、欧米やイスラエルでは「ホロコーストの記憶のデジタル化」が進められており、当時の映像や写真、ユダヤ人らの体験記のインタビュー動画をネットで公開したり、ホログラムによる生存者とのリアルタイムの会話ができたりデジタル化された生存者の記憶がホロコースト教育などにも積極的に活用されている。

 カナダのビクトリア大学では2019年からアンネフランク財団、イスラエルの国立ホロコースト博物館のヤド・バシェム、カナダの人権博物館、ドイツのラーフェンスブリュック強制収容所博物館などと協力して、ホロコースト生存者らの証言や体験談を元にグラフィックノベルを制作するプロジェクト「Narrative Art and Visual Storytelling in Holocaust and Human Rights Education」を行っている。このプロジェクトではホロコースト生存者の体験を元にグラフィックデザイナーが当時のユダヤ人が収容されていたゲットーや強制収容所や絶滅収容所の様子をグラフィックで表現しており、生存者らの証言や体験談を掲載している。

 イスラエルやカナダ、ドイツのアーティストらがオランダ、イスラエル、カナダにいるホロコースト生存者からZoomや対面で証言や体験談を聞いて、その証言を元にグラフィックで当時の様子を再現している。またアーティストだけでなく歴史学者やホロコースト研究家らがホロコーストの歴史についての助言も行っている。その様子はオンラインでも公開しており、世界中に配信している。さらにアーカイブはビクトリア大学の図書館で保存し、世界中からアクセスできるようにする。また来年にはイスラエル、ドイツ、カナダの出版社からも販売する予定で、英語だけでなくアラビア語、ドイツ語、フランス語、オランダ語、ドイツ語、ヘブライ語でホロコースト教育用にも無料で提供する予定。ホロコースト時代のゲットーや収容所の様子やユダヤ人たちの表情や陰鬱なグラフィックが生々しく当時の悲劇をアーティストらが表現しており、ホロコースト生存者の証言をただ聞いているよりも当時の様子が印象に残りやすい。

▼アーティストらがホロコースト生存者らの証言を聞き取り当時の様子をグラフィックで表現している様子を伝える動画。

▼ホロコースト生存者らの証言を元にアーティストらが描いた当時の様子のグラフィック

(Barbara Yelin)
(Barbara Yelin)

(Gilad Seliktar)
(Gilad Seliktar)

(Miriam Libicki)
(Miriam Libicki)

(Martin Friedrich)
(Martin Friedrich)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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