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欧州議会「戦争におけるAI活用では人間の判断が入ること」ガイドライン採択だが法的拘束力はなし

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 欧州議会の法務委員会は2020年12月に戦争におけるAI(人工知能)の使用についてガイドラインをを採用した。その中で人間の判断を介さないで標的を攻撃して相手を殺傷する自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)については、必ず人間の判断が関与し、世界規模で自律型殺傷兵器の開発と使用を禁止すべきだと主張している。今回のガイドラインは目安というか目標のようなもので、全く法的拘束力はない。

 そしてEU各国は戦争でのAI使用についてグローバルなフレームワークを構築していくようにリードすべきだと訴えている。ガイドラインの中で「自律型殺傷兵器は戦争においては最後の手段であり、人間の関与とコントロール下においてのみ法的に使用を可能とすべきだ。なぜなら人間の生死に関わる攻撃の判断ができるのは人間だけだからだ。人間の判断を介さないで攻撃され殺傷されることは人間の尊厳と人権を侵害している」と主張している。

 欧州議会のフランス人メンバーのGilles Lebreton氏が取りまとめた「Artificial intelligence: questions of interpretation and application of international law in so far as the EU is affected in the areas of civil and military uses and of state authority outside the scope of criminal justice」という自主的なレポート「2020/2013 INI」で同氏は「AI技術を搭載した兵器は予期せぬ行動が起きそうな時には必ず人間によって修正されるか、停止されないといけません。AI技術の全ての軍事的な利用は人間の関与とコントロールが入るべきです。そしてどのような行動をするにせよ兵器に搭載されたAIが判断するプロセスは追跡可能にすべきです。そして人間が兵器使用時の判断と決定においての責任を持つべきです。人間のみが全ての責任を持つべきです」と語っていた。

 人間の判断を介さないで標的を攻撃して相手を殺傷することが非倫理的であるという理由で、自律型殺傷兵器の開発と使用には国際NGOや一部の国が反対している。反対を表明しているのはアルジェリア、アルゼンチン、オーストリア、ボリビア、ブラジル、チリ、中国(使用のみ反対で開発には反対していない)、コロンビア、コスタリカ、キューバ、ジブチ、エクアドル、エルサルバドル、エジプト、ガーナ、グアテマラ、バチカン市国、イラク、ヨルダン、メキシコ、モロッコ、ナミビア、ニカラグア、パキスタン、パナマ、ペルー、パレスチナ、ウガンダ、ベネズエラ、ジンバブエの30か国だ。

 欧州で自律型殺傷兵器の開発と使用に反対しているのはオーストリアのみだ。軍事分野におけるAI技術の活用は進んできており、米国やロシア、イギリス、フランス、ドイツなど主要国は自律型殺傷兵器の開発に反対していない。中国は使用のみ反対しているが、開発には反対していない。自律型殺傷兵器はまだ実戦では活用されていないが、その開発と使用に反対しているのは小国ばかりである。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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