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英国のジム、新型コロナのロックダウンでの休業の窮状をアンネ・フランクに例えて炎上からの署名集め

佐藤仁学術研究員・著述家
(Anne Frank House提供)

 英国のジムのRipped Gymが新型コロナウィルス感染拡大によるロックダウンで休業を余儀なくされている。そのRipped Gymがロックダウンで営業ができない状況を嘆いて、自身のインスタグラムでアンネ・フランクの写真と "The people who hid Anne Frank were breaking the law. The people who killed her were following it."(アンネ・フランクを隠した人々は法律を破りました。そしてアンネ・フランクを殺害した人々はその法律に従った人々です)というキャプションと一緒に投稿。ロックダウンによる休業の状況をアンネ・フランクに例えていることで、ネットで炎上している。「現在の状況をホロコーストに例えるのはおかしい」「アンネ・フランクとは状況が違う」といった声が多く上がっている。

(英国のジムRipped Gymのインスタグラムより)
(英国のジムRipped Gymのインスタグラムより)

ホロコースト時代のユダヤ人に例えられるロックダウン

 第二次世界大戦の時に、ナチスドイツが約600万人のユダヤ人を殺害した、いわゆるホロコースト。アンネ・フランクはユダヤ人だったために、ナチスからの迫害を逃れてオランダのアムステルダムの隠れ家で約2年間、身を潜めて生活していたが、密告されて1945年にベルゲン・ベルゼン強制収容所で病気で死亡した。アンネが隠れ家生活で思いを綴った日記を戦後、ホロコーストから生き延びた父オットー・フランクが「アンネの日記」として出版し、現在でも世界中で多くの人に読まれている。アンネ・フランクはホロコーストを象徴するような人物で、欧米やイスラエルではホロコースト教育が行われることが多く、小学生の必読書にもなっている。

 新型コロナウィルスが世界規模で感染拡大しており、それに伴って世界中の都市で外出自粛やロックダウンなどの防止措置が講じられるようになり、自由に外出できなくなるようになると、そのような制限された環境を、ナチスドイツ時代にユダヤ人が差別・迫害されたホロコーストと比較されることがよくある。アメリカでもマスク着用がホロコースト時代のユダヤ人に例えられていた。特に、新型コロナ感染拡大防止のための外出自粛要請で自由に外出できない状況は、アンネ・フランクが隠れ家に身を潜めていた生活と比較されることが多い。ホロコースト生存者たちも、当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルス感染拡大防止の対策での人々の生活では全く違うと積極的に訴えている。

炎上商法で話題作りのマーケティングにも活用されるホロコースト

 またホロコーストやナチスドイツに関してマーケティングでの投稿は必ず炎上する。ユダヤ人が収容所で着ていた囚人服に似ていたり、ユダヤ人が差別されるために着用を義務付けられた黄色のダビデの星をつけた服など露骨なファッションもある。そのようなファッションは「ホロコーストの犠牲者に対する敬意がない」「生存者や家族が見たら、どのような思いをするのか考えよう」と毎回炎上する。また囚人服やダビデの星など露骨な反ユダヤ的なファッションについては世界中のユダヤ団体やホロコースト博物館、著名人らも反対や商品の撤収をSNSで呼びかけることから、いっそう話題になる。だが、それでも懲りずにマーケティング目的で利用されることが多い。そして毎回「ホロコースト関連のファッションを販売する」→「ネットで炎上し、拡散される」→「商品を撤収したり、謝罪する」の繰り返しで欧米では過去に何回もあった。一方で、ホロコーストをテーマにした商品は、必ず炎上するので、それによって拡散され、話題になるので知名度を高めたり、サイト内の他の商品を見てもらおうとマーケティング目的で販売されるケースもある。

 今回の英国のジムでのインスタグラムでのアンネ・フランクの写真とメッセージの投稿も炎上したので話題になった。それによってロックダウンによる休業の窮状の訴えは世界中に拡散され、ロックダウンによるジムの休業停止を求めた署名を集めている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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