Yahoo!ニュース

インド モディ首相、独立記念日にサイバーセキュリティ強化を言及:中国とパキスタンをけん制

佐藤仁学術研究員・著述家
2020年のインド独立記念日でのモディ首相(写真:ロイター/アフロ)

 インドのモディ首相は2020年8月15日に開催されたインドの独立記念日の式典において、インドのサイバーセキュリティをさらに強化していくことを明らかにした。モディ首相はサイバー攻撃による経済と社会へのダメージのインパクトが多いことを懸念し「サイバーセキリティはとても重要であり、サイバー攻撃を無視することは絶対にできない。インド政府はサイバー攻撃に対して警告を鳴らし、新たなサイバーセキュリティ強化に向けた政策を出していく予定です。インターネットへの接続が増えれば増えるほどサイバー攻撃やサイバー犯罪も急激に増加します。特にオンラインでのデータ取引時に情報窃取をされたり、サイバー犯罪に巻き込まれることが多いです」と語っていた。

増えるインドへのサイバー攻撃 コロナ情報の窃取からフェイクニュース拡散まで

 インドとパキスタンの国家間の関係を反映して、インドは以前からパキスタンからのサイバー攻撃を受けていた。そして最近ではパキスタンだけでなく中国とインドの国境をめぐる対立が激化し、中国からも執拗なサイバー攻撃を受けるようになった。セキュリティ企業のカスペルスキーによると、2020年4月~6月のインドの企業へのサイバー攻撃は1月~3月に比べて37%増加しており、特に新型コロナウィルス関連の情報窃取が顕著だ。6月にはインドのCERTはインドへの大規模な情報窃取のサイバー攻撃に対して警鐘を鳴らしていた。

 そして情報窃取やシステム破壊といったサイバー攻撃だけでなく、サイバー犯罪やフェイクニュース拡散なども増えている。特にパキスタンのアクティビストと中国のアクティビストが協力して、インドでソーシャルメディアにフェイクニュースや誤情報を流して社会を混乱させようとしていると報じられていた。2020年5月に中国とインドの国境で両軍が衝突すると中国のWeibo(ツイッターのようなサービス)にはインド軍の制服を着たインドの映画スターが倒れているという合成写真とフェイクニュースが拡散された。

 国家のリアルな安全保障と同様にサイバーセキュリティも国家の安全保障において重要である。インドではTikTokなど、インド人利用者の情報が中国企業に流れてしまうような中国製のアプリの使用を禁止した。インドではスマホが急速に普及しており、多くの人がスマホのソーシャルメディアでニュース情報を得るので、フェイクニュースや誤情報とプロパガンダの拡散は、インド国民に対する影響力がある。従来のように情報窃取やシステム破壊を目的としたサイバー攻撃の対策だけではなく、一般の人々が利用するスマホのアプリやフェイクニュースや誤情報とプロパガンダ拡散の対策も安全保障上、とても重要になってきている。モディ首相がインド独立記念日に、今後サイバーセキュリティポリシーを強化することを発表し、中国とパキスタンからのサイバー攻撃に対するけん制を狙っている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事