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Google インドのデジタル化支援に約1兆円投資:対立する中国への抑止としても期待

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 Googleは2020年7月13日に「Google for India 2020」をオンラインで開催。スンダー・ピチャイCEOが登壇し、インド市場に今後5~7年で約100億ドル(1兆円)を投資することを明らかにした。「Google for India Digitization Fund」と呼ばれる投資では以下の4分野でインドのデジタル化に向けて投資していく。

1.様々な言語を話す10億人以上のインド人の誰もが安価で簡単に情報にアクセスできるようにする

2.インド特有のニーズに合わせた新サービスと製品の提供

3.企業のデジタル化を支援

4.医療、教育、農業などの社会的ベネフィットのある分野でのAI(人工知能)の活用

 Googleは2015年から「Google for India」を開催し、インド市場で廉価版のAndroidスマホの販売や子供向け英語学習アプリ、インド市場向けのYouTube、AIを活用した洪水発生予測マップの提供、モバイル決済サービス、さらに中小企業のデジタル化の支援、現在は撤退したがインド全国の鉄道駅での無料Wi-Fiの敷設などを行ってきた。ピチャイCEOは「インド市場であらゆる企業と協力して、モディ首相とインド政府が推進しているデジタルインドのビジョンを実現していきたい」と語っていた。

 数年前からGoogleはインド政府が推進しているインドのデジタル化を目指した「デジタルインド」を積極的に支援してきた。Googleのビジネスモデルは9割以上が広告収入だ。Googleにとっても12億人以上のインド人がGoogleやYouTube、GメールなどGoogleの提供するサービスを利用してもらうことはGoogleの収益にもつながるので、インド市場がデジタル化されるためのインド市場への投資は重要であり、決して慈善事業で行っているわけではない。

対立する印中関係・中国製アプリ59本を禁止

 またインド政府にとってもGoogleのインド市場への投資は歓迎である。インドは中国と対立関係にあり、6月にはラダック地方でインド軍と中国軍が衝突して20人以上のインド軍兵士が死亡する事件が起きた。インド政府は中国がユーザーのデータ収集をすることがインドの安全保障と国家防衛の観点から脅威であるとして、インド人の若者にも大人気の動画アプリTikTokなど中国製のアプリ59本の利用禁止を求める勧告を出した。

 インド政府としては中国製のアプリを利用されてインド国民のデータや位置情報などを収集されることは国家安全保障にかかわり、インドと中国との緊張関係をさらに激化させる懸念がある。インド政府としても中国製のアプリやサービス、製品を使用されるよりは米国企業であるGoogleに支援してもらってインドのデジタル化を積極的に推進していきたい。ただインドで人気がある売れ筋のスマホは韓国サムスン以外は、Xiomi、Oppo、Vivo、Realmeなど中国メーカーだ。OSはGoogleのAndroidだが、中国メーカーがインドのスマホ市場の80%以上のシェアを握っており、インドでのスマホ端末はまだ中国製が圧倒的な存在感だ。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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