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米国ホロコースト博物館、ワルシャワゲットーでのユダヤ人の生活をVRで再現へ

佐藤仁学術研究員・著述家
ワルシャワのゲットー(1941年)(写真:Shutterstock/アフロ)

 アメリカのワシントンD.C.にあるホロコースト博物館が映像制作会社の317 Producetionsと協力してVR(バーチャルリアリティ:仮想現実)でホロコースト時代のワルシャワのゲットーを再現しようとしている。ナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害されたが、その多くはポーランドに住むユダヤ人だった。ポーランドに住むユダヤ人らは狭くて非衛生的なゲットーに隔離され、密集して生活しており、多くの人が飢えや病気で死亡した。ゲットーでの生活の後にアウシュビッツなどの収容所に移送されていった。

 ホロコースト時代のワルシャワのゲットーでの写真や映像、歴史学者のエマニュエル・リンゲルブルム氏が収集した「Oneg Shabbat」と呼ばれているワルシャワゲットーの資料のアーカイブや、映画監督のロバータ・グロスマン氏の作品や、ワルシャワゲットーの生存者で戦後も作家や歴史家として活動していたラハエル・アウバッハ氏らの証言などを元にVRで映像のプロトタイプを制作している。まだ具体的な利用開始時期は決まっていない。

 欧米ではホロコースト教育が行われており、このようにVRを通じてゲットーやアウシュビッツ絶滅収容所での疑似体験ができる教育が進められている。戦後75年が経ち、ホロコースト生存者の多くが高齢化してしまい、近いうちにゼロになる。そのため、欧米ではホロコースト生存者の「記憶のデジタル化」が積極的に推進されている。VRでどれだけ精確に再現できても、あくまでも仮想現実である。VRヘッドセットを外したら平和な現実世界に戻ることができる。隔離されたゲットーでの死の恐怖、死の臭い、飢え、寒さと暑さ、暴力といった本当の地獄はゲットーにいたユダヤ人にしか理解できないだろう。それでもVRでの疑似体験による学習は歴史の本でテキストで読むよりも、視覚を通じて当時の様子が伝わるので臨場感はある。

 371 Productionのブラッド・リヒテンシュタイン氏は「当時のゲットーの様子をできるだけ忠実に再現しようとしており、またゲットーで生活していた人たちに敬意をもってVR制作をしています。このVRを視聴する人には当時のゲットーでの生活をリアルに感じて欲しいです」と語っていた。

▼ワルシャワゲットーのアーカイブ「Oneg Shabbat」(ヤドバシェム)

▼ワルシャワゲットーの生存者ラハエル・アウバッハ氏のホロコースト時代の活動(ヤドバシェム)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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