アルゼンチンのホロコースト博物館、スペイン語で初の生存者とホログラムで対話「進む記憶のデジタル化」

ホログラムになったLea氏と本人(ブエノスアイレス・ホロコースト博物館)

 第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちも高齢化が進んでいき、その数も年々減少している。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。

 現在、欧米ではそのようなホロコーストの記憶を語り継ぐために、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dのホログラムで表現。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。

 あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるようで、質問に対してリアルタイムに答えられる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができる。

 映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。南カリフォルニア大学ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組を「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。

 アルゼンチンのブエノスアイレスのホロコースト博物館が450万ドルを投資してリニューアルされた。展示の見どころの1つが「Dimensions in Testimony」だ。今回、ブエノスアイレスのホロコースト博物館に導入されたホログラムは、初めてスペイン語で質問に回答できる。ブエノスアイレスの学生らは学校のカリキュラムの一環でホロコースト博物館を訪れており、ホログラムのホロコースト生存者とリアルタイムに当時の様子をスペイン語で質疑応答ができるようになる。

 ブエノスアイレスのホロコースト博物館でホログラムで登場するのは、Lea Zajac de Novera氏で1926年にポーランドで生まれた93歳。プルジャニのゲットーに入れられ、その後、アウシュビッツ強制収容所に収容された。アウシュビッツでの入れ墨番号33502番はまだ腕に残っている。アウシュビッツでは彼女以外の家族は全員ガス室に送られて殺害されたが、Lea氏だけは働けるということで約2年半のアウシュビッツでの地獄のような生活を生き延びることができた。1945年1月にソ連軍によって解放され、1947年にアルゼンチンに移住した。

ホログラムになったLea氏と本人(写真:MUSEO DEL HOLOCAUSTO BUENOS AIRES)
ホログラムになったLea氏と本人(写真:MUSEO DEL HOLOCAUSTO BUENOS AIRES)
ホログラムになったLea氏とリアルタイムに質疑応答ができる(写真:MUSEO DEL HOLOCAUSTO BUENOS AIRES)
ホログラムになったLea氏とリアルタイムに質疑応答ができる(写真:MUSEO DEL HOLOCAUSTO BUENOS AIRES)

 ホログラムで登場するLea氏は「何年に生まれたのですか?」といった簡単な質問から、「アウシュビッツではどのような生活をしていたのですか?」といった質問までスペイン語で回答できる。Lea氏は事前に1000以上の質問に事前に回答しており、見学者の質問をリアルタイムに理解してホログラムが返事することによって、あたかも目の前に本人がいる感じで質疑応答ができる。

 戦後75年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退している。いずれ生存者もゼロになる。そのため、ホロコースト生存者の体力と記憶があるうちに、彼らが当時、経験したことの「記憶のデジタル化」が進められており、ホロコーストの記憶を継承しようとしている。

 他の欧米諸国と同じようにアルゼンチンでも反ユダヤ主義が現在でも残っている。アルゼンチン・イスラエル連盟(AMIA)会長のAriel Eichbaum氏は「過去の恐怖を伝えていく記憶の継承こそが、将来に同じことを二度と繰り返さないために重要です。そのためにもブエノスアイレスのホロコースト博物館の展示は1つの明確なベンチマークとなり、20世紀の歴史の中でも最も悲惨な出来事の1つであるホロコーストの歴史の記憶を語り継いでいく良い事例になるでしょう」と語っている。