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イスラエルのヤド・ヴァシェム、Facebookと連携してホロコースト犠牲者の記憶を後世に

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 1945年1月27日にソ連軍によってアウシュビッツ・ビルケナウ絶滅収容所が解放された。2020年の今年で解放75周年を迎えた。2005年に国連によって、1月27日は国際ホロコースト記念日に認定された。第2次大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人、ロマ、政治犯らが殺害された。そのうち110万人がアウシュビッツで殺害された。

 イスラエルのホロコースト犠牲者を追悼する国立記念博物館のヤド・ヴァシェムでは、「IRemember Wall」というサイトの運営でFacebookと連携した。同サイトには480万人の犠牲者の情報があり、ヤド・ヴァシェムのホロコースト犠牲者のデータベースと連携されている。2020年1月27日の国際ホロコースト記念日には、IRemember Wallではホロコーストで犠牲となったユダヤ人の写真と名前が約7万人分追加された。

 同サイトではホロコースト犠牲者の名前を検索することができる。そしてその犠牲者の写真だけでなく生い立ちから殺害された場所まで人生のストーリーがわかる範囲で掲載されている。同サイトにアクセスすると、ホロコースト犠牲者の名前と写真がランダムに表示され、その犠牲者の写真や人生のストーリーについてFacebookなどのソーシャルメディアで拡散することができる。このようにFacebookなどのソーシャルメディアで犠牲者たちの人生が語り継がれていくことによって、ホロコースト犠牲者たちの記憶が失われないようにすることが目的の1つ。同サイトでは英語、ヘブライ語、ドイツ語、ロシア語、フランス語、スペイン語で表示されている。

 ヤド・ヴァシェムの広報担当のIris Rosenberg氏は「IRemember Wallのプロジェクトは世界中のホロコースト犠牲者を追悼するという非常に重要で、意味のあるものです。Facebookと連携することによって世界中の人にアクセスしてもらうことができるようになります。ホロコーストの記憶をデジタルとして伝達していくことと、記憶を保持していくことは犠牲者にとって大変重要なことであり、現代社会が直面している民族憎悪やヘイトなどの現実にも挑戦することができます」とコメント。

 FacebookのCOOのSheryl Sandberg氏は「ヤド・ヴァシェムの記念すべきIRemember Wallとホロコースト犠牲者に敬意を表します。Facebookとして、このプロジェクトを支援することによって、ナチスドイツの犠牲になった何百万人もの人々のストーリーを後世に伝えていくことに貢献することを光栄に思います。犠牲者たちの記憶は語り継がれ、そして二度とホロコーストのような悲劇を繰り返してはなりません」と語っていた。

 戦後75年が経過し、ホロコースト生存者らは年々減少しており、近い将来には1人もいなくなる。現在、欧米やイスラエルのホロコースト記念館や学術機関ではホロコースト生存者らの記憶が鮮明で体力があるうちに、当時の様子などをインタビューしてデジタルで保存し、動画で配信している。世界中からデジタル化された記憶にアクセスすることができ、家族や歴史家だけでなく学校教育などでも活用されている。ホロコースト生存者がいなくなり、過去の歴史になろうとしているが、その記憶をデジタルで保存し後世に伝えようとしている。

IRemember Wall

▼IRemember Wall紹介動画(ヤド・ヴァシェム)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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