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ドイツ、イスラエル製ドローン購入を決定:ネタニヤフ首相「イスラエル経済に大きく寄与」と歓迎

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 ドイツ議会は2018年6月にイスラエル製の無人航空機(UAV)「Heron TP」を10億ユーロ(約1300億円)で購入することを明らかにした。イスラエルのIAI(Isarael Aerospace Industries)社が製造。

 イスラエルのネタニヤフ首相はドイツのメルケル首相ともベルリンで会談をしており、ドイツでのドローン購入を歓迎し「これはイスラエルの軍事産業と経済への大きな貢献だ。この大きな取引はドイツとイスラエルの戦略的提携の表れ。ドイツのような国に今後もイスラエルの産業界が貢献していきたい」と声明文で語っていた。

 2018年4月に5機を契約する予定だったがドイツで、ドローンには戦闘用の武器の搭載も可能なことから、購入に対して反対意見が強かった。ドイツの国防大臣のUrsula von der Leyen氏は今回のドローン購入について「ドローンは上空から解像度の高い写真を撮ることも可能だし、長時間の飛行もできる。ドイツの世界各地での諜報活動においても、今回のドローン購入は重要な決定だ」と語った。

 イスラエルはサイバーセキュリティだけでなく、ドローンの開発と製造においても世界有数の国だ。同国の周辺諸国や地域との関係から実践でもすでに多くのドローンが飛行しており、実績も証明されている。

戦後から続くドイツとイスラエルの軍事関係 

 第2次大戦中、ナチスドイツはユダヤ人を迫害、約600万人のユダヤ人を虐殺。イスラエルは戦後にユダヤ人が建国した国家で、周囲は敵国に囲まれている。イスラエルは戦後、周辺諸国と対峙するために、欧米から武器を輸入していた。建国直後は、ドイツに対する強い悪感情も多かったが、それでも国益上の判断としてドイツからも武器を輸入してイスラエルの領土保全とユダヤ人の安全を守っていた。

 ベングリオン首相は1959年に「ホロコースト犠牲者が我々に託した使命は、イスラエルを再建、強化し、ユダヤ人の安全を確かなものにすることだと強く信じている」と語っていた。1965年にドイツとイスラエルの間に正式に国交が樹立されるが、両国の経済的・軍事的なつながりはそれ以前から続いていた。ベングリオンは当時から「ホロコーストの死者への冒涜」といった感情論でドイツからの軍事支援に反対する勢力を抑え込むために、戦後ドイツとナチスドイツは別物と主張していた。

 そのように欧米からの武器輸入でイスラエルは周辺諸国との紛争を戦い抜き、地域での強国となり、サイバーセキュリティやドローン、AIなどの技術力を世界最高レベルにまで到達。そして現在ではイスラエルがドローンをドイツへ提供する側になり、そのような製品や技術力がイスラエル経済の発展にも大きく貢献している。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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