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母乳で育てられていない赤ちゃんは世界で760万人:「母の日」にユニセフが調査

佐藤仁学術研究員・著述家
赤ちゃんに母乳を与える母親 (エチオピア)(C) UNICEF

 5月13日は「母の日」だったが、それに先立つ2018年5月10日、ユニセフ(国連児童基金)は世界に母乳で育てられていない赤ちゃんの数が、特に世界有数の富裕国で依然として高いとする報告書を発表した。ユニセフによると、世界に母乳で育てられていない赤ちゃんは年間約760万人いる。

高所得国のうち3分の1は米国

 報告書によると、母乳が赤ちゃんの命を守り、赤ちゃんと母親を命の危険のある疾病から守り、より高い知能指数(IQ)や教育の成果を上げることに繋がるにも関わらず、高所得国で母乳を飲んだことのない赤ちゃんの割合は推定22%にのぼると指摘。なお、低・中所得国の割合は4%。

 報告書では、少なくとも一度は母乳を飲んだことがある赤ちゃんの割合は

・ブータン(99%)

・マダガスカル(99%)

・ペルー(99%)などの低・中所得国の方が、

・スペイン(77%)

・アイルランド(55%)

・米国(74%)よりも高い。

なお、高所得国で一度も母乳を飲んだことがない赤ちゃん260万人のうち、3分の1以上が米国で暮らしている。

貧しい国の裕福な母親は母乳育児をしない、豊かな国では貧しい母親がしない傾向

 しかし報告書のデータでは、低・中所得国の中でも貧富の格差が母親による子どもの母乳育児期間に影響していることを示している。最貧困層の家庭に生まれた赤ちゃんが2歳の時点で母乳を飲んでいる割合は、最富裕層の家庭に生まれた赤ちゃんより1.5倍高い。このギャップが最も高いのは、西部・中部アフリカ地域とラテンアメリカ・カリブ海諸国地域で、最貧困層の家庭に産まれた赤ちゃんが2歳の時点で母乳を飲んでいる割合は、より豊かな層の家庭に生まれた赤ちゃんの2倍近くになる。

 ユニセフ事務局次長代理シャヒーダ・アズファール氏は「貧しい国の裕福な母親は母乳育児をしない傾向にあり、逆説的だが、豊かな国では貧しい母親がしない傾向にあることがわかった。この所得レベルによるギャップは各国が、その富の程度に関わらず、全ての母親が母乳育児をするために必要な情報と支援を提供していないことを強く示唆している」とコメント。非常に興味深いデータだ。

 ユニセフでは、世界の新生児に代わって、世界的な解決方法を求めるキャンペーン「Every Child ALIVE」を通して各国政府、民間企業、市民社会に対して以下のことを強く要求している。

・出生時から2歳までの母乳育児の割合を高めるために予算と認知を高める。

・母乳代替品を安全に使用するための水や衛生環境が整っていない国や地域においては、育児用ミルクなどの母乳代替品(哺乳瓶や乳首も含む)の販売を規制する強力な法的措置を制定する。

・家族の有給育児休暇、および有給の授乳休憩を含む職場での授乳政策を制定する。

・産科施設において「母乳育児を成功させるための10か条」を実践し、病気の新生児に母乳を提供する。

・母親が産後1週間、保健施設で授乳に関する技術的なカウンセリングを受けられるように徹底する。

・保健施設と地域の関係を強め、母親が確実に母乳育児に必要な支援を継続して受けられるようにする。

・母乳育児政策やプログラム、その実践における改善を追跡するためのモニター制度を向上させる。

 ユニセフ事務局次長代理シャヒーダ・アズファール氏は「母乳育児は、母親が裕福でも貧しくても、子どもと自分自身に与えることのできる最高のプレゼント。母の日を祝う中、私たちは世界中の母親が、母乳で赤ちゃんを育てられるように必要な手助けを提供しなければなりません」と語っている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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