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米国の大学生が制作「ホロコースト生存者のインタビュー動画」ヤドバシェムのアーカイブに

佐藤仁学術研究員・著述家
チェコのテレジン収容所に移送されるユダヤ人(Yad Vashem提供)

 アメリカのリバティー大学の2人の学生がイスラエルでホロコースト生存者の88歳の女性にインタビューした動画(ショートフィルム)「Remember」が、イスラエルの国立ホロコースト博物館(ヤドバシェム)のデジタルアーカイブに格納されることになった。

 第2次大戦時にナチスドイツが約600万人のユダヤ人や政治犯、ロマらを殺害したホロコースト。現在、生存者らでホロコーストの記憶がある人たちも高齢化が進んでいる。

「一人ひとりに物語、名前、顔、家族がある」

 リバティー大学の2人の学生Jared Brim氏とTim Moraski氏が12日間イスラエルに赴き、Judith Rosenzweig氏のホロコースト時代の経験や思い出を語ってもらった。現在、イスラエルのハイファに住むRosenzweig氏は1930年チェコに生まれた88歳。9歳の時にナチスが侵攻してきて、12歳の時にチェコのテレジン収容所に母と姉妹とともに収容されていた。そして2年後の1944年にアウシュビッツ絶滅収容所に移送され、15歳の時にベルゲン・ベルゼン収容所で解放された。母は戦争が終結し解放されて1週間後に死んでしまった。戦後、イスラエルにやってきて看護婦をしながら生活していた。Rosenzweig氏が「2度とホロコーストの悲劇を繰り返さないために」ということで、ホロコースト時代の経験を語り始めるようになったのは2017年から、と最近になってからだ。

 動画を制作したMoraski氏は「ホロコーストについては学校や本で学習していたつもりだったが、インタビューをしてみるとホロコーストの印象が全く変わった。ホロコーストを経験した人の一人ひとりに物語があり、名前があり、顔があり、家族があることを改めて知った」とコメント。

 イスラエルの国立ホロコースト博物館ヤドバシェムでは、2005年に「ビジュアルセンター」を開設し、生存者のインタビュー動画、当時の映像、世界各国でのテレビでのホロコースト関連の番組をデジタル化して保存している。現在、約11200本の当時の映像などの動画、60000本のインタビューのテープが格納されている。今回、2人の学生が制作した動画もこの中の1本として保管される。

「デジタル化された動画を誰もが見られるようにしたい」

 ヤドバシェムのビジュアルセンター長のLiat Benhabib氏は「収集するだけでなく、デジタル化された動画を世界中の誰もが見られるようにしたい。ここ50年くらいはテレビや動画での生存者のインタビューが多くなっており、それらは若い世代の教育にも有益だ」とコメントしている。いくつかの動画はオンラインで公開もしており、生存者や犠牲者の名前で検索することも可能で、世界中に離散しているホロコーストで親族や友人を失い、いまだに行方が知れない人を探すために多くのユダヤ人が利用している。

 現在、世界中で多くの若者がホロコーストのことを知らない。アメリカのミレニアル世代(1980年代~90年代生まれ)の66%がアウシュビッツを知らないという結果も出ている。ヤドバシェムをはじめとしたホロコースト関連の機関が、二度とホロコーストを繰り返さないためにも、当時の生存者にインタビューを行い、それらをデジタル化して保存し、世界に公開している。

 現在、ホロコーストの記憶のデジタル化が急速に進められている。ホロコーストの生存者で当時の記憶がある人のほとんどが85歳以上だ。心身ともにインタビューを受けて、当時の思い出や経験を精確に語ってもらうための時間は限られている。

▼ヤドバシェムではホロコースト関連の多くの動画を公式YouTubeチャンネルでも公開。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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