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ポーランド、「ホロコースト加担」の表現禁止:動画作成しSNSで世界へ発信

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

ポーランド、ホロコーストにポーランド加担の批判や表現を禁止する法案

 ポーランドでは2018年1月、ナチス時代のドイツによるユダヤ人迫害・大虐殺のいわゆるホロコーストについて、ポーランドも加担していたと批判することを違法とする法案(「ホロコースト法案」)を上院でも可決した。法案では例えば、ポーランドに設置されたアウシュビッツなどの絶滅収容所を「Polish death camp(ポーランドの死の収容所)」といったように「ポーランド」の用語を使用することを禁じている。違反した場合は、罰金または3年間の禁錮刑となる。

 ナチスのホロコースト蛮行の舞台のほとんどがユダヤ人が多く在住していた東欧で、特にポーランドだった。また強制収容所はドイツなど西欧諸国にも設置されていたが、ガス室など残虐な施設のある、いわゆる絶滅収容所のほとんどはポーランドに設置され、そこで多くのユダヤ人が虐殺された。

 当時ポーランドでは3万人以上のユダヤ人がポーランド人によって命を救われた。またアメリカホロコースト博物館によると、ナチスによってポーランドの一般市民が190万人以上殺害された。そのため、ポーランド人としては自らがホロコーストに加担していたと批判されたりすることは許し難いことであろう。だが、実際にはナチスドイツだけで、あれだけ多くのユダヤ人を迫害し、虐殺することは不可能で、ポーランドだけでなく東欧各地の現地人の協力が必要だった。そのため、イスラエルは今回のポーランドの法案には反対している。またアメリカ国務省も、ポーランドでの表現の自由を損ねる恐れがあるとの懸念を示し、ポーランド政府に対して再考を促している。

YouTubeやSNSで拡散・アピールへ

 だがポーランド政府としては、ホロコースト法案の再考などは検討しておらず、むしろ積極的にポーランドは加担していなかったことをアピールするために、動画を製作してYouTubeでアピール。動画は2018年2月8日に公開されたが、公開1週間で既に1260万回以上再生されている。このような当局主導で作成されたアピール動画が1週間でこれだけ多くの再生回数を突破することはほとんどない。

 動画では90歳以上のポーランド人でアウシュビッツ収容所をに収容されていた老人が登場して、「最初から最後までドイツの収容所だった」などと訴えている。ホロコーストではユダヤ人の生存者らが、当時の思い出を語ったり、それを動画で撮影してアーカイブとして世界中に公開している。いわゆる「記憶のデジタル化」だ。それらの動画は欧米では学校教育にも多く活用されているので再生回数は非常に多い。今回のポーランドが製作した動画も「ホロコースト法案」を世界にアピールするのと同時に、「記憶のデジタル化」の試みの1つでもある。

 またアウシュビッツなどポーランドに設置された強制収容所は「ポーランドの収容所」ではなくて、「ドイツの収容所」だったことをアピールするために「#GermanDeathCamps(ドイツの死の収容所)」というハッシュタグをつけて、ポーランド政府も自らのSNSを積極的に活用して、世界中にアピールしている。

▼ポーランド当局が製作した動画で既に1260万回以上再生されている。

▼以下もポーランド当局が製作した動画。アウシュビッツに収容されたポーランド人が登場。こちらも200万回以上再生されている。

当局のTwitterなどSNSでも「#GermanDeathCamps」のハッシュタグを付与してアピールしている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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