国連WFP「農作物取引アプリ」で農家支援へ:ザンビアで試験
国連WFP(国際連合世界食糧計画:World Food Programme)は、途上国の小規模農家とバイヤーが仮想空間で農作物を取引し決済できる 「バーチャル・ファーマーズ・マーケット(仮想農作物市場)」の携帯アプリを開発。どこの市場では農作物にどの程度の価格で売れるのかといった情報をリアルタイムで提供することで、農家がよい条件で農作物を売ることができるようになる。現在、ザンビアでアプリのトライアルを行っている。
急速に普及したアフリカでのスマホ
人口が12億人を超えるアフリカでは5億人以上の人が携帯電話を利用している。かつては電話とSMS(ショートメッセージ)しかできないNokiaの廉価な携帯電話がほとんどだったが、最近ではスマホの普及も著しい。2020年にはアフリカでの携帯電話利用者数は7億2,500万人に達すると予想されている。
農村でもスマホや携帯は普及してきている。しかし村落部に暮らす数百万人もの小規模農家は、地元や国内の農産物市場へのアクセスするのに苦労している。仲介業者に騙されることも多い。スマホや携帯だけが普及しても、情報にアクセスすることは容易ではない。何かしらのプラットフォームが必要だ。「市場へのアクセスが容易になれば飢餓や貧困から抜け出すことが可能になるかもしれない」というWFPの思いで、「バーチャル・ファーマーズ・マーケット(仮想農作物市場)」は生まれた。
アプリで市場へアクセス、騙されない取引へ
「バーチャル・ファーマーズ・マーケット」は、小規模農家と市場をつなげる国連WFPの旗艦プログラム「前進のための食糧購入(Purchase for Progress:P4P)」に基づいている。P4Pとは国連WFPが途上国の小規模農家から余っている作物を適正な価格で「買って支援する」仕組み(買い取った食糧は別の場所で支援食糧として配給)。この取り組みから、国連WFPは質の高い農作物を買い付ける購売者としての信頼と評価を得ており「バーチャルファーマーズマーケット」アプリを用いて「農家の人々・商人・他のバイヤー」の3者が相互にやり取りできるような仮想ネットワークを創出。
国連WFPだから適正な価格で買ってくれるのだろうが、アフリカでは農家が適正な価格を知らないために、騙されて安値で買いたたかれていることが多いようだ。そのためこのアプリによって、持続可能で公平な市場が生まれることが期待されている。「どこの市場では農作物がいくらで売られているのか?(どの程度の価値があるのか)」といった情報をリアルタイムで提供することで、小規模農家の交渉力や得られる利益を増すことができる。さらに相互協力や知識の共有も可能となり、農家は市場にアクセスできるようになることで生産性の向上が期待される。つまり、どのくらい生産すれば余らすことなく売れるのかがわかるようになる。
こうして創り出された農作物市場では参加メンバーの適正評価や顔を合わせた会合を経て、農作物の売買から電子決済までを行うことができるようになる。この枠組みは農家の人々により大きな農作物市場を提供するだけでなく、農家仲間とのつながりを生み出す。「バーチャル・ファーマーズ・マーケット」の仕組みを持続可能にするために、購入者に対しての取引手数料は少額に留め、売る側の小規模農家の手数料は無料となっている。国連WFPによると、このアプリは農家、バイヤー、草の根起業家の三者がともに力をつけ、立場の弱いコミュニティが飢餓や貧困から脱出できるようになると述べている。
まずはザンビアでトライアル
2017年5月に「バーチャル・ファーマーズ・マーケット」のアプリ「マアノ(Maano)」がザンビアの村落部の農村でトライアルが開始された。マアノとは現地の言葉で情報や知能という意味。現時点で約2,500名のザンビアの農家の人々が、それぞれのコミュニティを代表すべく集まった50名の「マアノ大使」の下、トライアルに参加。100社ほどの国内外のバイヤーが、マアノを通じて農作物購入の研修を受講。
国連WFPでは2017年の農作物市場の季節である5月から10月にかけて、マアノアプリのトライアルを実施。開始3~5年後に収益化できることを目指し、持続的発展ができるように設計されている。それまでに新しいパートナーや新規の投資を募り、ザンビア国内での拡大や他国でのトライアル、アプリの開発の継続とプラットフォームのメンテナンスを行っていくそうだ。
アフリカでも進む若者の農業離れ
アフリカの農村部でもだいぶスマホは普及してきた。スマホが普及したことで、Facebookのようなソーシャルメディアの活用やメッセンジャーでのやり取りも拡大してきた。さらにニュースのチェックなどもできるようになり、情報化はいっきに進んだ。これからは、農作物の適正価格を知らないで騙される農家が減少し、市場で求められている分量だけを生産できるようになることも期待されている。
このように農村部ではスマホの普及で農業改革も行われようとしているが、アフリカでも若者の農業離れが深刻のようだ。多くの若者が農村部から都市部に流出しており、農村部に残って農作業に従事する人が減少している。スマホやソーシャルメディアの普及によって、都会の情報も簡単に入手できようになり、誰もが農村よりも、都会に行きいい生活をしたいと思う。但し都会に出てきても仕事がないから都会の治安も悪化するという悪循環も起きているようだ。
アフリカだけでなく世界規模で農業離れが進んでおり、これからは誰が農業を担っていくのだろうかという課題が出てきている。こちらの問題も根が深い。