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2020/2021の先にしあわせな当たり前を。本当のヒーローたちが現れる期待。

佐多直厚コミュニケーションデザイナー
聖火リレーが全国を巡ります。あなたはどう感じますか?(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 東京2020オリンピック聖火リレーが2021年3月25日、福島県南相馬市からスタートしました。伝統と繋がりを大切に掲げて全国を満面の笑顔でリレーしていきます。あなたはどう感じましたか?先の見えないコロナ禍脱出。批判も多い中でわたくしはとても感慨深くテレビ中継を見つめました。観ていたのはランナーよりも支える人や対応です。ランナーをサポートする伴走者。誘導する人、車両そして表示の設置。胸に「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のためご協力をお願いします」というプレートをかけた警備の方々。そして画面からは観えないところで対応する多数の関係者、ボランティアにも思いを巡らせて。支え続ける意志が一歩一歩進んでいく。その先に達成すべきものを考えます。

豊かなユニバーサルデザイン社会を目指す象徴であるオリンピック・パラリンピック。

 今やSDGsとともに定着してきたのが共生社会という名称。同時に馴染んできたのがダイバーシティ(多様性)、さらにダイバーシティ&インクルージョン(包括)、そしてそれを形作る大事な方向性がユニバーサルデザインです。ごく簡単に言うと、誰もがみんな活用して、楽しめて、連携できるような街、モノ、情報、仕組みのことであり、実現するプロセスも指します。さてユニバーサルデザイン2020行動計画をご存知でしょうか?これは東京2020を目途として政府が平成29年2月20日に決定、令和2年12月20日に一部改正し、進めてきました。「2021年の東京大会は、成熟社会における先進的な取組を世界に示す契機であり、我が国が共生社会に向けた大きな一歩を踏み出すきっかけとしたい」と示して共生社会の実現に向けた大きな二つの柱として、国民の意識やそれに基づくコミュニケーション等個人の行動に向けて働きかける取組(「心のバリアフリー」分野)と、ユニバーサルデザインの街づくりを推進する取組(街づくり分野)を検討し、取りまとめられました。

参考:首相官邸ホームページから計画PDF

 この計画に基づいて行政、公共交通機関等交通施設、関係団体、施設運営において改革が進められてきました。その事例もホームページにて紹介されています。

参考:ユニバーサルデザイン2020好事例集

 これらは大会開催を目途に懸命な努力で進行してきました。声高なアピールをすることもなく、着々と。それは成熟社会の当たり前を実現することだから。日本という国の当たり前にすることの素晴らしさは世界の尊敬を集めています。正確無比な運営の公共交通網。顧客本意の接客などなど。ラグビーW杯での感動からのさらなる感動の頂点となるはずの東京2020。そこに襲い掛かった新型コロナ禍。当たり前構築にも多大な影響をもたらし、関係者にとって先の見えない中での苦闘が続いています。

見えない収束と目の前の開催。その狭間で当たり前であり続ける。

 行動計画が実際に動く方々にとっていかなるものか、昨年の夏にインタビュー取材を開始。大会の中枢、関係者として取り組む様々な組織や人材そしてダイバーシティビジネスの開拓者。しかしコロナ禍という状況がインタビュー内容と実情との乖離に陥ってしまいました。聖火リレーを見つめながら、あくまでわたくしの私見として記述してみたいと思います。

 東京でオリンピックをもう一度。その構想は石原都知事時代にまで遡ると、東京港第13号地埋立地、通称お台場を中心にした臨海副都心利用、エコロジーの先進計画、IR誘致なども含めてのチャレンジングな構想がありました。その後代々の知事、政権の構想は千変万化し、個々のプロジェクトとして離れつつも、日本らしい総合的な当たり前への展開が進行。未来社会設計も日本らしい当たり前として、粛々と実現を目指して。2020年10月にプレ運行を開始したTOKYO BRT。バス高速運送システムもその一つです。臨海部で静かに、エコに走り出しています。そういった対応力も新型コロナによってあり得ない厳しさに。サービスの簡素化、衛生環境施策そしてユニバーサルデザイン行動計画はやらざるを得なくなった。その基準で動かす。これまでの手法ではなく、それは人類全てが傷病者であるという基準かもしれません。その収束は未だ見えず。そのうえに激甚化、広域化する自然災害にも目を配りつつ。今年も二ヶ月で梅雨入りとなります。それを当たり前に乗り越えての開催予定7月23日。どんな形になろうと対応し粛々と当たり前に対応する関係者の象徴として聖火リレーを運営する方々に感謝したいと思うのです。

BRT(バス高速輸送システム)も新時代を担っている。*写真は先駆けて2015年に開業し、運営する新潟市のBRTです。
BRT(バス高速輸送システム)も新時代を担っている。*写真は先駆けて2015年に開業し、運営する新潟市のBRTです。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

参考:東京BRTホームページ

 筆者が執筆シリーズにつけたタイトル「PARADISで行こう」のパラディスというダイバーシティビジネス開発会議体にも多くの関係者がいます。企業からの派遣、福祉関係者、障害者としての参画者。彼らも実に真面目に粛々と取り組んで、終わった時にやって良かったと言える事を想像して、励まし合って働いています。安心、安全な運営こそが東京2020のユニバーサルデザイン×レガシーなんだと自負をもってチームワークで運営しているのです。

参考:PARADISで行こう。記事一覧

コロナ禍によるユニバーサルデザイン社会への進化に気づいた。

 日本の原点はおもてなし、サムライスピリットの根元はここまで語ってきた当たり前を作り出す能力。本能に近い気質です。コロナに対応する方法や忍耐そして連携力。自然災害にも、誰かのエラーがあってもそれを修復して前に進む姿には賛否あるでしょうが目を見張ります。信じられないくらいの当たり前変換力。わたくしが関わらせていただいている東京都オリンピック・パラリンピック教育ではその素晴らしさを実感しています。東京2020に向き合って「ボランティアマインド」、「障害者理解」、「スポーツ志向」、「日本人のとしての自覚と誇り」及び「豊かな国際感覚」を、この教育で子供たちが身に付けるべき重要な資質と位置付けた支援事業として、教育支援プログラムを2016年に開始。多数の外部機関・団体がコンテンツを提供しています。

参考:東京都の広報リリース2016/7/19

 パラディスはいつでも、どこでも、だれとでも楽しめる柔軟性が売りのユニバーサルボールゲーム「パラディスボール」ほか10を超えるコンテンツを提供してきました。

参考記事:2020東京パラリンピックへの道しるべとは。

 参考記事にて報告しているパラディスボールはこの5年間で延べ380校、32,000人が参加した体験学習を実施してきました。2020年はオリパラ年としてさらに盛り上がっていくはずが、コロナ対策によるプログラムの三密を避ける教育現場ルールに沿っての対処が急務となりました。まだリモート環境が整いつつある過程のため講演型も難しく、体験型はもってのほか。パラディスボールは柔軟性を最大活用したコロナバージョンを年度始めに先んじて提案し、認証いただき実施。15校と少ないのですが、三密を避けなければいけない状況だからこそ体験させることが大切であり、これまでの4年間ではなかった進化がありました。

パラディスボール・コロナバージョン実施風景(写真提供:大田区立田園調布小学校)
パラディスボール・コロナバージョン実施風景(写真提供:大田区立田園調布小学校)

 コロナバージョンは身体接触を避けるため、写真のように床に座って隣と接するのは開いた脚の先端のみ。手や体での接触をせず、ボールを渡す際には手渡しをやめて、脚の先へボールでタッチして床に置くことに変更しました。ボールは使用ごとに消毒しますが、公式球はありもののボールをレジ袋にいれて、シャリシャリ!と音のでるボールにします。そのため終了したら袋を捨てることで対応が完結するのです。そして開始前、終了後の手洗い。審判は電子ホイッスルを使用し、声を抑えられるようにマイクを使用。見えない行動体験とサポート体験がコロナ対応で減衰するか心配でしたが、逆に進化した体験になっていました。連携プレーを楽しむ機会が少なかった2020年度でしたが、その喜びと大切な思いやりが高まっていたのです。

「けりま〜す」宣言してさあキック!レジ袋で手持ちのボールを包むパラディスボール公式球。使用後に捨てれば、コロナ対策。(写真提供:大田区立田園調布小学校)
「けりま〜す」宣言してさあキック!レジ袋で手持ちのボールを包むパラディスボール公式球。使用後に捨てれば、コロナ対策。(写真提供:大田区立田園調布小学校)

見えない人にボールを渡す工夫。教えてあげる声がけとサポート動作。これまでにない優しさが溢れていました。それは終了後にも。授業中にボールに触れられなかった級友のために機会づくりを考えています。そして家族や様々な人とも共有することも。感染爆発に対して気が緩みがちな大人たちに比べて、生徒たちは忍耐強く、給食を黙食し、きちんとルールを守って、互いを愛しみあって成長しています。写真の生徒たちはこの授業の翌週は卒業式。コロナの一年を思い出に中学生へ。彼らが10年後にどんな大人になって社会に参画しているか楽しみです。思い起こせば10年前の2011年。東日本大震災で被災した子供たちも成長し、頼もしい大人になっています。決して弱くない。本当の優しさを知っている大人として。2021年度もプログラムは継続することが決まりました。東京2020大会がどうなろうと、教育は推進されます。子供たちは我慢の中で進化していきます。

乗り越えた先に、本当のヒーローが現れる。

 聖火リレーが進みます。コロナの現状を伝える報道とともに、淡々と進みます。支える人々も、ユニバーサルデザインも粛々と当たり前の実現を進めます。コロナだけでなく自然災害も、社会情勢も乗り越えた先を目指して。その時に進化したヒーローがあなたのそばにいるはずです。

 パラディスボールの説明で言う言葉があります。

「運動が嫌いでも、ボール遊びが苦手でも、だれもがヒーローになれるボールゲームです。」

 目隠しをするので得意不得意が消されるから。それもあります。でもヒーローってなんでしょう?活躍する人ではありません。映画のヒーローはどうですか?困っている人を助けるのがヒーローですね。パラディスボールで見えないプレイヤーにボールを優しく渡したり、ボールの行方を丁寧に教えたり、ボールに一度も触れなかった人に心を配ったりする。それがヒーローです。日本人の当たり前作りも、ヒーローへの進化も全ての困難を乗り越えた先に、いやもうすでに私たちは手にしていると思います。医療従事者とそれを応援する人々。難しい情勢を必死で動かす人とそれを粛々と支える人。東京2020がどんなエンディングを迎えても、私たちの当たり前とヒーロー進化は輝くはずです。世界中の人々がそんな日本を讃え、来訪してくれるはずです。

コミュニケーションデザイナー

金沢美術工芸大学卒。インクルーシブデザインで豊かな社会化推進に格闘中。2008年、現在の字幕付きCM開始時より普及活動と制作体制の基盤構築を推進。進行ルールを構築、マニュアルとしての進行要領を執筆し、実運用指導。2013年、豊かなダイバーシティ社会づくりに貢献する会議体PARADISを運営開始。UDコンサルティング展開。2023年7月(株)電通を退職後2024年1月株式会社PARACOM設立。 災害支援・救援活動を中心に可能な限りボランティア活動に従事。ともなってDX事業開発、ノウハウやボランティアネットワーク情報を提供。会議体PARADISの事業企画開発を担います。

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