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子のインフルを理由に労働者に休みを命じた使用者には給料を全額払う義務があります。

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 この記事がヤフーニュースのトピックスとなっていました。

「子供がインフル」ママパートに“休業命令”はあり?

 毎日新聞の記事で、社会保険労務士の方のご意見のようです。

 この記事は、雇用しているパート労働者の子どもがインフルエンザにかかったことで、そのパート労働者に起因して次々と他の従業員もインフルエンザにかかってしまった経験を持つ企業が、子どもがインフルエンザにかかったパート労働者に休業を命じたというものです。

 この場合、休業を命じられた労働者の給料について、記事では次のように言っています。

出勤停止中は「ノーワーク・ノーペイ」の原則により、会社に給与の支払い義務はありません。従業員が自身の有休を利用するのが一般的です。

出典:前掲記事

 えーー!  と、つい声を出してしまいますね。

 ツイッターでは、労働問題に詳しい弁護士からすかさず次のようなツッコミが入りました。

 これには私もまったく同意見です。

 まず、使用者が使用者の都合で労働者に休みを命じる場合は、基本的には給料を全額支払う義務があります。

 上記のツイートで中川弁護士が指摘するように、民法には、536条2項という規定があり、次のように定めています。

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。

出典:民法536条2項前段

 ちょっと難しいですが、この場合、債権者を使用者に、債務者を労働者に読み替えるとわかりやすいです。

債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、

とは、

使用者の都合で働けなかったときは、

に読み替えます。

 さらに、

債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。

は、

労働者は、賃金を受け取る権利を失わない。

と読み替えます。

 つなぐと、

使用者の都合で働けなかったときは、労働者は、賃金を受け取る権利を失わない。

となります。

 子どもがインフルエンザでもその労働者がインフルエンザになっているわけではありませんので、予防のために休むように命じるのは、会社の都合ということになります。

 つまり、使用者の経営判断で、労働者の家族にインフルエンザにかかってしまった場合は休んでもらうと決めているわけですから、それにしたがって休む場合は使用者都合での休みとなります。

 他方、問題の記事で指摘されている「ノーワーク・ノーペイ」とは、労働者が労働者の都合で仕事ができないときは給料を払ってもらう権利は生じないことを言います。

 ですので、問題の記事では、全く違う場面に「ノーワーク・ノーペイ」の原則を当てはめてしまったということになります。

 さすがに、この記事を信じて、無給で労働者を休ませる企業が出てきては困ります。もちろんインフルエンザの予防は大事です。社員を休ませること自体は悪いことではありませんが無給にするのはやめましょうということを伝えたく、この記事を残しておきます。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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