総合的なハラスメント禁止法の制定が急務

厚労省「明るい職場応援団」より

 ようやく政府が重い腰を上げようとしている。

 パワーハラスメントの防止のための法律を整備する動きが出てきたのだ。

パワハラ防止策、企業に義務づけ 厚労省が法制化方針(朝日新聞)

 骨子案が公表されたからか、本日はパワハラの法整備関連の報道が多い。

パワハラ対策 防止措置の義務化で実効性を

パワハラ対策を企業に義務付け 厚労省が法案提出へ 実効性課題

パワハラ対策 実効性課題 防止義務法制化案 行為の禁止盛らず

増え続けるハラスメント

 日本においてパワーハラスメントが横行していることは指摘されて久しい。

 政府は、2011年から2012年にかけて「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」を開いたこともある。

 しかし、この時の提言では法制化には言及されず、さらなる啓蒙ということで終わった。

 なお、この会議で、パワハラを6類型に分類している。

 それから6年、ハラスメントは減らないどころか増え続けてきた。

 労働局の相談件数もうなぎのぼりである(下グラフ参照)。

厚労省「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より
厚労省「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より

 この現状を放置するわけにはいかないため、政府は有識者や労使関係者を集め「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」を開催し、対策について議論をした。

 その際は法整備については両論併記となり曖昧な結論となった(労働側は整備を主張)。

 その後、議論の場は労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)に移った。

 労働政策審議会とは、雇用に関する法律を作る際に前もって開かれる会議で、ここでの議論はその後の法律作成の方向性について極めて重要な意味を持つ。

 構成員は、三者代表制をとり、公益代表と言われる学識者、使用者代表と言われる経団連やその加盟企業から推薦された者、労働者代表と言われる連合及びその傘下の労働組合から推薦された者である。

法整備に消極的な使用者代表

 当初、パワハラ対策の法整備について使用者側委員は消極的であったという。

 理由は諸々あるのだろうが、我が国のこの状況で法整備が不要というのはさすがに認識がずれていると言わざるを得ず、「もしや自由にパワハラをしたいのでは?」とも勘繰りたくもなる。

 しかし、円卓会議から現在まで、啓蒙を続けるだけでは改善の兆しが見えないため、ついに法整備の方向性が打ち出されたのである。

パワハラについて事業主の措置義務を明記する方向性

 法整備の内容は、セクハラと同様で、事業主にパワハラ防止措置を講ずる義務を課すものになるとみられている。

 もちろん、現在はパワハラについてはこうした措置義務さえないので、大きな前進であろう。

 セクハラは法整備がされ、さらには措置義務が設けられ、社会の意識は向上した。

 30年前の状況と、現在の状況では、セクハラに対する認識は大きく異なっているだろう。

 したがって、パワハラもこれと同様に、措置義務を契機として企業内で研修等が重ねられることで、社会の意識は変わっていくものと思われる。

これがゴールではない

 ただ、これを終着点としてはならない。

 セクハラ、パワハラを問わず、ハラスメントを減らしていくには、事業主に措置義務を課すだけでは不足である。

 措置義務だけでは、形式的にそれを履行するだけの企業もあるし、労働局も措置を果たしたかどうかという形式面へ目が向いてしまいがちになるためである。

行為禁止規定が必要

 ハラスメントを減らすために、より一歩進むためには、典型的なハラスメント行為を特定し、それを禁ずる規定が必要だろう。

 こうした行為禁止規定を設けることで、典型的行為に該当するハラスメントについての意識は向上し、事業主もそうした行為が生じないよういっそうの注意を払うことが期待できる。

 また、裁判になった場合も、禁止行為を認定した場合は、従来より慰謝料が高くなることが期待できる(ハラスメントに対する現在の慰謝料水準は高いとは言い難いのが現状である)。

 さらに、裁判所が稀に用いる「そのハラスメント行為は不相当だが、慰謝料が生じるほどではない」というロジックも、典型的行為においては通用しなくなるだろう。

 その意味で行為禁止規定は、被害者の救済を助ける意味も大きい。

 一方で典型的行為から漏れる行為についてハラスメントではなくなるという懸念を指摘されることもある。

 しかし、典型例はあくまでも例示的な列挙であるので、それに該当しない行為もハラスメントに当たるものは現在と同じ運用が行われることになり、ハラスメントではなくなるということはない。

総合的なハラスメント禁止法の制定が急務

 現在の法改正の議論で上記の行為禁止までたどり着けるのが理想である(その場合はパワハラだけでなくセクハラについても同時に改正が必要となる)。

 仮にパワハラについての措置義務にとどまったとしても、総合的なハラスメント禁止法を創設することは急務だろう。

 その場合、業法的な規定だけではなく、加害者・使用者の損害賠償義務や、この義務と民法上の不法行為との関係の整理など、私法関係の規定も必要である。

 また、禁止行為違反については、過失の立証に関して一部立証責任の転換が議論されてもいいのではないだろうか。

 さらに、主にサービス業で問題となっている取引先(顧客)から受けるハラスメント(カスタマーハラスメントと言われ「カスハラ」と略される)も取り上げる必要があるだろう。

 このように課題は山積である。

 政府には早々に検討会や研究会を立ち上げて、議論を開始してもらいたい。

<法制化へ向けた署名もやっています>

パワハラを禁止する法律を作ってください!(日本労働弁護団)

<参考>

職場のいじめ・嫌がらせに対する立法を求める意見書(日本労働弁護団)