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WOWOW「WHO I AM 」義足のスノーボード金メダリスト・エヴァン・ストロングを迎えて!

佐々木延江国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
エヴァン・ストロングを囲んだ「WHO I AM」フォーラムで  写真・矢野信夫

 IPC(国際パラリンピック委員会)とWOWOWの共同制作によるパラアスリートのドキュメンタリー・シリーズ「WHO I AM(=これが自分だ!という輝き)」のシーズン2より、ハワイ在住・義足のスノーボード王者、エヴァン・ストロング(アメリカ)のストーリーを伝える試写会とトークセッションが1月24日に都内で行われた。

 会場は多くのメディア関係者やパラリンピック、パラスポーツに関心のある人々が集まり、内容の濃いフォーラムとなった。

 平昌パラリンピックまで50日を切り、冬季競技、スノーボードもワールドカップの中盤を迎えている。ソチパラリンピック(2014年)アルペンスキーの種目として行われ、今年3月に行われる平昌パラリンピックで正式種目となることが決まっている。

 数日前パラリンピック日本代表選手団の発表も行われ、日本からはエース・日本代表の成田緑夢(ぐりむ)、大日方邦子日本選手団団長のほか、元フィギュアスケート日本代表・安藤美姫ら日本の冬季競技のアスリートが招かれていた。

パラリンピックの魅力とは

 試写会に先立って、日本初となる女性+アスリート出身の選手団長、大日方邦子氏はつぎのように語った。

 「パラリンピックの魅力は何でしょう?それぞれ考えがあると思いますが、私は、一見不可能そうに見えることも、工夫すればきるようになることに思います。私も(足を怪我して)立って滑ることはできないが、座って滑ることができるようになりました。まさか自分が時速100キロを超えるスピードで雪山を降りてくるスポーツで金メダルを獲るとは思わなかった。

 苦労や、魂を込めていることは、一人一人違う。エヴァンがどんな工夫しているのか。用具か、人生か、どのように何を工夫しているのか見ていただけたら。漠然としたイメージから、ここが知りたい、もっと楽しめるようになると思います。

 平昌では、選手が全力を出し切ってこそ、見ている人も楽しめると思います。平昌がそういう大会になって欲しい。このドキュメンタリーを見て、多くの人に応援して欲しい。日本選手だけでなく、世界の選手の応援を」

ライバル談義

 スノーボード選手の二人は、シーズンたけなわを迎えている。先月(12月)行われた、ワールドカップ・スノーボードクロス(フィンランド)では、王者エヴァン・ストロングが、彗星のごとく現れたアジアの若者・成田緑夢に玉座を奪われるという局面を迎えていた。

 結果に対し、王者は「必ず勝てると思うほど、自分のコンディションは以前より良くなっているのに、勝てないのはなぜか。やはり、世界のレベルが高くなっているためだと思う」と、冷静に状況を理解しながらも、「なぜだ?と問い続け、工夫を続ければ、また勝てるだろう」と、あきらめることなど微塵もなく、思わぬ苦境を堪能していた。

 シーズン中の来日となり、慌ただしいことだろうとの予想とは裏腹に、エヴァンは都内の小学校をおとずれ、子供たちと交流していた。

 「子供たちには夢を持つことの大切さ、状況に感謝したい気持ちがたくさんあることを伝えました。障害があると言って、避けたり、荒れたりせず、パラリンピックがあったり、努力を重ねていくことができる。世の中が障害者の努力を認めてくれる。前に行っていいんだって!」

「怪我してよかった?!」パラリンピックはアスリートの物語を知り、競技を観る

WOWOWの招待で来日した、金メダリスト・エヴァン・ストロング(アメリカ) 写真・矢野信夫
WOWOWの招待で来日した、金メダリスト・エヴァン・ストロング(アメリカ) 写真・矢野信夫

 エヴァン・ストロング本人は、自らを描いたドキュメンタリー映像を、試写会の前夜に妻と観て、涙したという。

 「あまりに作品の出来ばえが良かった。長い時間をかけて、たくさんのレースも観にきてくれ、できた映像で、あらためて自分を観て、涙がでた。自分のことをこんなふうに伝えてくれて、ありがとう。

 人は、辛い経験に学ぶ。人の気持ちを学び、相手が望むことをしようと思うようになる。あらためて成長できる。自分だけでなく、すべてのパラリンピアンの人生にはストーリーがある。ぜひそのストーリーを知って、戦っている姿をを見て欲しい」と話した。

 成田緑夢は、自分がめざしているパラリンピックで、金メダリストのエヴァンに当初は威圧感を感じていたが、試写会でエヴァンのストーリーを見て、「こんなにも、自分と似ている!」と、驚いた。

 トークショーでは、自分も受傷し、しばらく競技を辞めたが、父に誘われて出場した大会で優勝、SNSで報告したら「きみの話に前向きになれた!」という旨の反響をたくさんもらい「自分がスポーツをすることで人を前向きにできる」ことや「家族の大切さ」に大きな価値を感じたと話し、王者と「スノーボード仲間っていうか、友達みたい!」と、会えたことへの素直な喜びを伝えた。

 また成田は、会場に向けて「パラアスリートは、その過去を見て競技を見る、その工程が素晴らしい。演技(競技)の素晴らしさを見てもオリンピックと同じ。ストーリーを全部踏まえて見ることが素晴らしいと思う」と語った。

金メダルよりも

 色々な立場のトップアスリートが集まり、確実にトークショーのキーワードになっていた「金メダル」について、エヴァンは、金メダルよりずっと大事なものがあると言う。

 「シンプルにいうと、自分の原動力は、ただ好きなことを好きな仲間とする。仲間との楽しみをシェアする。年齢を重ねても、中身は子供なのかもしれませんが。アクティビティを求めて、友人と共有して、感謝して、そういう経験を積み重ね、シェアすることができる。金メダルよりも多くの意味を多くの人と共有できる」とエヴァンは言う。

 司会を務めたプロテニスプレーヤー・松岡修造は「それは金メダルを持ってるから言える」と返したが、若い成田も、プロスケーターとなったオリンピアンの安藤美姫もエヴァンと同じ考えだった。

 安藤は、「自分は、このままです。嘘が嫌い、誤魔化せない。私の夢はコーチになることだった。メダルではなかった。選手として9歳から活動したが、フィギュアスケートをやっていたことでたくさんの人に出会え、感謝している。子供達に教えてあげたい、金メダル嬉しいけど、人と人のつながりの方が嬉しいよ!って」と話した。

 成田は、「取材の人は、メダル、メダルになる。それより、トップを争うときの情報共有パワーが素晴らしい。情報が他の人の心にはまった瞬間が嬉しい。だからこそ、パラリンピック、オリンピックを目指そうと思う。ゴールは、その人があした頑張ろう、と思ったところだと思います」と話した。

2020東京は、歴史を刻む大会になる

 また、エヴァンは、つぎの東京オリンピックでは、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィン、空手、(復活する)野球・ソフトボールなど多くの種目が新たに開催されること、「新種目」が行われる時に、選手にチャンスが増えオリンピックが変わることを示唆した。

 「歴史を刻むオリンピックになるでしょう。パラリンピックでもサーフィンが採用されるかもしれない。東京につながる機会をもらえて嬉しい。2020年に東京に帰ってきます!」

<参考>

・WOWOWドキュメンタリー・シリーズ「WHO I AM(=これが自分だ!という輝き)」のシーズン2

http://www.wowow.co.jp/sports/whoiam/

平昌パラリンピックを楽しむアルペンスキー・ドキュメンタリー

【SYI】WHO I AM特別版~森井大輝 チェアスキー開発の軌跡

https://www.youtube.com/watch?v=QpCgtF31bo0&feature=youtu.be

写真・矢野信夫

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表

パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。

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