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ナタリー・ポートマンの極秘離婚に見るトップ女優の威厳

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ナタリー・ポートマンとベンジャミン・ミルピエは密かに離婚していた(写真:REX/アフロ)

 大谷翔平選手が極秘に結婚していたことへの驚きがまだ薄れない中、新たなニュースが飛び込んできた。ナタリー・ポートマンが、誰にも知られないうちに離婚していたというのである。

 ポートマンが夫でフランス人ダンサー兼コレオグラファーのベンジャミン・ミルピエに離婚を申請したのは昨年7月、成立したのは先月とのこと。ミルピエが25歳の女性と短期間の不倫をしたことがマスコミに暴露されたのは、昨年6月。その後ふたりが別居したらしいとは言われていたが、ミルピエが一生懸命許してもらおうとしているとの報道もあり、まさかポートマンが離婚に向けて動いていたとは誰も思わなかった。結婚指輪を外していたとは言え、その後もふたりが子供たちを連れて一緒にいるところが何度か目撃されてもいたのだ。

 離婚を密かに進められたのには、ポートマンがフランスで離婚申請をしたことも関係しているだろう。ふたりの出会いは「ブラック・スワン」を撮影したニューヨーク(ミルピエは映画のコレオグラファーを務め、小さな役で出演もしている)、結婚式はカリフォルニア州ビッグ・サーだったが、結婚後、夫妻はパリにもロサンゼルスにも住んできた。もしロサンゼルスの裁判所に書類を提出していたら、おそらくどこかのメディアに嗅ぎつけられていたはずだ。その段階から条件で合意がなされて離婚が成立するまでずっと、ゴシップサイトを中心に情報が公に流れていったに違いない。

 フランスの事情はまるでわからないが、アメリカに住むセレブ夫妻の離婚としていうならば、子供がふたりいて、財産もあり、10年以上結婚してきたのに、離婚申請から成立までが7ヶ月というのは、かなり早い。たとえば、子供もなく、結婚期間も短く、婚前契約(pre-nup)をしていたのですんなりいくと最初から言われたブラッド・ピットとジェニファー・アニストンの離婚は、申請から成立まで9ヶ月だった。

2011年、「ブラック・スワン」でオスカーを受賞したポートマンを誇らしげに見つめるミルピエ
2011年、「ブラック・スワン」でオスカーを受賞したポートマンを誇らしげに見つめるミルピエ写真:ロイター/アフロ

 間違いなくいえるのは、ポートマン、ミルピエとも、最初から共同親権を希望していたのだろうということ。欧米においては共同親権が一般的であり、どちらかが単独を主張すると、複雑になり、長引く。財産分与に関して、結婚当時、ロマンチックな恋に陶酔していたポートマンが、自分より稼ぎの少ないミルピエに対し、婚前契約(pre-nup)への署名を求めていたかどうかは不明。だが、ここでも揉めていないということは、どちらも無謀な要求はしなかったのだろう。ちなみに、現在のポートマンの資産は9,000万ドル(およそ132億円)、ミルピエの資産は1,000万ドル(およそ14億7,000万円)と推定されている。

 カリフォルニア州では、どちらが離婚の原因を作ったかは関係なく、たとえどちらかの不倫が原因であっても“慰謝料”は発生しない。筆者は法律のエキスパートではないが、調べたところ、フランスでは、別居前に相手が不倫をしていた場合、責任があるとして金銭を要求できるようだ。しかし、それには証拠が必要だというし、複雑にしてしまう。ポートマンはスムーズに済ませるため、相手の不倫は持ち出さず、双方同意の離婚として申請したのではないか。一般的にも、フランスで相手の有責を訴える離婚は、2000年に40%を占めたが、今ではわずか4%に減っているという。

怒りを抑え、先に進むことを選んだ

 ポートマンは昔からプライバシーを守ることで有名だった。だからこそ余計に、ミルピエと婚約した時の惚気ぶりは微笑ましかったものだ。大きなお腹で「抱きたいカンケイ」の記者会見に現れた彼女が、「『ブラック・スワン』の中で彼は私となんか寝たくないと言うけれど、本当は寝たかったのよ」と言った時の幸せそうな顔は忘れられない。結婚後もふたりはお互いの仕事を支え合ってきたし、2018年の「ポップスター」では、ポートマンは主演兼エグゼクティブ・プロデューサー、ミルピエはコレオグラファーとして、一緒に仕事をしている。

 それだけに、裏切られた悲しみは、はかり知れないものがあっただろう。しかし、ポートマンは威厳を持って、怒りを抑え、争いごとに発展させなかった。子供たちのためにはもちろんそれがベストだし、公にプライベートの醜いことをさらしたくないという、セレブとしての威厳もあったのだと思われる。

 その気持ちを理解できる女性セレブは、おそらくほかにもいる。たとえば、サンドラ・ブロック。2010年、「しあわせの隠れ場所」でオスカー主演女優賞を受賞した時、ブロックはジェシー・ジェームズと結婚していた。だが、あまりにも意地悪なことに、その直後のタイミングを狙って、タブロイド紙がジェームズの複数の不倫を暴露したのだ。

サンドラ・ブロックとジェシー・ジェームズ。彼は密かに不倫をしていた
サンドラ・ブロックとジェシー・ジェームズ。彼は密かに不倫をしていた写真:ロイター/アフロ

 ジェームズは謝罪をしたが、ブロックは翌月、離婚を申請。そのわずか3ヶ月後には、離婚が成立した。不倫発覚の前に夫妻が始めていた養子縁組の手続きは、そのままブロックがシングルマザーとして進めている。

 オスカー女優として世界中から注目されたのもつかのま、不倫された妻としてゴシップに取り上げられることになってしまった彼女の悔しさ、辛さは、想像もつかない。しかし、彼女は表にその感情を見せることなく、毅然として、冷静にやるべきことをやり、前を向いて進むことを選んだのである。ジェームズについて、彼女はその後、一切話していない。

結婚にも離婚にもいろんな形がある

 ジェニファー・ガーナーもいる。ガーナーの元夫ベン・アフレックは、結婚している時に、子供たちのナニー(子育ての手伝いをする女性)と不倫をした。しかし、後にガーナーは、「ナニーとの不倫の噂を聞く前から、私たちは別居をしていた。もちろん彼がやったことは間違っている。子供たちからナニーを奪うことになったのだから。でも、彼女がいなかったとしても、私たちは離婚をしていたでしょう」と、冷静に語っている。

2014年、オスカーのアフターパーティに出席したベン・アフレック&ジェニファー・ガーナー夫妻
2014年、オスカーのアフターパーティに出席したベン・アフレック&ジェニファー・ガーナー夫妻写真:ロイター/アフロ

 ガーナーがアフレックと結婚したのは、彼が10年にわたるキャリアの氷河期にある時。彼はアルコール依存症にも悩まされたが、その部分でも彼女は懸命に支えた。そして彼は、監督としても、俳優としても、ハリウッドの大物に見事復帰したのである。ふたりは結婚10周年記念を迎えた折りに、破局を発表。その2年後に一緒に離婚、共同親権を申請した。アフレックがガーナーと結婚する前につきあっていたジェニファー・ロペスと復縁し、結婚した今も、ガーナーは元夫と協力しながら子育てをしている。

 威厳を持つ彼女らは、人生の躓きを乗り越え、その後、女優としても、女性としても、母としても、すばらしい成長を遂げてきた。もちろん、みんなが彼女らのようにするべきだというわけではない。財産分与に関しても、ほかのことに関しても、闘いたいなら闘っても良い。結婚にも、離婚にも、いろんな形、選択がある。とりあえず今は、ポートマンのこれからの人生を応援したい。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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