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マイケル・ムーアが語る、トランプ支持者をこちらになびかせる方法

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
コーデンのトーク番組にヴァーチャル出演したマイケル・ムーア(YouTube )

 2016年の大統領選挙で早くからトランプの勝利を予測していたマイケル・ムーアは、現地時間今月6日の議会乱入事件の後、バイデンの就任式に向けて“国内テロ”がまだ起こると述べては、人々に警告を与えている。そんな中で、彼は今週、「The Late Late Show with James Corden」にヴァーチャル出演し、珍しく希望を感じさせることを語った。トランプが大統領になって以来、2分割されてきたアメリカは、バイデン政権のもとで歩み寄れるはずだと述べたのである。

「(今回の選挙でも)7,400万もの人がまだトランプに入れたじゃないかと、人は言う。だけど、その昔には、喫煙者が7,400万人もいたんだよ。そのうち減ってきて、今はちょっとしかいない。そんなの絶対無理だと思えることが、起こりえるんだ」と言うムーアは、もうひとつの良い例として、同性愛者に対する態度の変化を挙げる。

「この国はかつて、同性愛者を差別していた。でも、それは消えた。人が真実を語り始めたおかげだ。主には、同性愛者たちが友達や親戚にカミングアウトしたおかげ。『えっ、そうなの?でも、あなたは僕の叔母さん。僕はあなたが好き』『お前は俺の息子だ』となったのさ。愛は勝つんだ。大抵の場合、愛は勝つんだよ」。

 だから、バイデンと、バイデンに投票した人たちは、トランプに入れた人たちに愛を与えないといけないのだと、ムーアは言う。

「僕らは、あの人たちに、約束したものを与えないといけない。そうしたら、あの人たちは、『えっ、自分も健康保険をもらえるの?高い医療費を払わなくていいの?医者に行ったからって自己破産しなくて済むの?』『そうだよ。ジョー・バイデンと民主党がそうしてくれたんだ』ってなる。『僕の仕事は最低賃金だけど、それが2倍になるの?』『僕の妻は同僚の男性より時給が低かったのに、民主党が男女の賃金を平等に決めたから、一緒になるのか?』とね。その人たちが民主党支持に回ったり、自分をリベラルと呼ぶようになったりはしないにしても、こういったことが何度も起これば、かなりの数の人が、僕ら(民主党とその支持者)はみんなのために動くんだとわかってくれるはず。共和党は、金持ちのための減税とか、全体のごく少数の人にしかメリットを与えない。でも、僕らは、あなたの子供が無料で大学に行けるようにする。関わらなくていい戦争には関わらないようにする。あなたのお子さんを送り込んで死なせるようなことはしない。僕らは自分たちだけが得しようとは思わない。僕らはみんなのために行動するんだ」。

 それを聞いて、コーデンが、「でも、バイデンにはそれができますかね?そうしたいと思っているでしょうけど、やれるだけの能力があるでしょうか?」と尋ねると、バーニー・サンダース支持者であるムーアは、今は、自分も、サンダースも、バイデンにはできると信じていると答えた。

「去年の今頃、バーニーのキャンペーンに関わっていた時の僕は、バイデンにはできないと思っていた。でも、今のジョー・バイデンはその頃と違うと、僕も、バーニーも思っている。彼が閣僚をどう選んだのかからも、彼が毎日語ることからも、それが見て取れる。彼はすごく頑張るはずだよ。バイデンは一期しかやらないとも言っている。自分は78歳だとわかっているから。彼は、人生の終わりに、パワフルな、ルーズベルトみたいなレガシーを築きたいんだ」。それはつまり、一部ではなく、みんなに気を配る政府を作ることだ。「バイデンは、みんなが恩恵を受けられる、良い国にしたいんだ。みんなが参加する国。それこそ、アメリカだ」とムーアが熱をもって語ると、会場にいる観客からは、大きな拍手が湧いた。

トランプをツイッターから追い出したことのマイナス面

 一方で、ムーアは、就任式前後にまたもや何かが起こるという警戒を緩めてはいない。その意味で、トランプがツイッターから追放されたのは、やや複雑でもあるようだ。

「(トランプがツイートできないのは)多くの人にとって安心をくれた。これまで毎朝、起きては彼のツイートに直面していたのに、今や静かで平和だ。だけど、危険でもあるんだよ。彼がツイッターを使っていた時は、何を考えているのかがわかった。手の内を見せるから。でも、今は彼が何をしているのかわからない。何を考えているのかも。今になって、これはやばい、1時間だけでも彼にツイッターを使わせたらどうかと思うよ。就任式に何をやろうとしているのか、僕らが手がかりを得られるために」。

 トランプ政権を誕生させてしまったアメリカの混沌ぶりを描くドキュメンタリー映画「華氏119」を公開するなど、トランプをずっと堂々と批判してきたムーアは、当然のことながら、トランプに嫌われている。ツイッターで名指しされることも、少なくとも10回以上はあった。しかし、トランプがツイッターから追い出された今は、それもない。それについても、ムーアは、ユーモアをもって、こんなふうに語った。

「僕は、トランプにあだ名を付けられた、数少ない人のひとりなんだよ。トランプは、バイデンのことを、スリーピー・ジョー(眠たそうなジョー)と呼ぶよね。僕のことは、スロッピー・マイク(ずさんなマイク)と呼んだ。それを初めて聞いた時は、珍しく本当のことを言うじゃないかと思ったよ」。

 もちろん、ムーアは決してずさんではない。自分のポッドキャスト「Rumble with Michael Moore」には3日に1度のペースで新しいものを投稿しているし、テレビ番組にもしょっちゅう出演しては、アメリカの人々にメッセージを送り続けているのだ。就任式まであと4日、ムーアにはあいかわらず忙しい日々が続く。本人も言うとおり、予測の得意なムーアが送り続ける暗い予感が今度こそはずれるよう祈るばかりである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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