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いよいよ始まった晴海フラッグ・選手村マンションの転売。儲けは5000万円以上?

櫻井幸雄住宅評論家
建設中から話題になり続けている「晴海フラッグ」。早くも中古で売り物件が。(写真:イメージマート)

 東京都中央区の「晴海フラッグ」で、旧・東京五輪選手村をリノベーションした分譲マンション(以下、選手村マンション)の引き渡しが1月から始まり、早くも「中古マンション」として売り物が出ている。

 中古物件を多く紹介するインターネットサイトで調べたところ、3月2日時点で売り出されている東京都中央区の中古マンションは885戸あり、そのうち晴海フラッグの選手村マンションと認められるものが90戸以上あった。が、その中には情報が重複しているのではないかと思われるものがあり、精査すると88戸の売り出しが確認できた。

 88戸のうち、最も安い住戸は約61平米の2LDK+Sで8280万円。最高額は約116平米の最上階3LDKで2億7800万円。80平米を超えると軒並み1億円以上の価格となり、88戸の8割以上が1億円を超えていた。

 都心マンションが高額化している今、それが安いのか、高いのかわからない、という人もいるだろう。

 参考までに記すと、2019年8月、選手村マンションの第1期600戸が販売されたときの分譲価格は60平米台の2LDK〜150平米台の4LDKが5400万円から2億3000万円だった。

 第1期住戸と現在中古で売り出されている住戸は一致しないため、単純な比較はできないのだが、かなり高くなっていることは間違いない。

 たとえば、第1期において5000万円台で販売された60平米台の住戸が、今は8000万円台に。第1期のときには90平米近い4LDKが7000万円前後の価格で販売されたのに、現在中古として売られている90平米前後住戸は1億3000万円程度のものが多い。

 つまり、3000万円は高くなり、なかには5000万円以上高くなっている住戸もあると考えられる。

 果たして、この価格水準で買い手がつき、転売した人は大儲けすることになるのだろうか。考察してみたい。

1月から入居開始とともに、売り物件も出始めた

 最初に、「晴海フラッグ」について説明したい。

 晴海フラッグ(正確にはHARUMI FLAGと表記)は、東京都中央区晴海で行われている大規模な街づくり事業。そのなかに、東京五輪の選手村として使われた建物があり、五輪終了後に内部を大幅につくり替えられ、賃貸住宅と分譲住宅になった。それが選手村マンションで、分譲されたのは計4145戸だった。

 これとは別に、晴海フラッグ内には東京五輪後に建設が始まった2棟の超高層マンションがある。そちらは現在も分譲中で、建物はまだできあがっていない。

 建物ができあがり、1月から入居が始まったのは、選手村マンションの分譲棟だ。選手村マンションの分譲住戸4145戸は価格が割安と判定され、大人気で完売した。

 大人気になった理由は、割安であることに加え、転売禁止・賃貸禁止という条件がつかなかったこと。つまり、引き渡し後すぐに高く転売できること、高く貸せることが魅力となり、投資目的で購入する人が多くなった。

 転売目的の購入者が多ければ、入居と同時に売り物件が出るだろう。そう考えられていたのだが、実際には入居と同時どころか、入居の1年近く前、昨年の5月頃に、売り物が出てしまう事態が生じた。これは一種のフライングである。お行儀がわるいとの批判も出て、フライングはすぐになくなった。

 その選手村マンション分譲棟は「2024年春入居」とされていたが、工事が早く完了したことで今年1月から引き渡しを開始。そうなると、中古として売り出すことを止めることはできず、早速売り物が出ているわけだ。

中古として販売されたのは、まだ2パーセント程度

 前述したとおり、3月2日時点で88戸の売り住戸が確認できた。この88戸は、分譲された4000戸余りの住戸のなかで、ごくわずか。2パーセント程度に留まる。これくらいの比率であれば、「購入者は転売目的の人ばかり」とはいえない。

 もちろん、今はまだ様子見をしている人が多く、高く売れることが判明すれば、売り物が一気に増える可能性はある。

 この「様子見」が、今の状況をよく表している。

 晴海フラッグ・選手村マンションの分譲棟で儲けるためには、中古の売り出し価格を買ったときより高くしなければならない。そのため、3000万円から5000万円高くしているのが、今の中古売り出し価格となる。

 問題は、その値段で買う人がいるかどうか……当然ながら、というか、残念ながらというべきか、成約したという話はまだ聞こえてこない。理由は、売る側も買う側も、様子をうかがっているからだろう。

 今はまだ、中古でこれくらいが妥当という「相場」ができていない。

 そうなると、売る側は「うっかり安く売って、損をするのは嫌だ」と思い、高めの価格設定をする。「高すぎて売れなければ、下げればよい」からだ。

 一方、買う側は、「うっかり高く買って、損をするのは嫌だ」と思うから、簡単には手を出さない。それで、にらみ合いのような状況が生じていると考えられる。この後、相場ができあがれば、どれくらい儲かったのか(儲けが出ないことはないだろう)がはっきりする。それまで、もう少し時間が必要だろう。

 しかしながら、今の時点でひとつはっきりしていることがある。

 それは、「中古市場でバズる物件にはなっていない」という事実だ。

平成バブルのときは、中古価格が10倍に

 中古マンションは、ときにとんでもなく値上がりすることがある。

 たとえば、1990年代の平成バブルのとき、都心の中古マンションは軒並み爆上がりした。その象徴となった東京都渋谷区の「広尾ガーデンヒルズ」は、新築時5000万円台から7000万円台の住戸が多かったのだが、倍の値段で売り出したら、あっという間に売れた。中古で買った人は、さらに倍の値段で売り、次の人はさらに倍……内覧もせずに購入する人が続き、最終的に10倍の5億円から7億円まで価格が上がった。だから、「バブル」といわれたのである。

 晴海フラッグの選手村マンション分譲棟の中古では、そのように「高くても即買いが入る」状況にはなっていない。理由としては、現在、東京都中央区では複数の超高層マンションが新規分譲されており、1億円台で購入できる住戸が多くみつかることも大きいだろう。

 選手村マンションの中古以外にも選択肢が多いので、慌てて飛びつく人がいない。つまり、様子見状態が生じているわけだ。となれば、投資目的で選手村マンションを買った人が次に考えるのは中古で売るのではなく、賃貸に出して、家賃を稼ぐこと。しかし、その道も決して平坦ではなさそうだ。

 その理由は少々専門的になるので、有料記事で書かせていただきたい。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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