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アンジャッシュ・渡部建の復帰番組はどれくらい視聴されたのか

境治コピーライター/メディアコンサルタント
「いらすとや」の素材を筆者が構成

渡部建、千葉テレビ「白黒アンジャッシュ」に復帰

2月15日22時「白黒アンジャッシュ」に渡部建が1年8ヶ月ぶりに出演。アンジャッシュ二人揃っての出演が話題を呼んだ。番組内容は30分間、渡部の謝罪に終始したという。

放送した局は千葉テレビ。千葉県のみで放送される独立局だ。

独立局について説明すると、東京のキー局は広域放送局と呼ばれ、東京都だけでなく関東一円を放送エリアに持つ。すると各都県には独自のテレビ局がない状態になる。そこでそれぞれの都県のみを放送エリアとするテレビ局が設立された。これを独立局と呼び、関東ではなぜか茨城県にはないのだが、それ以外にはMXテレビ、テレビ神奈川、テレビ埼玉、群馬テレビ、とちぎテレビ、そして千葉テレビがある。中京広域圏、関西広域圏でも、各府県で独自のテレビ局が放送している。

これら独立局はキー局よりずっと事業規模が小さい。それは仕方ないにしても、他のローカル局と比べても存在感が薄い。キー局とネットワークを組んでない(だから独立局と呼ぶ)ため、著名な番組が放送されない。基本的には独自の予算で県内の情報をベースに番組を作るので、著名タレントを出演させるのも難しい。

一般的なローカル局はキー局のように事業規模は大きくないにしても、それぞれのエリアでは確固たる地位を築き番組のキャスターは有名人だ。それに比べると独立局は影が薄い。

ただ、中には独立局による人気番組もある。兵庫県をエリアとするサンテレビはプロ野球阪神戦をノーカット生中継する局として関西では知られる存在だ。また複数の独立局が製作委員会を組織して制作するユニークな番組も多い。

千葉テレビも「ハロー・ジャガー」が人気となり、出演者のジャガー氏は日本テレビ「月曜から夜ふかし」で全国区の人気者になった。

そして「白黒アンジャッシュ」も千葉テレビの人気番組だ。2004年、まだ若手芸人だった彼ら初の冠番組としてスタートし、その後人気芸人として羽ばたく礎となった。渡部建のスキャンダル発覚後も、児嶋一哉がゲストを迎える形で続いてきた。

渡部建のスキャンダルが強烈すぎてキー局の番組での復帰はまだまだ難しい中、再スタートの場としてはこの番組しかなかったと言っていいだろう。

復帰回はどれくらい視聴されたか、データで見る

ではこの復帰した回はどれくらい視聴されたのだろう。千葉テレビはビデオリサーチの視聴率調査の対象外だ。そこで調査会社インテージからデータを提供してもらった。同社では全国のスマートテレビ端末の視聴データを収集し計測するMediaGaugeTVを持っている。そこからわかることをグラフ化してもらった。

前もって言っておくと、独立局の番組の視聴率は一般のテレビ局の番組とは比べ物にならないほど低い。1%を超えることさえ稀で、0.X%が当たり前である前提で見てもらいたい。

またインテージMediaGaugeTVのデータは視聴率とはまったく違う調査で「接触率」と呼ばれ、一般的にビデオリサーチの世帯視聴率より低く出る傾向であることも頭に入れて見てほしい。

ではこのグラフを見てもらおう。

MediaGaugeTVの接触率データをグラフ化:インテージ社提供
MediaGaugeTVの接触率データをグラフ化:インテージ社提供

22時の放送開始に向けて、10分前あたりから視聴者が集まってきている。番組が始まるとグラフが急上昇し、後半でピークを迎えた。22時30分の「白黒アンジャッシュ」終了後も余波が続いている。

独立局としてはこのようなグラフは異例と言っていいだろう。やはり復帰の情報を得て、たくさんの視聴者が番組を見にきたのだ。

もっとも高いところでは1.6%を超えている。だがこの数字をどう評価すればいいだろう。

これまで何度もMediaGaugeTVのデータを見てきた筆者の経験では、ビデオリサーチの世帯視聴率のおよそ半分の数字が出る傾向だった。そうすると、この数字の2倍程度の世帯視聴率と換算していいかもしれない。(ただしあくまで推論である点には注意してほしい)

仮にそうだとすると3%程度の世帯視聴率となり、最近のこの時間帯の水準で言うとなかなかの結果だと言えそうだ。

もうひとつ、インテージ社が提供してくれたデータをお見せしよう。

15日の「白黒アンジャッシュ」に5分以上接触した端末で、前週、前々週にどの局が視聴されていたかのデータだ。

MediaGaugeTVの接触率データ:インテージ社提供
MediaGaugeTVの接触率データ:インテージ社提供

前々週、前週はテレビ朝日やフジテレビ、日本テレビを見ていた人が、15日には「白黒アンジャッシュ」を見た様子がわかるだろう。実は筆者は、ふだんさほどテレビを見ていない層が、ネットニュースを見てこの日はテレビをつけた、と予測していたのだが、逆のようだ。むしろ、ふだんから民放を見ているテレビ好きの人たちが、渡部が復帰するならと「白黒アンジャッシュ」を見にきた。また、児嶋一哉のみのこの番組を見ていた人もそれなりにいた。(あくまで「15日に5分以上この番組を視聴した端末」が母数なので、表の数字がそのまま全体の視聴率ではないことに留意されたい。)

翌週以降も続くかがポイント

さて渡部建の復帰については賛否両論含めて大きな話題になった。早過ぎとの声もあるようだが、彼らが育った番組だからこそ許容できるとの声も見かけた。千葉テレビの上の数字には、歓迎の気持ちを感じてしまう。もちろん、野次馬根性で見た人も多いかもしれないが、それも含めてこのケースには独立局だからこそ程よい受け皿となったと言えるだろう。

千葉テレビ関係者は反響についてこう語る。

「スポーツ紙等各方面で広く取り上げられたため、いつもより多くの方に見られたのでは、と思います。放送に合わせ番組や放送局名、提供スポンサー社名など広く知って頂いたと思いますが、SNSやネット上でも様々な反応がありました」

大きな反響に手応えを感じつつも、賛否両論の否もあったため諸手を挙げて喜びにくいようだ。ただ古巣に帰ってきてくれたことを、歓迎したい心情もあるに違いない。

渡部建がしでかしたことはあまりにも愚かなのは間違いないが、過ちを犯した人が反省を表明しているなら、それをいつまでも許さない社会ではおかしいとも思う。千葉テレビでのアンジャッシュをしばらく見守ってあげていいのではないだろうか。

ちなみに筆者は千葉県民ではないが、ケーブルテレビを通じて千葉テレビが視聴できる。実はそのことを、今回の件で調べて知った。次回以降、「白黒アンジャッシュ」を見ていこうと思う。視聴データも今後、もし何か見るべきことがあったら記事にして報告したい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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