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「鬼滅の刃」は「M-1グランプリ」とどう戦ったか〜テレビ視聴の地域差〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
インテージ社提供 赤が濃いほど「M1グランプリ」優位 白は「鬼滅の刃」優位

「鬼滅」が「M-1」に勝ったエリアもある

12月20日夜はテレビ朝日系列で「M-1グランプリ」が放送された。一方フジテレビ系列では映画が興収記録を塗り替えた「鬼滅の刃」の<柱合会議・蝶屋敷編>が放送され、視聴率がどうなるか注目された。「鬼滅の刃」が王者「M-1グランプリ」に勝利はしないまでも一矢報いるかが期待されたのだ。

報道された視聴率は「M-1グランプリ」が関東で19.8%、関西では29.6%だった一方、「鬼滅の刃」は関東14.4%、関西11.1%だった。王者が余裕を見せつけ、挑戦者も善戦したといったところだろう。

だがさらに地域別で見るとどうだったのか。調査会社インテージではテレビ受像機の視聴データを収集し(235万台のスマートテレビと86万台の録画機)提供している。日本中のデータで県別や市町村別の視聴状況を見ることもできる。

インテージ社に提供してもらったマップが上の図。県別に「M-1グランプリ」と「鬼滅の刃」どちらが多く見られたかを示したものだ。赤みが濃い県ほど「M-1グランプリ」優位、「鬼滅の刃」優位の県は白で表示している。グレーはどちらかの放送がなく比べられない県だ。

このマップを見ると「M-1」の圧勝に変わりはないが、県ごとにずいぶん”熱さ”が違うのがわかる。大阪府を中心に関西が「M-1」に熱くなっていることがまず目に入る。だが他の県は関西ほど濃くはない。東京都と福岡県が関西の次に赤いが、その他の県は薄い赤だ。

そして驚くのは白い県、つまり「鬼滅の刃」が優位だった県がけっこうあることだ。宮城県、福島県、そして茨城・栃木・群馬の北関東3県に長野県が加わる。視聴率についての報道を見るとひたすら「M-1」が圧勝だったように思えてしまうが、「鬼滅の刃」が善戦どころか勝った県もあるのだ。(ただし、報道されているのはビデオリサーチ社のデータで、インテージ社とは調査対象がまったく違うので、ビデオリサーチ社の県別データが同じ結果とは限らないことに留意して欲しい)

エリアごとにまったく違う見られ方

インテージ社にエリア別の分刻みデータをグラフ化してもらった。ビデオリサーチ社のものとはまったく違うので数値は外しておく。まず関西のグラフを見てみよう。

データ及びグラフ提供:インテージ社
データ及びグラフ提供:インテージ社

説明するまでもないが青い線が「M-1グランプリ」を放送した朝日放送。黄色い線が「鬼滅の刃」の関西テレビだが、勝負にもなっていない感がある。マップの赤さどおり、関西は「M-1」一色で盛り上がったのがわかる。

これが関東地区ではこうなる。

データ及びグラフ提供:インテージ社
データ及びグラフ提供:インテージ社

報道された視聴率も10%ほど低かったが、関西に比べるとテレビ朝日つまり「M-1」の山が低い。18時台後半から盛り上がり始めているものの19時まではフジテレビと競っている。関西では「M-1」が始まった途端それ以外見る気がなさそうだったのに対し、関東では少し見極めようとしているように見える。「M-1」は最初の40分間ほど過去を紐解いたり敗者復活戦の様子を伝えたりする”イントロダクション”として構成されているが、筆者はあまりに始まらないので苛立ってチャンネルをあちこち回した。関西の人には楽しめるイントロダクション部分も、関東ではさほど楽しまれていないと言えるのではないか。

「鬼滅の刃」のスタートは18:59だったのだが、フジテレビのグラフが徐々に上がっているのも面白い。今か今かとチャンネルを合わせて待っていたのかもしれない。だが19時以降は「M-1」が抜き去った。関西ほどではないにしても、関東も「M-1」で盛り上がったのがわかる。一方、はっきり「鬼滅の刃」を優先させた視聴者も多かった。

さて最初のマップで白かった県のひとつ、福島県もグラフを見てみよう。

データ及びグラフ提供:インテージ社
データ及びグラフ提供:インテージ社

グレーの線が「鬼滅の刃」の福島テレビ、青い線が「M-1」の福島放送。マップで白かったので当然だが、「鬼滅の刃」放送直前の18時台後半から21時10分あたりまで「鬼滅の刃」がはっきり「M-1」に勝利している。その直後すぐに「M-1」が上がっているので、決勝戦だけは「鬼滅」からちゃっかりシフトした人もけっこういたのだろう。

それにしても、なぜ福島はじめ6つの県で「鬼滅の刃」が「M-1」に勝ったのか。筆者もいちおうアニメを全話見たし映画も見たのだが、わからない。「鬼滅ファン」のみなさんで理由がわかる方がいたら教えてください。

テレビ視聴は多様な見られ方をする時代

こうしてエリアごとに比べてみると、テレビ番組がいかに地域によって違う見られ方をしているかがよくわかる。誰もが「今年のM-1は誰がグランプリを取るだろう」などと気にしているわけでもないのだ。報道されたのは世帯視聴率だが、いまはどの局も個人視聴率を指標にしている。伝えられた視聴率だけを見て良いの悪いのと言っても実は仕方ないのだ。テレビ視聴は地域だけでなく世代や家族形態により多様化している。いくつかのモノサシで判断する時代になっていることを、みなさんにも知っておいてもらいたい。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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