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2020年のテレビは、コロナと第七世代だった

境治コピーライター/メディアコンサルタント
データ提供:エム・データ社

テレビ報道はコロナだらけだった2020年

今年は特異な年だった。世の中の鏡である地上波テレビが何を放送してきたかを見ればそれがよくわかる。もちろん2020年のテレビはずば抜けてコロナについて伝えていた。

テレビ放送の内容をテキストデータ化するエム・データ社は、放送内容を分析していくつかの軸で定期的に発表している。先週から今週にかけて発表された2020年(1月〜11月)のデータから、注目すべき点を解説したい。

まずニュースの分析だ。これは毎朝10時までの関東の地上波局のニュース及びワイドショー番組の中でどの題材を何時間放送したかを集計したもので、結果は上の表のようになった。

「新型コロナウイルス感染拡大」が、1716時間44分34秒でダントツ1位だったのは、当たり前の結果だろう。5月の記事「テレビ報道時間で振り返る新型コロナ禍」でも途中経過をレポートしたが、その後もテレビはコロナを伝え続けた。米国大統領選や国内の首相交代、気象被害の話題などその時々でのトピックもあったが、2020年はコロナに振り回され続けたことがこの異常な放送時間の多さからあらためてよくわかる。

データ提供:エム・データ社
データ提供:エム・データ社

エム・データ社は分野別でもニュースの放送時間を発表しているが、スポーツでも10位までのうち4つまでがコロナ関係。いかにコロナが各界に大きな影響をもたらしたかがよくわかる。8位の項目を見て、野村克也氏が亡くなったのも今年だったか、とあらためて気付いたりもした。コロナの影響が強すぎて忘れてしまう。

データ提供:エム・データ社
データ提供:エム・データ社

続いて芸能分野のランキングも見てもらおう。こちらでも10位までのうち2つがコロナで亡くなったビッグネームの話題だった。あらためて思い出すと目頭が熱くなる。藤井聡太の快挙や「鬼滅の刃」のメガヒットの話題もありつつもタレントの不祥事のニュースが続くのも悲しい。この集計は11月30日までなので、先日の渡部建の会見が対象外であることは書き添えておきたい。

出演ランキングから見えてくる「第七世代」の躍進

エム・データ社は役者やタレントなどの出演回数もデータ化し、集計している。まず総合ランキングを見てもらおう。

データ提供:エム・データ社
データ提供:エム・データ社

総合ランキングを見ると、ここ数年の常連たちが並んでおり一見代わり映えしない。帯番組を持っているタレントやキャスターが自然と上位を占めた。帯番組はそうそう改編がないので常連化するのだ。女性トップに二階堂ふみが、男性4位に窪田正孝が入ったのはもちろん、NHK朝ドラ「エール」主演だったから。今年はコロナで途中から再放送になったこともあり、回数も大きな数字になっている。

目に付くのが、女性7位の岡田晴恵氏と男性6位の二木芳人氏だ。ご存知の通り感染症の専門家としてワイドショーに今年になって出演するようになった二人。岡田晴恵氏が毎日のようにテレビ朝日「モーニングショー」に出ていたので印象が強いが、二木芳人氏のほうが回数では多い。二木氏はいくつかの局に呼ばれていたので岡田氏ほど目立たなかったのだろう。陰に隠れる形でコロナコメンテーターの中では回数トップだった。

女性10位の宮崎歩夢はテレビ東京「シナぷしゅ」にレギュラー出演する子役タレントで、この番組が今年スタートしたため0回から351回に躍り出た。

8位のフワちゃんは説明する必要がないだろう。テレビでもっとも見るようになったYouTuber。フワちゃんの存在は、エム・データの「急上昇ランキング」を見ると、ある傾向の中で語ることができる。

データ提供:エム・データ社
データ提供:エム・データ社

データ提供:エム・データ社
データ提供:エム・データ社

上の女性版の急上昇ランキングを見ると、お笑いグループ「3時のヒロイン」の三人が仲良くランクインしている。フワちゃんをそこに入れるのは異論があるかもしれないが、「お笑い第七世代」の一翼を担う芸人だ。

男性版を見るとさらに顕著だ。5位と6位に「ぺこぱ」がいる上に、11位〜20位までに「四千頭身」「EXIT」「ティモンディ」「ハナコ」らがランクインしている。彼らも「第七世代」に分類される。実際、少し前までは主に深夜帯で見ていた彼らを、秋以降はゴールデンタイムで見ない日はないと言っていい。

それはもちろん「第七世代」が面白く才能があるからだが、それだけではなさそうだ。

テレビの指標が今年、全国的に変わった。これまで世帯視聴率が最重要だったのが、個人視聴率にとって変わった。さらに、各局がそれぞれ「コア」などの呼び方で重視する世代を区切って、59歳以下、49歳以下など若い世代をはっきり狙い始めている。

高齢化が進んだ日本では世帯視聴率だと比重の高い高齢世帯を意識せざるを得なかった。それが今年モノサシが変わって若い人に見てもらわねばならなくなった。「第七世代」の躍進は、こうしたテレビ局側の事情の変化も大きいと筆者は見ている。

2020年、コロナに振り回されつつもテレビは向くべき相手を変え始めている。業績的には広告市場全体の落ち込みに企業の広告費のデジタルシフトも加わってガタガタだ。さらに視聴者は配信サービスにどんどん時間を費やすようになっている。第七世代の起用で新たな視聴者を獲得できるのか、コロナ解決後も立ち直れずに終わるのか。

テレビ局は今、正念場を迎えている。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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