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北海道ローカルのドラマでも、その面白さを海外に配信できる〜「チャンネルはそのまま!」製作裏話〜

境治コピーライター/メディアコンサルタント
画像提供:北海道テレビ

HTBの50周年記念にモデルとなった漫画を実写化

北海道テレビ(以下、HTB)が製作したドラマ「チャンネルはそのまま!」が3月18日(月)から北海道で5夜連続で放送され、22日の今夜最終回を迎える。そのエグゼクティブプロデューサーでHTB取締役 編成局長の福屋渉氏にこのドラマの製作についてお話を聞いた。原作となった佐々木倫子氏のマンガ「チャンネルはそのまま!」は、そもそもHTBに取材し、HTBをモデルに描かれている。HTBがドラマ化するのは当然に思えるが、そう単純ではなかったようだ。

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「2018年に開局50周年を迎えるにあたり、記念企画を社内で募集したところ400件ほど集まりました。開局の年に生まれて50歳になる6人のメンバーで絞ったのがこのマンガのドラマ化でした。ちょうど新社屋を建てて引越す計画だったので、引越しが済んだ後の旧社屋で思い切り撮影ができる。50年間の想いが詰まったローカル局のオンボロ社屋を映像として残す意義も感じて企画にGOを出しました」

ローカル局の社屋でそのまま撮影をするからこそこのドラマにはリアリティがにじみ出ている。言われてみると確かに、仕事をしながら撮れる映像ではない。引越しのタイミングだからこそ作れたドラマだ。

北海道を舞台にした物語を描き続ける佐々木倫子氏も、きっとHTBにこそ作って欲しかったに違いない。50周年のこの機会でなければ実現できないドラマ化だったのだ。

「取材された人間が社内には多数います。あのキャップはあいつ、あの部長はそいつといった感じで。山根も実際にああいう男がいるんです。ドラマ化は社内でも待望でした」自分がモデルになった人物が映像化されるなんてこれ以上の記念はないだろう。情報部長・小倉役に至っては、モデルになった本人・藤村忠寿氏が演じているのが笑える。

「藤村は最初から自分がやると言っていて私は反対しました。”もともと俺なんだから俺がやるんだ”と変な理屈を言い張って。監督陣が”いいと思います”と言うので最後は折れました。結果的に、いいとこ持っていきましたね(笑)」

本広克行氏を総監督に招くことにしたのも早い段階だったようだ。

「本広さんにお願いした最大の理由は、ウチを舞台にした話をウチのスタッフだけで演出すると手前味噌になる懸念があったからです。客観的な視点でエンタテイメントに仕上げてもらえました。10年ほど前から藤村や嬉野(雅道氏・第5話にキャスターとして出演している)と交流がありましたが、一緒に仕事をしたのは今回が初めてでした」

局舎を自由に使える利点を、本広氏の技術力をフルに生かして映像化できたことは、ドラマのそこここに出ていると思う。

HTBと関わりの深い出演者たち

このドラマではHTBにゆかりのある役者たちが50周年を祝うように出演している。大泉洋が重要な役どころなのも視聴者としては当然に思えるのだが。

画像提供:北海道テレビ
画像提供:北海道テレビ

「実は当初、TEAM NACSの面々はライバル局ひぐまテレビに全員出そうと考えていました。蒲原役が重みを増していった段階で、この役を大泉さんにとなり、彼の役として当て書きして仕上げたのです」

このドラマは基本的にマンガのエピソードをうまく再構築して5話を構成しているが、すべてそうはいかなかった。

「例えばマンガに出てくる”猿を助ける場面”はドラマでもやりたかったのですが、今は危険なレポートはできないので諦めました。逆にマンガが描かれた後、我々が体験したことをドラマに織り込んでいく中で、原作にはない蒲原というキャラクターが生まれた。これは大泉さんにぜひやってもらいたいと、出演をお願いしました」

画像提供:北海道テレビ
画像提供:北海道テレビ

キャスティングで言うと、ヨーロッパ企画の面々がそこいら中に”配属”されている。特に技術部のユニークな人物たちの面白さが第3話で楽しめた。京都の劇団なのに北海道のテレビ局と縁が深いのだろうか?

「40周年にドラマ『歓喜の歌』を作った時、永野宗典さんに出てもらい、その後コント集も作ったりしました。彼らには大事な役をやってもらいたくて、2年前にこのドラマの企画が決まった時から体をあけてほしいとお願いしていたんです」

さらに第5話で東京03が出演し、彼らのコントを見ているようなシーンがある。

「『ミエルヒ』というドラマに出てもらった東京03にも、重要な役をお願いしたかったのですが何しろ忙しい方たち。3人揃って出てもらえる設定ということで、カメラマンになってもらったのです」

第5話の、最高に笑ってなぜか泣ける不思議な場面に出てくるので注目してもらいたい。

雪丸花子を芳根京子に決めたのはどんな議論があったのだろう?

「雪丸花子は、芳根京子さんじゃなきゃダメだと思いました。”バカ採用枠”を受けてもらえるものかと思いましたが、ご自身も事務所も一つ一つ新しい役どころに挑戦する意志をお持ちで、引き受けてもらえました」

画像提供:北海道テレビ
画像提供:北海道テレビ

山根一や同期たちもフレッシュなキャスティングだった。

「山根役の飯島寛騎君はオーディションで本広さんが一発で”この子だ!絶対来る!”と決めました。存在感や雰囲気が断然いいと。営業部・服部役の島太星君と、技術部・橘役の滝原光君は札幌のアイドルグループにいて、オフィスキューが育てている子たちです。編成部・北上役がいちばん苦労しました。モデルになったウチの社員も本当にデカくて老けている。そんな役者いないと思っていたら長田拓郎君に出会った。彼は柔道のチャンピオンでまさにぴったりでした。新人アナウンサー・花枝まき役の宮下かな子さんは本広さんが連れてきた子で、グラビアガールなんですよ」宮下かな子は、原作が連載されていた週刊ビッグコミックスピリッツ3月11日発売の号で、水着で表紙を飾っている。アナウンサー役とのギャップが面白い。

ローカル局の使命は何か、ローカル局に何ができるか

「チャンネルはそのまま!」で描かれるのは、テレビの、そしてローカル局の存在意義。緊急に放送内容を変えるかどうかの緊迫感の中、ドラマのメッセージが強烈に伝わってくる第5話は、原作にないオリジナルなストーリーだ。キー局から来た編成局長と現場の局員たちとの対立も描かれる。

「ウチにはキー局から来た人がいるわけではありません。でもローカル局には銀行などいろんなところから上層部に人が来る。そこにはいろんな葛藤があるはずです。テレビ局だけの話ではなく、日本の企業の話として描いたつもりです」

様々な力関係の中でローカル局は日々伝えるべきことを伝えている。「チャンネルはそのまま」が描くのは、そうした”現場”で頑張る人びとが、力を合わせて困難に立ち向かう姿だ。

局の事情を優先する編成局長に、藤村忠寿氏が演じる小倉部長が、ふだんは甘いもの好きのいい加減そうなキャラクターなのに毅然としてこう言う。

「いまテレビの前にいる人たちがその時見たいものを放送する。それがテレビ局の使命でしょう」

中盤に出てくる雪丸花子作詞の奇妙な歌詞とも共鳴して、ローカル局の存在意義が私たちに力強く伝わってくる。HTBが50周年を迎えて、視聴者に懸命に伝えたい”愛”の中身が、この言葉なのだと思う。

このドラマは北海道での放送と並行して、Netflixで配信されているので、北海道以外の地域の人も見ることができる。

「国内配信なら自前のオンデマンドサービスで自分たちでもできます。Netflixには『水曜どうでしょう』を配信していて、もともと繋がりがありました。私たちの条件としては海外にも配信してもらうこと。21日から、23カ国で配信されます」

各ローカル局での放送はあるのだろうか。

「いま各局さんに売り込んでいる最中です」

取材後の情報では、テレビ埼玉、テレビ山梨、岩手朝日テレビ、長野朝日放送、メ~テレ、チバテレビ、ABCテレビ、熊本朝日放送での放送が決まったそうだ。見たい人は、自分の地域のテレビ局にも働きかけるといいだろう。Twitterでは「#チャンネルはそのままなんとか放送できんのか」というハッシュタグもある。

拙著「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」で筆者は、コンテンツが作り手と受け手の”想い”が繋がることでヒットする様子を取材してまとめている。HTB「水曜どうでしょう」と藤村忠寿氏についても少しだけ触れている。

「チャンネルはそのまま」も同じように、作り手と受け手の”想い”が響き合う姿を描いたドラマであり、またこのドラマも”想い”が拡散して人びとに届こうとしている。

そして”想い”を込めたコンテンツは、”放送圏域”を超えてもっともっと広がることも示している。ローカル局だって面白いものを作り、みんなで力を合わせれば”想い”は広がるのだ。私たちだって力を合わせれば、できないことなんてないのと同じだ。北海道の人は今夜の最終回を見逃さず見て欲しい。全国のみなさんも、放送や配信で見ることができるよう、力を合わせてツイートするといいと思う。

(c)佐々木倫子・小学館/HTB

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

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