Yahoo!ニュース

星野源ファンから教えてもらった「おげんさんといっしょ」ツイート爆発の理由

境治コピーライター/メディアコンサルタント
データセクション社「TV Insight」データ画面より

星野源「おげんさんといっしょ」のツイート数が前代未聞

先週、私はこんな記事を書いた。

前代未聞!星野源「おげんさんといっしょ」が爆発的ツイート数を記録

星野源の初の冠番組「おげんさんといっしょ」が5月4日にNHKで放送されたのだが、その番組中のツイート数が前代未聞の数値となったことを書いた記事だ。TV Insightという分析ツールによると、上の画像の通りツイートした人数が3万人を超え、ツイートの数は12万をオーバーした。去年話題になって視聴率とともにツイート数もうなぎ登りだった「逃げるは恥だが役に立つ」最終回でも、人数で1万9千、ツイート数で5万8千だったので、「おげんさん」がいかに異常値だったかがわかる。しかも視聴率は3.8%だったことから、”深く濃い”視聴者が集まったことが推察できる。

データセクション社 TV Insightより「逃げ恥」のツイートデータ
データセクション社 TV Insightより「逃げ恥」のツイートデータ

その原因を考えるのだがどうにもわからない。星野源の公式ツイッターアカウントは70万ものフォロワーがおり、「おげんさんといっしょ」の番組公式アカウントが短期間でフォロワー数が12万になっていることから、ソーシャルメディアをうまく活用したことは類推できる。だがそれだけなのか?

記事の最後で”番組を見た方はぜひコメント欄やツイッター上で「なぜツイートしたのか」を教えてもらえたらと思う。”と呼びかけたところたくさんの方々からツイートをもらった。

一方、記事を読んだ知人の一人がこの番組を徹底追跡しており、情報をくれた。また録画を見ることもできたので私もどんな番組だったかわかってきた。

そこでみなさんのツイートを紹介しながら知人から得た情報も織り交ぜつつ、ツイート爆発の理由をここで解明してみようと思う。

ポイントは「オールナイトニッポン」での普段からの盛り上がり

いちばん最初にツイートしてきてくれた”いそはむ”さんは、意見をわざわざ画像にしてくれた。

なるほど、ハッシュタグ付きでつぶやくようアピールしたそうだ。

続いて”エンドウくん宮城6/17参戦!”さんと”ごきげんヨシ子(ご機嫌)”さんが絡み合いながら教えてくれた。

お二人が絡み合いつつ教えてくれてわかったのがANNつまりラジオ番組「オールナイトニッポン」の存在だ。

"naom_なおエム”さんもこう言う。

やはりANNでも同じように盛り上がっていて、そのノリが「おげんさん」にも持ってこられていたようだ。

"mutsuki"さんも、長いのでと画像で意見をくれた。

やはりANNを聴いて毎週ツイッターも含めて楽しんでいるファンが、「おげんさん」でも同じように楽しんだ、というのが「ツイート爆発の理由」のようだ。

番組側のうまいソーシャルメディア戦術も功を奏した

一方、知人の分析から主だったポイントを拾っておこう。

事前から放送までの情報の出し方見せ方もよく計算されていた。例えば4月24日、放送のわずか10日前だが、情報を一斉に放っている。例えばこんな記事があちこちに出たのだ。

星野源が「おげんさん」に? NHK生番組『おげんさんといっしょ』で音楽を語る&歌う

それらには明らかに”サザエさん”を意識したヘアスタイルの星野源と、明らかに「おかあさんといっしょ」を意識した番組ロゴからなるビジュアルが共通で使われていた。番組公式アカウントも同時に立ち上がり、やはりそのビジュアルを使っている。

同じ日の夕方には、動画をツイッターで投稿している。この動画もうまい使い方だった。

朝に情報を解禁し、夕方に動画を投稿する。この動画で基本的なことがわかるわけだが、この情報の出し方は見事だ。この動画投稿により一日でフォロワー数が3万に達した。

さらに毎日情報を小出しにしていく。27日には「おげんさん」の相棒役のねずみの声が、今大人気の声優・宮野真守だと明かされた。

これも大きな大きな話題を呼んだ。先ほど紹介できなかったが私へのツイートにも、宮野真守の出演が大きな要素だったことを指摘してくれたものがあった。

この後も予想を超えたキャスティングを少しずつ紹介したり、番組中に使う動画投稿を募集するツイートが続き、放送まで盛り上げていった。各メディアもこぞってそうした情報を記事にしたり、内容を想像したり期待したりする記事を配信し、盛り上がりをサポートしていた。

視聴の”濃度”を測ることができないか?

みなさんのツイートに戻ると、”うあ”さんがまとまったツイートでファンとして分析してくれたのを紹介しよう。

非常によくまとまっている分析だと思う。そして星野源ファンがいかに彼を愛し、また普段からツイッターで楽しさを分かち合っているかがよくわかった。それは何より、星野源自身が”みんなと一緒に楽しみたい”という姿勢をはっきり打ち出しているからだろう。「おげんさんといっしょ」のタイトルには有名番組のもじり以上の意味があるのだ。

ただ、先述の通り「おげんさんといっしょ」の視聴率は3.8%だった。いかにオールナイトニッポンのリスナーが集まっても、視聴率の高い壁は突き崩せなかったのだ。なぜならば視聴率を取るには視聴者の大半を占めるF3、M3(50代以上の男女)に見てもらう必要があるからだ。私は「テレビのおばさん化」という意図的にざらつく言葉でこの点を指摘しているのだが、人数が圧倒的に多く在宅率も高い年配女性に受けないと数字は上がらない。

だが視聴率という「人数」とは別に、「おげんさん」の視聴者は相当”濃い”人たちだったのも間違いない。そこには「人数」とは別の価値があるのではないか。

もし「おげんさん」が民放の番組だったら、そしてこの現象をスポンサーが見たらどうだろう。魅力的な番組だと感じるのではないか。何しろ、星野源が大大大好きで、ファン同士交流し強く結びつき合っているのだ。例えば星野源が出演するCMを流したら、大沸騰し広く拡散もしてくれそうだ。

単純にツイートした人数やツイート数だけでは不足しているだろうが、掘り下げていくとそこには何か新しいテレビ番組の価値が見えてくる気がする。このテーマは、もっともっと追求してみたい。

ということで、ここでツイートを取り上げたみなさん、また取り上げなかったけど意見を寄せてくれた皆さん、どうもありがとうございました。私も星野源クラスターの端っこに加わったつもりで、今後も観察していこうと思います。

コピーライター/メディアコンサルタント

1962年福岡市生まれ。東京大学卒業後、広告会社I&Sに入社しコピーライターになり、93年からフリーランスとして活動。その後、映像制作会社ロボット、ビデオプロモーションに勤務したのち、2013年から再びフリーランスとなり、メディアコンサルタントとして活動中。有料マガジン「テレビとネットの横断業界誌 MediaBorder」発行。著書「拡張するテレビ-広告と動画とコンテンツビジネスの未来」宣伝会議社刊 「爆発的ヒットは”想い”から生まれる」大和書房刊 新著「嫌われモノの広告は再生するか」イーストプレス刊 TVメタデータを作成する株式会社エム・データ顧問研究員

境治の最近の記事