NHKが解明したTBS「逃げ恥」ヒットのメカニズム

3月22日「放送記念日特集・今テレビはどう見られているのか」は秀逸な番組だった

毎年、NHKは3月22日を「放送記念日」として、放送の最前線について番組を作って来た。私は毎年面白く見て来たが、今年の番組は非常に啓発されるものだった。「今テレビはどう見られているか」のタイトルで、テレビ視聴がいかに今大きく変化しているかをいくつかの切り口で解明していた。

目玉は、NHK「真田丸」の屋敷陽太郎プロデューサーと、TBS「逃げるは恥だが役に立つ」の那須田淳プロデューサーが出演したことだ。ネットでの盛り上がりがヒットにつながったと言われる2つのドラマの作り手がテレビに出てきたことがまず興味深いが、NHKの番組にTBSのプロデューサーが出て自分の番組について語るのもなかなか珍しい。正月の「新春TV放談」以外ではなかったと思う。

番組は、若者のテレビ離れの実態を探るところから始まり、テレビ放送をテレビ受像機では見ないが、自分の見たいときにスマホでテレビ番組を多く見ていることを浮かび上がらせた。テレビとネットの関係の最新動向を多角的にあぶり出す秀逸な番組で、ここ数年の「放送記念日特集」の中でも群を抜いて優れた内容だったと思う。

NHKがTBSのドラマのヒットを解析する

中でも面白かったのは、「逃げ恥」がネットでの話題の盛り上がりからリアルタイム視聴率でのヒットにつながったメカニズムを丁寧に解析したパートだ。NHKが民放の番組を分析するなんて前代未聞ではないだろうか。

解析を調査会社インテージに依頼しているのも本格的だ。同社は、”シングルソースパネル”と呼ばれる、個人のメディア接触をテレビなどのマスメディアからPCスマホのネットまで、クロスメディアで追う調査パネルを持つ。それにより、どうやって「逃げ恥」視聴にたどり着いたかが、Aさんのケース、Bさんのケースと個別に把握できるのだ。

番組では三人の調査協力者を実際に取材して、視聴に至るプロセスを聞いている。50代の男性は、Facebookでの友人の投稿をきっかけに第6話から録画で視聴しはじめた。30代の男性は、ネットで恋ダンスが話題になっているのを知り、「ついていこうかな」という気持ちで第4話からやはり録画で見はじめている。

50代の主婦は、第6話放送の二日後の夜中に「逃げ恥」についての記事を読んだ。「視聴者を虜にする”ムズキュン”とは?」というタイトルの記事だ。その夜のうちに、動画サイトで1~6話を視聴。その後、第7話も動画サイトで視聴し、第8話と第10話は見逃し配信で視聴。そしてついに最終話はテレビ受像機でリアルタイム視聴したという。

「動画サイト」と表現していたが、要するにYouTubeかDailymotionつまりは勝手にアップロードされたものだ。途中から「見逃し配信」となっているのはTVerかTBS FREE、公式配信サービスのことだろう。公式サービスは前の週のものしかないので、途中で最初から見るためには「動画サイト」でしか見ることができない。

話題に触れていきなりリアルタイム視聴するわけではない

このレポートにはいくつか驚いた点があった。

私は12月にこんな記事を書いて、ネットでの話題が「逃げ恥」の視聴率を押し上げた可能性が高いと唱えた。

→「『逃げ恥』は、ネットが視聴率をぐいぐい上げた初めてのドラマかもしれない」

記事中で下の図を示して、あくまで推測だがとメカニズムを解説した。

画像

これに対し多くの人が納得してくれた一方で、あくまで番組そのものの魅力で視聴率が伸びたのだと言い続ける人もいた。状況証拠しかない中で「おそらくそうだ」としか言えなかったのだが、NHKの今回の番組は上の図のメカニズムを証明してくれた感がある。

ここでのポイントは、ネットでの話題に接触して興味を持った人は、まず録画して見たりネットで探して視聴することだ。いきなりリアルタイム視聴はしない。だが最後の主婦の例がそうだったように、どこかの時点からリアルタイムで見るようになる人も出てくる。段階を追って視聴率につながるのだ。

そこまでは推測通りとして、意外だったのは出てきた調査対象者が中年以上だったことだ。私が図を描いた時にイメージしていたのは若者だ。スマホに馴染んだ若者たちこそが、ネットの話題に触れてまず動画で見る、という流れを作ると想定していた。中年以上はすぐにリアルタイムで見るだろうしネットの話題の影響はさほどないだろうと思い込んでいた。実際には中年こそがネットに動かされてテレビを見ていたのだ。

若者層はおそらく、最後までネットで見るのだ。どこまでいっても、テレビの前で決められた時間に見ることは、若者にとって「ありえない」行為なのだろう。ネットに影響されてテレビ視聴に移行するのはむしろ中年。実態は私の推測を大きく超えて進んでいる。

その前提でいかに番組を見てもらうか、戦略が必要

番組の中でもう一点、注目すべきは2人のプロデューサーがネットを非常にウォッチしている点だ。

TBS那須田氏は、「恋ダンス」動画についてこう語った。ドラマの”楽しさ”を感じてもらうためにエンディングにダンス映像を置いた。ひょっとしたら第3話あたりでネットに置くような話はしていたが、第1話が終わるとダンス動画がネットでものすごく話題になっていたので、その週のうちに動画を切り出してYouTubeに置いた。スタッフと相談して「恋ダンス」と名付けた。

ネットをウォッチしそこでの反応を見て「恋ダンス」動画を切り出す作戦に出たわけだ。だからこそ、先述のような視聴者の動きが生まれた。

「真田丸」での”石田三成”の影響も紹介された。

ツイッターで”石田三成”を演じて人気のアカウントが、真田丸の放送中に面白いことをつぶやいてますます注目されたのだ。真田丸の人気をネット上で引っ張った立役者といえる。屋敷プロデューサーは6時からのBSでの放送時、8時からの地上波での放送時の両方でツイッターを追っていて、石田三成アカウントの活躍はもちろん気づいて注目していたという。

アカウント主はなんと大学生で、毎週BS放送時に内容をチェックして”つっこみどころ”を発見しておき、地上波放送時にそのツッコミをツイートしていたそうだ。大学生だったことも驚きだが、そこまでやっていたのもびっくりだ。

番組に解説役として出演した博報堂DYメディアパートナーズ・メディア環境研究所所長の吉川昌孝氏は、この石田三成アカウントのように面白い番組を発見して拡散する人びとを「コンテンツハンター」と呼んでいた。そしてその影響を受けて“のっかる”人びとは「ヒットライダー」と呼ぶそうで、研究所の試算では約1160万人いるという。

情報が溢れかえって何が面白いのかわからなくなってしまう時代に、間違いなく面白いものに出会いたい人は、目の肥えた「ハンター」が掘り起こした話題にのっかるのだ。

そんな構造を前提にした時に、コンテンツの送り出し手はただ面白いものを作って世に出せばいいわけではないことを自覚すべきだろう。規定通りの”宣伝活動”をするだけでは目に止めてもらえない。ネットをウォッチして「逃げ恥」で「恋ダンス」を切り出したような戦術を、細かに展開すべきなのだ。そのことに作り手が気づいて、テレビとネットの関係がさらに面白くなることを期待している。